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準備と書いて茶番と読む。

「そういえば、幼少期の名前はリリィなんだよな?なのになんでソウはオリーヴのことを今の名前で呼んでるんだ?20年間あってもいないんだろ?成人して正式な名前を賜ったのって数年前なはずだし、時間軸が合わねーだろ」


ヒロの問いに、ソウはオリーヴの方に目をやった。

オリーヴはソウの考えた作戦に穴がないか、おかしな点はないか、紙に書き起こしながら何やら頭を抱えている。


「そうだね・・・おとぎ話をひとつ、聞いてくれるかい?」


____


これはこの国ができるきっかけになった、ひとりの女騎士のお話


あるところに、絹のように美しい金色の髪を持つ少女がいた。

彼女は生まれながらに自らが住む森を守護する女神の加護と寵愛をうけ、強く美しく成長した。

その美しさの噂はあっという間に大陸に広がり、その噂は魔族の耳にすら届いた。

しかしある日、その美しさに嫉妬をした魔王に仕える悪い魔女が、少女の住む森に兵を向けた。

木々は切り倒され、火を放たれた森はあっという間に血と灰にまみれた。

森に住む精霊も動物もその惨状に絶望するほどにひどいありさまだったという。

悪い魔女は高笑いをしながら少女の家を襲おうとしたが、少女は決して絶望することはなく、女神から授けられた白百合の鎧と白銀の剣をその身に装備し立ち向かった。

長い戦いの末、少女は悪い魔女を打ち倒すと、その剣を天に掲げ、勝利を宣言した。

少女はその剣を決して私利私欲のためには使わないと宣言し、再度天に掲げると、町の復興のための指揮をとった。

民衆は彼女の指揮のもと団結し、復興に力を入れた。その結果、瞬く間に元通りになった町には活気が戻り、人々の笑顔も増えていった。

救世主になった少女は女王として町を大きくしていき、困っている人や故郷を焼かれ追われた人々を受け入れ始めた。それこそ様々_亜人や獣人、そのハーフなど様々な種族もまんべんなく、国に迎え入れた。

そして町は街になり、いつしか大きな国となった。


その初代女王の名前が、オリヴィア___





「と、この国に昔からある昔話はおしまいだ。この物語が彼女の昔からのお気に入りでね。母親である御妃さまに何度も聞かせてほしいとせがんでいたのを覚えているよ。」


「・・・おい、大賢者サマァ?何を言ペラペラと喋っているんだ?」


「おや、作戦の見直しは終わったのかねオリヴィア嬢」


ソウの頭をしっかりとわしづかみし、引きつった笑顔を向けたオリーヴの声が震えている。


「ただの昔話さ。気にしないでくれ。・・・んん、いい香りの茶葉だね。さすが王室御用達だ。」


「私が気にする!もう作戦なんてどうでもいい!私がお前を切り捨てる!」


顔を真っ赤に染め剣を振り回すオリーヴの太刀筋をすべてよけながら、表情を一切変えず、ソウは言葉をつづけた。


「オリヴィア嬢は『大人になったらオリヴィアって名前を賜るんだ!もうお母様にもお願いしてるの!だからみんな、これからわたしのことはオリヴィアって呼びなさい!』と言いながら使用人だけでなく王宮魔術師や王宮に来ていた貴族にまで付きまとっていたよ。懐かしいね、こうやって物語の真似事もよく・・・」


「いますぐその口を閉じろぉ!」


もはや怒りを通り越して泣きそうな声になっているオリーヴとそれはそれは楽しそうに笑顔のまま高速で繰り出される太刀筋をすべて避けきっているソウの姿はもはやコントのようで、誰もそこに口をはさむ余地すらない。


「二人の動きが速すぎて何も見えねぇ・・・」

「しかたないわね、ふたりとも。さぁさぁ時間ももったいないし、あの子たちは放っておいて先に作戦会議といきましょう。」


女王はやれやれといった様子で長机の上の作戦書に目を移した。


「まずモモリさん、といったかしら。君の魔法の才能は見たらわかる・・・すさまじいわね。これはさぞかし苦労したでしょう?先ほどもらった冒険者ギルドの報告書のコピーも虚偽の申告はないと確認したわ。正直うちの隊に欲しいところだけど、この話は全部終わってからね。

そのくらいすごい君の魔法ならきっとこの作戦は成功する。期待してるわよ。」


「でもよ、こいつに演技なんざできるのか?」

「え、ヒロさん失礼」

「まぁまぁ、モモリさん。そこは何とでもなるでしょう。」

「でもでも、女王様」

「サルディア」

「サルディア、さま、それを民衆は本気にしてくれるかな」

「まあそれでいいわ。そうね・・・私、公表はしてないけど幻術の魔法がいちばん得意なの。いい感じの演出を付けてあげるわ。だから安心して?」


「ホントに私がやるんですか・・・?この役目を・・・?」


「むしろこれだけの広範囲魔法はなかなか使える人がいないから、適任でしかないわ。任せた!

あーあのクソッタレ成り上がり男爵の悔しそうな姿が目に浮かぶわ~!ついでに余罪も調べとかないとね!!」


サルディアはにっこりと満面の笑顔でモモリの肩に手を置くと、これから国家の存続をかけた戦いが始まるかもしれない状況とは思えない様子で高笑いをした。


「一応確認だが、女王様なんだよな・・・あれ・・・」

「そうらしいよ・・・でもさ、ヒロ、俺たちも演技するんだよね?自信ないなぁ・・・」


リクのどこかあきらめたようなか細い声が、空に吸い込まれるようにして消えていった。

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