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ソウ「真実とは、意外とその辺に転がっているものなのだよ」

夢を見ていた。


『大きくなったらお兄ちゃんと冒険する!』

『わかった。その時にこの外套は返してくれよな!』


指切りをしたあの大きな手は、とてもとても暖かくて、怖い気持ちはいつの間にか消えていたっけ。


約束通り冒険者になるために、まずはくいっぱぐれないようにと両親に無理を言って魔術研究所付属学院・・・略して魔研付に進学した。


ここまではよかった。


髪や目の色が漆黒ということは学院を立ち上げた歴史的人物に名を連ねる存在になりうるなんて先生たちに入学早々謎に持ち上げられたせいで、座学の試験のたびにクラスメイトから悪口を言われるようになった。


『実は髪を染めてるんじゃないの?』

『魔法の実技だけ点数が高いんですもの、きっと幻術魔法でも使って目の色も偽ってるに決まってる。』

『何のためにここに来たんだあいつ。』


うるさいうるさい。実技が高成績なのは測定不能なだけで、私は何も特別なことなんてしてない。


何も知らない癖に!


モモリはまるで高度な映像歌劇を見ていたような、そんな気持ちで勢いよく体を起こした。


「ーあ、起きた。」


聞き覚えのある声のする方に目をやれば、そこには三人の男たちが優雅にティータイムをしている風景が広がっている。


「・・・?」


「あぁ。すまない。水と茶器を借りていたよ。」


黒髪のエルフ・・・ソウが君も飲むかい?と声をかけると、モモリはだるそうにふらつく足取りで空いている椅子に座った。


「僕の母親がいつも入れてくれた薬草茶だ。魔力回復の手助けをしてくれるはずさ。」

「ありがとうございぁす・・・おいし・・・ふしぎなあじ・・・」

「エルフの国、聖・リリーウン公国の山奥に自生している薬草でね、体内の魔力の循環の手助けをする効果がある。僕の母は国家お抱えの研究室長だったからいろいろ僕にも知識を分け与えてくれたんだ。」


モモリはソウの言葉にハッとする。エルフと言えば長くとがった耳と美しい容姿、光り輝く金の髪・・・


モモリの視線に気が付いたソウが口を開く前に、ヒロが口をはさんできた。


「言っとくがソウは純エルフだぞ。この髪色は生まれつきだ。俺みたいな半端もんと違って髪の色さえごまかせればそれなりの地位にいてもおかしくないんだ。変な勘繰りはやめてくれよ」


ヒロは今にも短剣を抜いて切りかかる準備はできているとでも言いたげな様子でにらみつけるも、モモリはお茶を一口啜り、


「エルラードの国家専属魔術師しか着られないローブを着てますし、本当にすごいんですねぇ・・・」


とだけ言うと、机の引き出しから、きれいな装飾が施された缶を取り出した。


「あ、そうだ。この前もらったクッキーなんですけど食べます?」


「・・・ぷ。あっははははは!」


その一連のやり取りを見ていたリクが噴き出した。


「んだよリク、急に笑うな気持ちわりい。」

「え、ちょっとそれはひどくなぁい?」

「本当のことだろーが抱き着くなむさくるしい」

「あ、モモリさん俺クッキー食べたい。あーんしてもらえる?」


リクはヒロにじゃれつくのをいったん止め、そのままの姿勢で問いかける。

しかしモモリはその言葉に魔物のヒナの産声のような素っ頓狂な声を出した。


「へぁ!?な、いや、テーブルに置くのでテキトーにつまんでもらえたら・・・」


その返しに今度はヒロが口の端で笑う。


「ふられたな。」

「そんな~」


室内が笑い声に包まれる。

その様子になれないのか、モモリは少し恥ずかしそうにぎこちない笑顔を作った。


「そういえば時にモモリくん。君は魔法実技だけ成績優秀だったと聞いたが・・・」


ソウの言葉にまたモモリの顔が引きつる。


「あ、あー、座学はからっきしだったもので・・・」

「なるほど。しかしこの部屋にはたくさんの書物があるようだが・・・」

「み、見たの?」

「いや、家主の許可なく内容までは見ないが、背表紙のタイトルからして、半分は恋愛小説、もう半分が史実をもとにした冒険譚だと推測したものでね。決して頭は悪くなさそうだと判断したまでさ。」


