つかの間の休息
昼間の暑さが嘘のように冷え込み、その気温を表すかのように澄んだ星空に真っ白な湯気が立ち上がる。
「ん~!おいしい!モモリさんはいいお嫁さんになるよ!」
「何言っているかわかんないです。とりあえず冷める前に食べてください。没収しますよ」
「辛辣・・・」
モモリはリクのウザがらみをハイハイといなしながらほとんど相手をすることなく手を動かし食事をつづけた。
「にしてもすげぇなこれ。こんなに具材に味のしみたシチューは店でも食べられないぞ」
「これは・・・チーズを削って入れているのかね?少しとろみがついていて具によく絡んでいるよ」
ヒロもソウも感心しながら料理に舌鼓を打っている。
「白コショウを少し入れているので香ばしさもあるかと思います」
「あ、この香りか!もうおいしすぎて手が止まらないよ~!10回くらいお代わりしようっと!」
三人があまりにも美味しそうな様子を見せるものだから、モモリもほほをほころばせた。
「・・・ふ、そんなにたくさんはないですよ。機会と材料があればまた作ってあげますから」
その様子はいつもボーっとしているモモリの様子からは想像できないほど、小さな白い野花のつぼみが開くようだった。
「・・・わらった」
「?」
「モモリさんそんな優しく笑えるんだね」
「喧嘩売ってます?」
「ハイスイマセン」
リクとモモリのコントのようなやり取りをソウはニコニコと見守っている。
「仲が良さそうで何よりだよ。いつか二人の結婚式にも呼んでもらおうかな」
「ソウさん戯言言ってる暇あったら食事してください。あなたも没収されたいんですか」
「戯言・・・」
「何でもいいけどよ、もらった物資の確認をしねーか?」
ヒロの言葉に三人はハッとする。
「そうだったね。モモリくん、例の物をここに出してくれ」
「はーい」
モモリは魔法鞄を取り出すと迷うことなく中に手を入れた。
「えーと、飲料水が一週間分、高等干し肉三百枚、ドライフルーツまである!すごい!」
「この香辛料、一般には出回らないやつじゃない!?初めて見た!」
「おや、このドライリーフは錬金術に仕えるやつじゃないかい?こんなにたくさん・・・あとで僕の荷物にも分けてもらおうかな」
「パンまで・・・この量が入るなんてさすが高級品。魔法鞄の容量すごいな・・・」
四人は各々出てくるアイテムを一つ一つ手に取り目を輝かせた。
食事も大いに盛り上がり、鍋もあっという間に空になっていった。
夜が更けていくのを告げるように、骨の浮き出た怪鳥が大きな鳴き声を上げた。
「そういえば、昼間の魔法の件なのだが、モモリくん今から教えてもらっていいかね」
ソウの言葉に、水魔法で鍋を洗っていたモモリは手を止めて向き直った。
「あぁ、全自動冷暖微風のことですか?子供の頃にお母さんが教えてくれた混合魔法なんで少しコツがいるんです」
ソウとモモリの話がいよいよ盛り上がっているようすを少し面白くないといったふうに視線を向けるリクの肩に、ヒロはそっと手を置いた。
魔法談義が佳境に入った頃、空が淡く色を変えていくのを見ながらモモリは小さくあくびをした。
足元には風魔法で砂の上に描かれた魔法陣がこれでもかと並んでいる。
教科書通りのものから、学術書にもない完全オリジナルのものまで。
魔法史に長く刻まれるべきであろう貴重な魔法陣がいくつも、風が吹いたらいとも簡単に消えてしまいそうな砂の上にあるのは何とも異常で非常識だ。
「おや、もう朝かね」
「ふあぁ・・・時間がたつのは本当に早いですねぇ・・・今日はどのくらい進みますか?」
一睡もしていない二人がそのまま旅の準備を始めたのを見て、テントから出てきたばかりのヒロとリクは顔を洗う手を思わず止めてまで慌てて止めに入った。
「二人とも!?休んでないよね!?」
「お前ら寝ろ!!!!!!」
二人の必死な様子を見て、モモリもソウも全く気にすることなくキョトンとした様子で極めて冷静に同時に杖を振った。
「うわっ!寒っ!」
「雪山かよここ!?」
辺り一面強い吹雪が舞う。まるで大陸にある大きな雪山で遭難したときの悪天候のような激しさに、思わず砂漠の上に立っていることを忘れてしまいそうだ。
「よし、目が覚めた」
「うむ。やはり混合魔法の威力はすごいなぁ」
吹雪が収まると、すっかり目が覚めた様子の二人が楽しそうに談笑している姿が現れる。
「今何が起きた?」
「さぁ・・・」
「リクさん、ヒロさん、何ボーっと突っ立てるんですか。行きますよ!」
「え、あっはーい!待ってよモモリさーん!」
モモリの声にまるで飼い主に尻尾を振る大型犬のように走り寄るリクとため息つきながらそのあとを追うヒロの姿を、じっと見る何かの姿があることに、4人は誰も気が付かなかった。




