女王の御前にて
城門の前に馬車が止まり、オリーヴに続いて4人が馬車から降りると緑色の球体がモモリの周りを3週して光った。
「ん?冒険者ギルドの超距離伝書鳩じゃん。・・・あ、遠出すること報告してない・・・」
モモリはため息をつくと緑の球体に手をかざした。
球体はモモリの魔力に反応したように揺れると、受付嬢のキョウの姿が浮かび上がった。
相変わらずはっきりした化粧にゆるく巻いた栗色の髪は手入れが行き届いていて、できる女といった雰囲気を漂わせるキョウは前のめりの体勢でモモリに向かって詰め寄った。
『モモリさん!!!どこですか!!!何も言わずに失踪しないでください!!!』
キョウの声があたりに響き渡る。
「うるっ・・・キョウさんごめん・・・」
『今うるさいって言いかけたでしょ』
「いえいえそんなことは・・・そんなことより、今リクさんのパーティーと一緒に他国にいます。エルラードに帰るのはいつになるかわかんないです。」
『・・・は?モモリさんがパーティーに?』
「所属はしてないです。同行してるだけです。」
二人のやり取りにしびれをきらしたようにヒロがモモリの肩に手をかけ、口をひらいた。
「あー・・・キョウさんすんません。先日いろいろあってこいつ借りてます。行きたい国があってそこに行くのに少なく見積もっても半年はかかると思います。もろもろの報告は帰ってからになると思うんスけど、報告の量多くなると思うんでそこだけ先に謝っときます。」
ヒロの言葉に不満を隠しきれない様子で了承の返事をすると、通信は途切れ光の粒がはじけた。
「話は終わったかい?」
「あ、ソウさんごめんねいろいろとグダグダで」
「それは構わないよ。僕もよくやるからね」
「それはよくやらないでくれ」
「ソウの場合は俺たちに結構とばっちり来るからやめてほしいかな・・・」
4人のやり取りを見ながらオリーヴはおずおずと声をかける。
「す、すまない。そろそろいいだろうか?」
「あぁ、そうだったね。では現王との話し合いに行こうではないか。」
案内されたのは謁見の間・・・ではなく、豪華な応接間・・・でもなく、シンプルな装飾が施された一見使用人の休憩室にも見えるようなこじんまりとした部屋だった。
「相変わらず彼女は隠れ家が好きだね。」
ソウは懐かしむようにあたりを見回すと、さも当たり前のように定位置なのか端の席に腰かけた。
「君たちも座りたまえ」
「なんでソウが言うんだよ」
「ははは」
「おや、なかなかどうして懐かしい奴がいるじゃないか」
凛とした声が聞こえてきた。
慌てて一同が声の方を見ると、豪奢なドレスを着た凛々しい表情の女性が扉の前に立っていた。
「女王様!」
オリーヴがそう叫びながらさっとその場にかしずいたことで、目の前にいるのがオリーヴの叔母にして現王であることに気が付いたモモリ、リク、ヒロも慌ててその場にかしずく。
ソウはテーブルの上に用意されていた茶菓子を食べている。
「おい、ソウ!お前何のんきに菓子食ってんだ。知り合いかも知んねーけど立場わきまえろ!」
小声でヒロがそう声をかけるも、ソウはどこ吹く風といった様子でミルクティーをスプーンでかき混ぜている。
「そんなかしこまらなくていいわよ。何よりこれに堅苦しくされると気持ち悪いだけだから!」
さっきまでの威厳たっぷりの様子だったはずの目の前の女性は、「このドレス暑いから脱ぎたいんだけど」とメイドに言い放っている。
「あと女王とかやめてくれない?リリィには伯母上~って呼んでほしいし、他の子たちは・・・初めましてかな?あたしはサルディア。サリーって呼んでくれると嬉しいな。」
「・・・すいぶんとフランクな女王様だな・・・」
「逆に怖いんだけど・・・」
「何かの罠だったりとかないよね?」
3人がこそこそと話し合っている様子を見てサルディアは子供のようにほほを膨らませた。
「そこー!罠とか詐欺とか言ってるのはわかってるんだぞー!私だってお父様が亡くなる前に結婚したかったわよ!王様とか向いてないし!!」
3人は軍事国家の女王だというのにこのあっけらかんとした様子に戸惑いを隠せないのか、その場に立ち尽くすしかなかった。
「まあ茶番はこのくらいにして、本題に入ろうか。何もないのはつまらないからティータイムでもしながら話そう。」
サルディアは久々の客人がうれしいのか、軽く鼻歌を口ずさみながら質素な白いクロスのかかったテーブルに手作りとみられるクッキーの乗った皿を置いた。
オリーヴが渋々といった様子で椅子に座ったのを見て3人も椅子に座ると、サルディアは満足そうにうなづいた。
「さて、本題なのだがね。反王政派の動きが最近過激化してきていて、さすがに軍や騎士団を動かさないと手に負えないかもしれないという事態に陥っているんだ。
・・・だが、腐っていても我が国の国民。あまり血を流すのはね・・・」
「魔王云々の話もあくまで『封印』されただけ。いずれ経年劣化で封印が解けてしまう可能性だってあるんだ。なのにあの男爵は・・・くそっ!」
何かを思い出したのか、オリーヴが強くテーブルに拳をたたきつける音にモモリはびくりと肩を震わせた。
「・・・最近昔の封印のほころびが顕著に現れてきている」
ソウの声にサルディアはが振りむく。
ソウはいつの間にか資料を取り出していて、それを一つ一つ指さしながら説明をつづけた。
「先日モモリくんの自宅の近くで魔王軍の幹部であるワーウルフが復活してね。・・・まあ、なんやかんやあって見逃してもらえはしたんだが、他の幹部もじきにおきてくることだろいう。そして魔王本人もいずれ・・・」
「・・・それを国民に周知させたとしても、反王政派は『味方を増やすためのでっち上げだ』とか言って聞かないだろうな」
「なので、ここはひと芝居うってみるのはどうかとおもうんだ。」
ソウはモモリの方を見ながら提案をした。
モモリは提案を聞く前から嫌な予感がしていたが、ここまで政治的内情を聞いてしまったのだから後戻りできないなと覚悟を決めるしかなった。
「モモリくん、その膨大な魔法の才能を生かすときが来たんじゃないかい?」