ソウの言葉に顔を真っ赤にさせたモモリは、消え入りそうな声で答えた。


「・・・は」

「うん?」

「魔法史と民俗学史は好きで・・・でも薬草学とか魔法開発学みたいな計算が入ったやつは苦手で・・・」

「苦手と言ったって入試で受かるくらいにはできるのではないかね?」

「実技一点突破しました・・・」


モモリの背後で聞いていたヒロが、「それ通用すんのかよ・・・」とつぶやくのが聞こえる。


「ちなみに座学試験各科目の最低点は」

「魔術書解読学77点、薬草学10点、魔法史80点、民俗学史67点、魔法開発学5点、薬品調合学2点、算術0点・・・」


モモリの消え入りそうな声に三人とも絶句した。

しばらくの沈黙の後、リクがモモリの肩にぽんと手を置いた。


「えーと、その、すまん。」

「別に、もう卒業しましたし、魔女になる気ないので・・・」


モモリはそう言ってまた薬草茶を一口飲んだ。


「ふむ、典型的な文系だね。」

「ぶん殴る系の間違いじゃねーの?」

「うまいこと言わないでくれ、ちょっとおもしろい。」


三人はなぜかずっとくだらない話ばかりして、なかなか家から出ていかない。忘れ物の帽子も受け取ったし、勧誘も断った。見たいというので魔法も見せたというのに。


「あの・・・お三方はいつまでここにいるつもりで・・・?」


モモリが問いかけると、リクはいい笑顔で答える。


「モモリさんが勧誘に首を縦に振るまで!」


その笑顔があまりにまぶしく、モモリは自らの大きな帽子で視界を遮った。


「うわ・・・まぶしいんで座ってもらえます?」

「待って少し傷ついた。」

「知りませんよ。それよりほかに要件ないんですか?勧誘はお断りします。」


モモリのかたくなな態度を前に、口を開いたのはソウだった。


「良ければ、君の魔法制御、僕がなんとかできるかもしれない。君さえよければ、なんだが。」


ソウはそれだけ言うと、袖の中に隠し持っていた短い杖で空中に何やら絵を描き始めた。


「この世界の人間は、髪や瞳の色の濃さで保有魔力量が決まるのは、君も知っているだろう?

君の髪も瞳も真っ黒、これがどんな意味かは、当然分かっているよね?」

「はい・・・さんざんそれで期待されたんで。」

「でも実は半分不正解で、この色の濃さが表すのは、体に対しての保有量の密度なんだ。

魔力が多くても、高身長だったり、筋肉が付きやすい人間は、そこまで髪の色が濃くならない。」

「はぁ。」

「つまり、そもそも魔力量が多いのはそうなんだけれど、君の場合は体のサイズに対して体内の魔力が多すぎて、ずっと循環が停滞している状態だね。」

「なんだかお医者さんみたいなこと言うんですね。」

「魔術師や魔女は実際医者と同じような仕事をするからね。」


ふたりの会話についていけないのか、ヒロは武器の手入れをし始める。リクはわかっているのかわかっていないのか微妙な表情で話を聞いては目を輝かせうんうんとうなずいている。


「おそらく君が初級魔法であれだけの威力になってしまうのは、停滞してせき止められた魔力がここぞとばかりに一斉放射されてしまうことにあるんじゃないかな。だから一日に使える魔法の回数も少ないし、魔法を撃つと眠くなってしまう。

まぁ後は君のワードチョイスと想像力もあるのだけれど。」

「えっ」

「魔法を使うにはセンスと想像力が必要なのは君もよく知ってるだろう?同じ魔法でもより想像しやすい具体的な言葉を使うことで、上限や個人差和あれどどんな魔力量の人でも簡単に高威力の魔法を放つことができる。

君の詠唱を聞いて感じたんだが、君は本を読んだり空想するのが好きなことが災いして、無意識に魔法をグレードアップしているんだと思うよ。」


ソウはついておいでとだけ言うと、外に出て行った。

モモリがそれについていくと、ソウは先ほどの杖を掲げて詠唱を始めた。


「炎よ、妖精の舞のようにきらめきを散らせ。火球(ファイヤーボール)!」


ソウの手の上に炎の玉が浮かび上がった。サイズは小さくともその威力は十分すぎるほど伝わってくる。

ソウはその火球を一度消し、もう一度杖を構える。


「これをぶつけるときの威力は、せいぜいコボルトを倒せるくらいだ。・・・そしてこっちが、イフリートの加護の元、支配の歌を響かせよ!怒りし炎神の拳(ファイヤーボール)!」


すると、先ほどより数百倍はあろうか巨大な火球が現れた。


「これが今から君に覚えてもらう魔力制御だよ。」


ソウはにっこりと笑いながら語り掛けるが、モモリは下を向いたままだ。


「私には無理・・・絶対やらかしちゃう・・・また学生の時みたいにあちこち壊してみんなに迷惑かけたり怪我をさせちゃう・・・」


泣きそうな声がきこえる。

正確には泣くのを我慢しているような声だが。


「まあまあ、モモリさんまだ20代でしょ?俺らよりずっと若いんだから、大丈夫、まだ時間ある。やりなおせるよ」


リクはそう言うと、モモリの頭をそっと撫でた。


「え、皆さん、いったいおいくつ・・・」


モモリの問いに、リクはエッヘンと効果音が付きそうなくらい自信満々に答えた。


「俺はじいちゃんがエルフだからか先祖返りで寿命だけ長いんだ!530歳くらいかな?ソウが200?だっけ。さっき言ってた通り純エルフ。んで、ヒロは600歳超えてるよね!」

「悪かったな年寄りで。半分獣人だ。」

「年齢には縛られない主義なんでね。でも200歳は超えてるのは確かだよ。」

「と、そんな感じ!」


リクは、屈託のない笑顔を見せるが、モモリはそれに反して顔色をどんどん悪くさせていった。


「年上・・・・・ほんっとうにすいません数々の無礼をお許しくださいもしお気に召さなければ煮るなり焼くなり煎じるなり好きになさっていただければ・・・」


モモリが急に土下座し呪文のように謝罪の言葉をつらつらと口にし始める。

三人とも困惑しながらそれを止めようとするも一向に彼女は顔を上げる気配がない。


「ちょっと待って待って落ち着いて!?」

「おい マジかよ。」

「また興味深い行動をしてくれるじゃないか。」



この後モモリの顔を上げさせるのに数時間かかったことは、言うまでもない。


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