爆発の中の決意
城下町から少し離れた森の中に大きな爆発音が響き渡った。
その音と振動は城下町の人々の恐怖をあおるには十分で、王都はすぐパニックに陥った。
「どうした!?ついに戦争が始まったのか!?」
「やはり予言は当たったんだ!魔王が攻めてきた!!」
「男爵に味方したから王家が敵を一掃しようとしてるんだ!!」
「魔王軍が攻めてきたなんて!もうこの国は終わりだ!」
「皆の者!焦るな!」
辺りに張りつめた空気が充満鶴。
民衆が声のする方に視線をうつすと、魔法でせり上げられた岩の建造物の上に、白百合の鎧に身を包んだ女性が立っている。オリーヴだ。
「先ほど偵察隊から連絡が入った!魔王の手下を名乗る闇の魔法使いが魔王を復活させるべくこの国に向かっている!威力の高い範囲魔法を使うらしいので国民は即刻王城のシェルターに向かってくれ!」
オリーヴの声に、ざわつく国民たちはまだ困惑した様子で立ち尽くしている。
「ここに魔王様への供物がたくさんあるぞ!」
「ほんとうだなぁ?」
二人の男の声がどこからか聞こえてくる。
それはまるで脳内に語り掛けているかのようにこだましており、何とも邪悪な雰囲気を醸し出している。
「われらは魔王軍幹部、ハクト様の手下!」
「・・・ちっ・・・きたる魔王様の復活の供物になること、光栄に思え、人間」
大きな装飾のついた斧をもった男と、赤と黒の髪をもつ半獣人はボロボロのフードを深くかぶっていて表情が読めない。
二人の発する言葉はなにかエフェクトがかかっているのか、脳内にこだまするような重苦しい雰囲気が感じられる。
ドーン!
城下町を囲う石壁が大きな音を立てて破壊された。
「わたしは魔王軍幹部!ハクトだ!我が大魔法、獄炎球でこの国もろとも吹き飛ばし、魔王様の新たな王城をここに建設するのだァ!」
小柄な少女の姿の何かが空に浮かんでいる。
真っ黒なローブの中は深淵が広がり、こちらも表情はわからない。
「て、手始めにまずは奴隷と供物を分けねばならないな。我こそは強いというやつ、我と戦う権利をやろう!この手で供物に料理してやる!」
ハクトと名乗った少女は杖を空中に掲げると大きな火球が爆発し、爆風が民衆を襲った。
その爆風を浴びた民衆は、途端に絶叫し我先に逃げようと王城の方に動き出した。
「嫌だ!死にたくない!!」
「ガキが!邪魔だ!」
「いやぁぁぁぁ!!!」
「落ち着け!けが人は親衛隊、子供は竜騎士隊員が対処するんだ!親とすぐ会わせてやれるよう動け!」
オリーヴの号令に迅速に騎士団が対応していく。
「誰一人死人は出すな!反乱軍だろうと我が国の民であることは変わりない!差別せず、全員を助けよ!」
「そんなことをしたところで、か弱い女騎士が我にかなうとおもっているのかぁ!」
少女の言葉にオリーヴは
向き直り、白銀の剣を構えた。
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あれから何時間たっただろうか。
辺りは爆発による大穴だらけになっていて、戦いの激しさを物語っている。
「ふははは!そのような攻撃はきかん!」
ハクト・・・もとい変装したモモリはなんだか楽しくなってきたのかノリノリでアドリブのセリフを叫んでいる。
「爆発しかさせられないのに幹部とは、魔王軍も地に落ちたなぁ!」
オリーヴがそう叫んだその瞬間だった。
どぉぉぉぉぉぉぉん!
城の上空に今まで以上の大きな爆発が起きた。
「お、おい!約束と違う!城は狙わない決まりだっただろう!?」
「私あっちに魔法放ってないよ!!」
さすがに予想外ということで爆発していた方向に視線を向けると、恐ろしく髪の長い、蛇のような生物が宙に浮いていた。
《貴様ら、黙ってみていれば魔王様を愚弄するとは・・・死をもって償え!》
周りの人間には聞こえていないのか、オリーヴとモモリの脳にだ思念を送っているのか、こだまするようなその声は、先ほど騎士団に連れられて行ったはずの一人の幼女から発せられていた。
細い瞳孔が二人をじっと見据えている。
《黙って待っていれば勝手に滅びていくかと待っていれば、好き勝手言いおって》
煙が晴れると、その少女の下半身は深紅の蛇にかわっており、頬もあちこち鱗のようにひび割れている。
《われはニュンペィ、魔王軍幹部、龍蛇軍の将!魔蛇乙女のニュンペイだ。貴様らは特別にわれの第一親衛隊長にしてやろう》
ニュンペイと名乗った少女は細い瞳孔をさらに細くさせ、あたりの魔力を吸い取っていく。
「エキドナか・・・アレはやばいぞ、魔力を吸い取りつくして魔法を放たれでもしたらあたり一体焼け野原だ。・・・協力してくれるか?モモリ」
「もちろん。ただ、まだ制御が上手くいかないときがあるので巻き込まれないようにだけ気を付けてください。
みんなも!」
「しゃーねぇな。ソウを呼んでくる。」
「さすがアサシン。転移魔法の展開早いなぁ。・・・さぁて、俺もやりますか。」
リクは手に持っていた斧をその辺に放り投げると、魔法鞄から大剣を取り出し構えた。
「私はこの国が大好きなんだ」
オリーヴの声が震えている。
「この国を自らの手で守るのは、小さいころからの私の夢だ・・・!だからこそ大人になったら大賢者様について国を出て旅をして、各国を回りたかった。
いろんなことを学んで、この国に貢献したかったんだ。だから、だから・・・!」
オリーヴはキッとニュンペイを睨むと、剣を握る手の力を強めた。
「ー絶対に守り抜く。」