真実
とある平原の真ん中にある家には、両親と娘の三人家族が住んでいた。
その家は建物こそ小さかったが、たぐいまれなる水魔法の使い手が営む大農園のオーナーが家族と住む家だった。
ある日、オーナーである父親がいつも通り畑の様子を見に行くと、魔物を引き連れた盗賊団と出くわした。
盗賊団は父親を殺し、母親を殺し、作物を根こそぎ奪うと、畑や娘が隠れていた家に火を放った。
「良いというまで出てはいけない」という母親との最後の約束を守り続けた娘はその代償として全身に消えない傷を残した。
近隣住民は事情を知っているため同情で助けてはくれたが、それだって限界がある。
だんだん助けてくれ無くなるどころか、事情を知らない子供たちからは化物と石を投げられた。
少女は村を出ざるをえなかった。
体も顔も隠して、物乞いでなんとか食いつないでいく毎日に嫌気がさしていたころ、彼女はひとりの少女と出会った。
オリヴィアと名乗ったその少女は、かたくなに名乗ろうとしない覆面の子供に何度も話しかけた。
その時すでに聖女のような扱いを受けていたオリヴィアは、覆面の子供の前でだけ、素の姿でのびのびと笑うことができたのだが、そんなこと知る由もない少女はかたくなに心を開かなかった。
ある日、いつもの物乞いをしていると、町の大柄な子供がやってきた体を隠していた古いローブを奪い取った。
その下から出てきた焼けただれ痣になってしまった皮膚を見た町の人たちは化物が住み着いているとおそれ、それからはいくら物乞いをしても助けてもらえなくなった。
少女は絶望した。いつの間にか家族の楽しい記憶すら忘れてしまうほどに。
私は生まれながらに醜いのだ、と。
しかしオリヴィアはそんな彼女にも「あなたはあなたのままでいいんだよ」と優しく微笑みを向けた。
それをいいと思わない大人はたくさんいるわけで。
「オリヴィア、だめだよ。あんな体中に痣のある汚い子供、どんな病気を持っているかわからないんだ。君の美しい肌が同じようになってしまうなんて、村のみんなも悲しんでしまうからね。」
権力者の息子は周りにも聞こえるほどの大きな声で言うと、オリヴィアに「聖女の修行がある」と言い森の魔女の元に預けた。
少女はその言葉を聞いてから、人里に近づくことをやめた。
それからしばらくたったある日、腹をすかしていよいよ倒れそうになった少女に、黒髪の魔女が話しかけてきたのだ。
魔女は魔物の合成実験の材料を探している途中だったので、少女は恰好の獲物だったのだろう。
魔女は少女に新しいからだを与え、魔法まで授けた。
父親が水魔法の使い手だったこともあり、水に親和性の高い蛇の魔物の体はよくなじんだ。
桜色のうろこは彼女な髪の色とマッチして美しい光を放った。
「人の姿に変身するにはまだ修行が必要だから、くれぐれも人前に出てはいけないよ?私が保護者と名乗り出たとて、この見た目だ。良くて姉妹だと思われてしまうだろうからね。」
魔女は優しくそう言ってほほ笑んだ。
それから何年たっただろうか。魔物の姿になってからは時間の流れが遅く感じるようになった少女は、幻影魔法で人の足に見えるようごまかして、いつも通り本屋に向かった。
最近入荷したという美しい絵柄の本に手を伸ばす。
その本は森の奥深くにある石造りの塔に幽閉されている美しい金色の髪をもつお姫様の物語だった。
少女はその本の物語を見て嫌な予感がした。
気が付いた時には師匠である魔女のことを呼びに行っていた。
「森がなくなればいいんじゃない?」
魔女はそう言ってまた昼寝を再開した。
その日の夜だ。森が炎に包まれたのは。
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「ーとまあ、こんなところかな?この国に伝わるお話の前日譚だ。」
辺りがしぃんと静まり返る。
「じゃぁ、あのニュンペイとかいうエキドナは・・・」
「元人間だね。おそらく初代女王と戦った後に魔王軍に入ったのではないかな?精霊の守護者は相打ちになった後、エキドナの方は姿が見えなかったと言っていたから混乱に乗じて魔女か魔王自身が回収したんだろう。
決闘の場に初代女王のみ残されていたのを見た町の住人が、勝ったのだと、倒したのだと思い込んで大事になった末にできた物語なのだろう」
勇者伝説よりもこの物語の方が古いという証拠もあったからね。と、軽い様子でソウが話す。
「・・・結構重大なこと言わなかったか?」
「もういい。いちいち驚いていたららちが明かない。」
オリーヴは考えるのを諦めた様子で目の前に出されている紅茶に口を付けた。
「どうした辛気臭い空気を醸し出して!勝利をまずは喜ばないか!」
バンと大きな音がして扉が開いた。
全員が驚いて音の方を向くと、女王が酒を片手に立っていた。
「女王様・・・」
「やっと書類が片付いた!男爵も片付けた!肩の荷が下りたのだ!明るいうちから飲んでも罰は当たらない!」
女王はけらけらと笑いながら酒を一気に飲み干した。
「・・・本当に女王様なんだよね?」
リクもさすがに困惑した様子でその様子を見ている。
「そんなことよりだ。君たち・・・モモリはまだ休んでいるのか。まぁ仕方がない。沿岸部に属する砂漠の集落で、霧祓いの灯を数十年ぶりに使用して霧の向こうの国との交流を再開するらしいという情報が手に入ってな。君たち、その国に用があるのではないか?」
リクとヒロはびくりと肩を震わせた。
「やはりな。古代魔法が使える黒髪黒目の娘など連れているのだから歴史に詳しい者であればすぐ気が付くぞ。世界にはあの辺りの歴史について興味津々な学者がごまんといるんだ。捕まったら大変だろう?何堂々と連れ歩いてるんだ。」
女王の言葉にハッとしてソウに二人が視線を向けるも、まるで関係ないとでも言いたげクッキーに手を伸ばしている。
「ふむ、これは料理長のお手製かね」
「何のんきにティータイムはじめてんだァ!!!」
すっかり晴れ渡った空に、ヒロの怒りの声がこだました。




