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愛するもののために

ニュンペイと名乗った蛇女は、周囲の魔力を吸い取るのを中断し、目の前に立つ二人の人間に目をやった。


(ほう、魔王様に忌まわしき一撃を与えた人間の匂いにそっくりな魔法使いと、あれは・・・聖神の加護を受けた鎧か?中身は大したことはないがずいぶんと厄介な・・・まぁいい。あの剣士の方から食らってやるか)


「豺ア豺オ縺ェ繧区ッ帝悸」


ニュンペィは二人には聞き取れない言語で高速詠唱を行うと、その口から濃い紫色の霧を自らの手に吹きかけた。

その霧は次第に形を作っていき、紫色の大剣に姿を変えた。


「なんだあれは・・・魔法なのか・・・?」


「わかんないです・・・少なくとも私はあんなの習った覚えないです・・・」


《我が体内の毒を固めたものだからな。魔法など使っておらん。》


ニュンペィは鼻をふんと鳴らすと恐ろしい速さでオリーヴに向かって飛び出していった。


「っ、くっ」


「オリーヴさん!」


激しく金属どうしがぶつかる音がする。

不自然なほど暗くなったあたりに火花が光を散らす。

しかし、その小さな体には似つかわしくない重量がオリーヴを襲っているようで、それが魔力なのか純粋な力なのかわからないままその一撃を受けとめた。

間一髪でその太刀筋を見きり自らの剣で受けたオリーヴは、その目の前で信じられないものを目にした。


「剣が・・・!?」


ニュンペィの口元がにたりとゆがむ。


オリーヴの剣は、目の前でドロドロに溶けだし、真っ二つになってしまったのだ。


《我が体内の毒で作られたのだから、人間ふぜいが作り出した金属の武器など意味がないのは当たり前であろう?今のうちに降伏するのなら、苦しまずに逝かせてやってもいい》


金属が地面の石畳とぶつかり甲高い音を出した。


「貴様ァ!!」


「オリーヴさん、待って!」


ニュンペイとオリーヴの間を遮るように分厚い植物の壁が地面から出現した。


「な、モモリか!?」

「オリーヴさん、今感情的になったらだめだよ。しんじゃうよぉ」


恐怖からなのか、涙でぐしょぐしょになっているモモリが鼻水をすすりながらオリーヴの肩を揺さぶる。


「おおお落ち着け、モモリこそ落ち着け?大丈夫、大丈夫だから、な?」

「本当・・・?」

「本当だ。」


「おや、二人とも無事だったようだね。」


「すまん。ソウが気になることがあるとか言い出して勝手にいなくなっちまって・・・遅くなった。」


タイミングよく、ソウとヒロが姿を現した。

しかしそこにリクの姿はない。


「そういえばリクは・・・?」


ヒロはそう言いながらあたりを見回したが、肝心のリクの姿はない。どさくさに紛れて逃げたのか、いや、モモリの前でそんなことするような奴ではないと思い再度視線を周囲に戻したそのときだった。


モモリが作った植物の壁の向こうから何やら破壊音が響き渡った。


「っおりゃぁぁ!俺に一切目もくれないのはどういうことだよ!」


大きな破壊音とともに、少し怒りの込められたリクの声も聞こえてくる。


《なんだこやつは。たかだか数百年しか生きていないハーフエルフふぜいが何を怒っているのか》


ニュンペィはその大胆な太刀筋をひょいとかわすと鼻で笑った。


「無視すんなァ!!!」


念話が聞こえていないのかリクはひとりでキレながら地団駄を踏んでいる。


「とりあえずリクをおとりにしているあいだに終わらせるか。ソウからオリーヴに話があるらしいぞ」



「端的にいうと、オリヴィア嬢の身に着けている鎧は、君があこがれていた初代女王のものと同一のものだ。」



シンとあたりが沈黙に包み込まれる。背後の戦闘音すら自然の音のように遠く感じほどだ。


「ハァ!?」


「その鎧はどうやって手に入れたんだい?」


「コレか?この鎧は、成人したときの祝いにと教会から賜ったんだ。まさかそんな・・・」


「本来なら世界遺産として厳重に保存されるべきものなんだだが、あとで教会のものに聞いてみようか。・・・それよりもまずは・・・」


ソウは先ほどまでの穏やかな様子から一変して厳しい目を壁の向こうに向けた。


「アレを倒すのに必要なものは、1神聖魔法、2圧倒的な魔力差の攻撃、3浄化だ。しかし、おそらくモモリくんの魔力でもとんとんだろうね。」


「え、モモリですら同等なのか!?」


「難しいね。であれば二つ目はまず無理。そうなると、神聖魔法か浄化。これはオリヴィア嬢、君に分がある。」


「私・・・?」


ソウはうなずいて魔法鞄(マジックバッグ)から一振りの剣を取り出した。

その剣は専門外であるはずのヒロの目にすらうっすら神聖魔法の魔法文字が浮き出て見える。

剣の表面は虹色の透明な光に包まれているようで薄らくらいあたりを白い光で照らした。


「これは・・・」

「君のあこがれていた、あの『白銀の剣』さ。教会から借りてきた。君の手によくなじむと思うから持ってみたまえ」


オリーヴはその光に吸い寄せられるように剣に手をかけた。


その瞬間、あたりの闇がはじけるように消え去り、モモリの植物の防護壁すらも消滅した。


「それは・・・聖剣士か貴様ァ!!」


焦ったような声が聞こえてくる。念話をとばす余裕すらないのか、唾を飛ばしながら大きな声があたりにこだました。


「その剣を今すぐどっかにやれ!」


「なんだあの焦りよう。この剣にトラウマでもあるのか・・・?」


「なんか見覚えのある顔だと思った。貴様あの時の加護者か!こうしてみると何も美しくないではないか!」


ニュンペィの目が血走っている様子を見て、モモリは小声でオリーヴに声をかけた。


「おとぎ話の悪い魔女ってまさか・・・」


「おそらくあのエキドナだろう。エキドナが眷属として仕えていたというメデューサも元々は海の神をも魅了した美女だったという言い伝えもある。蛇に縁のある化物は美しさに敏感なのかもしれないね。」


オリーヴの代わりにソウが答える。


剣の光は天を貫いてから、まるで元の場所に戻るかのようにオリーヴの胸元に収まった。


光が消えると白百合の鎧の中心部に水晶宝石がはめ込まれていた。



「あいつを倒せるのは君だけだ。任せてもいいかい?」


「あぁ。」


「私もできるサポートする!いつでも指示して!」


「おれはリクにも伝えてくる。」


「僕も可能な限りサポートするよ。」



「あぁ、わかった。偉大なる初代女王に誓って宣言する。次期女王にして国家龍騎士団三番隊隊長オリヴィア・リリィ・オーリュードは、この国をあだなす悪しきものを討伐する!」


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