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絶対国防圏

……………………


 ──絶対国防圏



 アンゲラブールの戦いに汎人類帝国は敗れた。


 今や交通の要衝であり、重要な工業都市は陥落。汎人類帝国は追い詰められている。


 しかし、アンゲラブールの戦いが全くの無意味な戦いだったかと言えばそうではない。汎人類帝国はアンゲラブールの戦いで稼いだ時間を使って、新しい要塞線を構築していたのである。


 かつて存在したグスタフ線ほどではないものの、十分な火砲と陣地を備えたこの防衛線は参謀総長のガムラン元帥の名をちとってガムラン線と呼ばれるか、または統一党のプロパガンダ通りに絶対国防圏と呼ばれた。


「うーん。要塞線はあんまり役に立たないと思うんですけどね……」


 そう言うのは正式に人類勇者の称号が与えられている勇者タカナシ・メグミだ。


「それは何故?」


 最近になって汎人類帝国陸軍参謀本部は勇者タカナシ・メグミが持っているものが、ただの軍事力だけではなく、異世界の進んだ知識にあることに気づき始めていた。


「えっとですね。なぜかといえば要塞は均等に守りますよね? 兵力を均等に張り付けて、均等に陣地を作る。それはある意味では兵力の集中という原則に反しているとは思いませんか?」


「だが、敵が要塞線を突破できなければ問題は……」


「それは突破されたら瞬く間にゲームオーバーという意味です」


 ガムラン元帥はタカナシ・メグミにそう言われて、なるほどと納得した。


「では、我々はどのように守りを固めるべきなのだろうか?」


「要塞線は突破されることを前提に考えましょう。敵は要塞線を突破し、突破口を拡大しつつ後方に浸透する。我々はその後方に回り込もうとする部隊に予備兵力を集中させて、叩くです」


 汎人類帝国にとって朗報だったのは、タカナシ・メグミが何も知らないただの一般人ではなく、大学で第二次世界大戦中の戦術や戦略についての研究を行っていた大学生であったということだ。


 彼女の知識はいろいろと役に立った。


「敵の突出した機動戦力を確実に潰す。それが重要です。これまでの戦闘を見る限り、敵はそこまで広域の突破口を開いていませんから」


 タカナシ・メグミはこれまでの汎人類帝国と魔王軍の戦闘の記録を見ていた。


 確かに魔王軍は人海戦術を駆使すれど、その突破口は数キロというところであった。彼らは敵の抵抗の弱い場所を人海戦術で探って、突破しているので当然だろう。


「敵は人海戦術と浸透戦術を組み合わせたような戦い方をしています。そして、浸透戦術は結局のところ、それによる包囲が成功しなければそれそのものだけでは意味がなく、縦深防御と行うならば逆に包囲殲滅が可能」


「なるほど。もっと詳しく聞かせてほしい。君の知識は我々の利益になりそうだ」


 こうして汎人類帝国が急速に新しい戦い方を学びつつあるとき、魔王軍は汎人類帝国が思ったよりもガムラン線、あるいは絶対国防圏の攻略に悩んでいた。


「敵は温存していた航空戦力をようやく投じつつある」


 そう報告するのはカリグラ元帥だ。


「今や我々は絶対的な航空優勢を得ているとは言い難い。もしそれを得ようと言うならば、我々は積極的な航空攻撃を行わなければならないだろう」


 カリグラ元帥はそうソロモンに告げた。


「統合参謀本部はそのように考えているのだな」


「ああ。地上作戦を再開する前に一定の航空優勢を確保すべきであるとも。敵のガムラン線というものは、それなり以上の脅威であると我々は認識している。陸軍参謀本部もそれに同意している」


 ソロモンが言い、カリグラ元帥が返す。


「であるならば、航空優勢の確保に全力を挙げてもらおう。開戦以来グレートドラゴンもあまり出動していない。できれば使うとよい」


「承知した」


 ソロモンの言葉にカリグラ元帥が同意した。


「そして、ガムラン線について国家保安省から報告があるとのことだが」


 次にソロモンは国家保安省のジェルジンスキーに報告を求めた。


「はい、陛下。ガムラン線についての詳細な情報が入手できました。情報の信頼性については陸軍参謀本部情報部も確認しております」


 ジェルジンスキーはそう言って国家保安省の将校が資料を配布する。


「ガムラン線は汎人類帝国と我々の前線一帯に展開された要塞線で、5万以上の火砲を備えた強力な抵抗拠点です。建築にはドワーフたちも手を貸したとのことで、グスタフ線の反省が活かされていると思われます」


 汎人類帝国の築いたガムラン線は短期間で作られたにもかかわらず、強固な防衛線として機能するようになっていた。


 汎人類帝国は多くのリソースをこれに投じたらしく、魔王軍でもしり込みするほどの強力な火砲や陣地が構築されていた。


「これと正面から戦うのは愚かと考えるが、何か意見はあるか、カリグラ元帥?」


 そこでソロモンはカリグラ元帥にそう尋ねた。


「まずは航空優勢だ。航空優勢が得られ、空中突撃などが可能になれば、要塞線ごときいくらでも攻略する手段はある。私としても正面から相手をするつもりはない」


「ふむ。では、まずは航空優勢の確保という方針は変わらずだな」


「そうなる」


 無敵の要塞が航空戦力の投入で瞬く間に陥落したケースはないわけではない。


「制海権は今も我々が有しているとの認識だが、それを活かすことはしないのか?」


「海軍には現在物資輸送に専念してもらっている。先の戦いでは海軍も無傷であったわけではなく、敵も上陸作戦には警戒している」


 魔王海軍が汎人類帝国海軍との決戦に勝利するも、それなりの反撃を受けており、無傷とは言えなかった。


 それから汎人類帝国も海軍力を喪失したことで、魔王軍がいつ上陸作戦に挑んできてもおかしくはないと、海岸線の警戒を強めている。敵が予期しており、奇襲とならない上陸作戦は地獄だ。


 カリグラ元帥はそういう点では堅実に物事を進めていた。


 彼はまずは航空優勢を手にし、様々な選択肢が選べるようになるまでは、無理な攻勢は控えるつもりなのだから。


「よろしい。では、方針は決まったな。会議は以上だ」


「魔王陛下万歳」


 会議はいつもの決まり文句を最後に終わった。


「汎人類帝国はそう長くはもたないだろう」


 ソロモンはカーミラにそう語る。


「我々は夥しい出血をすれど、勝利する。そのことに間違いはない。もはや汎人類帝国がここから逆転し、王都バビロンまで攻め入るなどというのは不可能だ」


「そのように思われます」


「だが、汎人類帝国が落ちれば、我々はついに敵を失うのだ」


 ソロモンは何かを憂慮するようにそう語ったのだった。


 それから魔王軍は汎人類帝国から航空優勢を奪うための戦いに突入した。


 グレートドラゴンも投入されるその大きな戦いで、魔王軍は無事に航空優勢を奪取することができるのだろうか……。魔王軍が試される時が来ている。


……………………

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