バトル・オブ・エンパイア
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──バトル・オブ・エンパイア
魔王空軍はグレートドラゴンを集め、レッサードラゴンを集め、ファイアドレイを集めク、ワイバーンを集め、そして汎人類帝国から航空優勢を奪取するために、ガムラン線上空に投入した。
ガムラン線上空の航空優勢を保とうとする汎人類帝国と魔王軍の戦い──帝国航空戦が始まったのだ。
魔王軍は従来通り、敵航空戦力の地上撃破を狙って攻撃を仕掛ける。
しかし、汎人類帝国空軍は勇者タカナシ・メグミの助言を受けて、航空戦力を後方に集め、魔王軍の攻撃を察ししてから猶予ある状態が維持されていた。
さらに彼女は隷下の空中騎手とグリフォンを一斉に投入せず、ローテーションを組ませ、それに従って投入することによって、1回の戦闘で空軍力が壊滅してしまうことを避けたのであった。
魔力探知機もあちこちに設置され、さらに退役軍人である老人たちを動員して防空監視哨を運用するなどのアイディアも彼女から出された。それによって魔王空軍の動きは手に取るように汎人類帝国に把握されてしまう。
これら彼女のアイディアを前に魔王軍は苦戦を強いられる。
魔王空軍はそれでも航空戦力の地上撃破を狙った作戦を立案。
まずは魔力探知機を撃破することを第一に航空作戦が展開された。
雷作戦と名付けられたこの作戦には大規模な航空戦力が投入された。グレートドラゴンも惜しげなく投入されたのだ。
しかも、グレートドラゴンは攻撃の主力ではなく、攪乱のために使用された。
作戦内容はこうだ。
まずグレートドラゴンがガムラン線上空に進出し、帝都ローランドを目指す。
それに反応した魔力探知機を魔王空軍の電子戦部隊が探知し、位置を把握する。その後、その情報に基づいてレッサードラゴンを中核とする部隊が、魔力探知機を狙って攻撃を仕掛ける。
魔力探知機さえ撃破してしまえば、魔王空軍はフリーハンドを得ることができる、そうなれば汎人類帝国空軍など一ひねりだ。そうカリグラ元帥すらも考えていた。
そして、雷作戦は発動された。
グレートドラゴンたるネルウァが投入され、レッサードラゴンの援護を受けて、ガムラン線上空に進出。これに汎人類帝国の防空網が一斉に反応した。
ガムラン線とその周囲の高射砲が一斉にネルファを狙い、砲撃を開始。
「砲弾の着弾が近いぞ……!」
砲弾はこれまでより遥かに正確にネルファの周囲で炸裂していた。
勇者タカナシ・メグミは対空用の時限信管を準備させ、これまでのグレートドラゴンの飛行高度に調整したものを使ったのだ。
流石にVT信管のようなものは準備できなかったが、無数の高射砲が一斉に砲弾を浴びせ、それが周囲で炸裂するのにネルファの魔術障壁が削れて行く。
「敵防空網を制圧しろ。そちらが優先だ」
ここでネルファの判断で魔王空軍はその目標を高射砲に移す。
砲弾を次々に打ち上げる高射砲を前にレッサードラゴンたちが急降下して熱線を浴びせる。熱線によって高射砲は引き裂かれ、撃破されるが、それでもレッサードラゴンたちに砲弾を浴びせて道連れにしたのだった。
この防空網制圧が魔王空軍が帝国航空戦で勝利するための第一の難関となる。
今の魔王軍に求められているのは敵防空網制圧あるいは敵防空網破壊である。魔王空軍は魔力探知機と高射砲をターゲットに作戦を開始した。
魔王軍は連日のように航空戦力を出撃させ、汎人類帝国の防空陣地を攻撃。
しかし、これが魔王軍の損害を増加させていた。汎人類帝国はあらゆる方法で魔王空軍の動きを察知しており、奇襲というものが行えないのだ。
結果、被害は増え続け、さらに敵の航空戦力の要撃にも遭遇する。それらがじわじわと魔王空軍に打撃を与えていた。
「特殊作戦部隊に魔力探知機を破壊させてはどうか?」
統合参謀本部では参謀のひとりがそう提言していた。
「現実的ではない。魔力探知機を全て特殊作戦部隊に破壊させるなど」
「だが、このままでは空軍は失血死するぞ」
汎人類帝国が布陣させた無数の高射砲は完全な空軍に対するカウンターになっている。それを空軍力で叩くのは機関銃陣地を歩兵だけで叩くようなものだ。
「魔力探知機を無力化できればいいのであれば、手段はある」
そこである技術将校がそう提案した。
「魔力探知機は文字通り魔力を探知するものだ。その探知の方法と探知情報の分析について我々はエルフィニアを制圧した際に資料を手に入れている。それを使って対抗手段を生み出してみせよう」
自慢げにそういう技術将校を頼りにし、魔王空軍は再び航空戦を展開。
彼が行った対策というのは──。
「魔力探知機が大規模な魔力反応を検知! これは……!」
魔力探知機が設置された防空施設のひとつで観測員が声を上げる。
「どうした?」
「魔力反応な広域かつ強力で具体的な位置が割りだせません!」
「クソ。なんてことだ」
魔王軍はグレートドラゴンを複数体飛行させ、かつ魔力を意図的に放出することによって魔力探知機の受信を飽和させたのである。
魔力探知機のモニターは大規模な魔力の反応によって塗りつぶされて、個々の反応を見ることは不可能になってしまっている。
その隙にレッサードラゴンとファイアドレイクを中核とする部隊が低空で突入し、高射砲陣地に襲い掛かった。
事前の敵位置の情報もなく、さらには低空を高速で侵入してきた魔王空軍部隊に高射砲部隊はまともに抵抗できず、次々に陣地が撃破されていった。
魔王空軍は損害を押さえながら、高射砲陣地を叩いていくことに成功し、汎人類帝国の防空網に穴をあけ始めた。
要塞線のひとつに穴が空けば他の部位がほとんど意味がなくなるように、防空網に空いた穴も汎人類帝国の他の防空網を無意味なものにしつつあった。
魔王軍が空けた穴から汎人類帝国の後方に侵入し、空軍基地を爆撃。
ここにきて魔王空軍はようやく本来の目的に到達できたのであった。
「戦略爆撃を強化しようではないか」
そして、この結果に満足したカリグラ元帥はそう提案。
「工場を叩き、人口密集地を叩き、汎人類帝国の戦争継続能力を低下させる。我々にはそれが必要だ。空軍力による勝利が、な」
カリグラ元帥はかねてからの野望であった戦略空軍へのシフトをこれを機に達成しようと考えていた。汎人類帝国を戦略爆撃し、それによって滅ぼすのだと。
その考えの下に戦略爆撃は実行され、汎人類帝国は地獄を見た。
しかし、その戦略爆撃が本当に戦争の趨勢に影響を与えたかと言われれば微妙なところだ。地上軍を投入せず、空軍力だけで勝利するということは、やはり机上の空論に過ぎないというところはあった。
魔王ソロモンはカリグラ元帥の戦争指導に口出しはしなかったが、戦略爆撃の件でカリグラ元帥を支持することもなかった。
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