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迂回突破

……………………


 ──迂回突破



 魔王ソロモンにもアンゲラブールで起きたことはすぐさま報告された。


「勇者の力というものか。10万の兵力を一瞬でとは……」


 国家保安省と陸軍からの報告にソロモンは感情を見えず、そう呟いた。


「いかがなさいますか?」


「グレートドラゴンでも一瞬で10万の兵力を消し飛ばすことはできない。敵はグレートドラゴン以上の戦力を手に入れたことになる」


 シュヴァルツ上級大将が尋ねるのにソロモンはそう語る。


「だが、グレートドラゴンも落ちる時はある。この世界に無敵の存在など存在しない。であるならば、勇者であろうと対処にしようはある」


 ソロモンは冷静にそう語った。


「それから当面の目的は勇者を討つことではない。アンゲラブールを落とすことだ。勇者が得たのは戦術的な勝利に過ぎず、戦略的には未だ我が方が優勢だ。それを活かすがいい、シュヴァルツ上級大将」


「はっ。了解いたしました」


 確かに勇者タカナシ・メグミはアンゲラブールの魔王軍は退けた。だが、それだけと言ってしまえばそれだけだ。


 魔王軍は依然として膨大な戦力を保有しており、それらを前線に投入できる。対する汎人類帝国にはほぼ後がない。


 その戦略的優位を魔王軍は生かすべきなのだ。


 まずそのために行われたのは魔王軍がアンゲラブールを迂回突破するという情報を意図的に漏洩させることであった。


 魔王軍は無線や兵力の動きでアンゲラブール迂回突破を汎人類帝国に向けて示し始めた。その動きを汎人類帝国は勇者タカナシ・メグミを恐れてのことだと認識し、迂回突破を阻止するためにタカナシ・メグミを移動させることに。


「敵は勇者を移動させた模様」


 その動きはすぐに魔王軍の工作員に把握された。


 そして、それこそが予定通りであった。


 魔王軍は迂回突破するつもりなどさらさらない。アンゲラブールを迂回して突破することはあまりにも難しいのだから。


 魔王軍は今もアンゲラブール正面突破を諦めていなかったのである。


「アンゲラブールを今回こそ突破する」


 南方軍集団司令官ツュアーン上級大将はそう宣言。


「しかし、今回は正面だけの突破にこだわらない。側面からも助攻を行い、敵戦力を拘束。その上で正面から突破を図る。アンゲラブールを完全に落とすのだ」


 迂回突破すると見せかけている兵力は、実はアンゲラブールを側面から攻撃する部隊である。アンゲラブールを正面からのみで突破するのは難しいので、側面から小規模な攻撃を仕掛けることで、敵戦力を分散させて撃破するのだ。


「勇者がいなければ攻略は可能だ。迅速に始めるぞ」


「了解です、閣下」


 そして、魔王軍は二度目のアンゲラブール攻撃を開始。


 再び砲爆撃が繰り返され、魔王軍はアンゲラブールへ兵力を進める。


 このことに混乱したのは汎人類帝国軍だ。


「迂回突破するのではなかったのか!?」


 アンゲラブールを魔王軍が迂回突破するという情報に確信を持っていた南部戦域軍司令部ではヴィレット上級大将を始めとする司令部要員が困惑の声を上げていた。


「閣下! アンゲラブールが大規模な攻撃を受けております! 救援要請が出ておりますが、いかがしますか!?」


「すぐに予備戦力を投入しろ! アンゲラブールをみすみす敵に渡すわけにはいかない! 阻止しなければ……!」


 南部戦域軍司令部はただちに予備戦力を投入。かくして、アンゲラブールでの激戦が再び開始された。


 しかし、今回は魔王軍は圧倒的に優位に戦闘を進めていた。


 側面からの攻撃で敵の戦力を拘置したことと、勇者タカナシ・メグミを別の場所に追いやることに成功したこと。そして、正面に先の戦いの倍以上の戦力を一斉に投入したことが功をなしたのだ。


 魔王軍はアンゲラブール市街地戦にて優位に立ち、汎人類帝国は陽動にかかったこともあって次々にアンゲラブールから駆逐されて行く。


 その戦いの最後の場面はアンゲラブールの製鉄所を巡る戦いとなった。


 汎人類帝国は生き残った戦力が製鉄所に立て籠もり、魔王軍に対して必死に抵抗。魔王軍は砲爆撃を加えるも、頑丈な製鉄所はそう簡単には落ちない。


「クソ。まだこの製鉄所は落ちないのか……?」


「酷く頑丈な建物です。先ほどからずっと砲爆撃に耐え続けています。列車砲でも持ち出さない限りは……」


「列車砲は今は砲撃可能ではない。他の方法が必要だ」


 列車砲は汎人類帝国のあらゆる焦土作戦の影響で前方に出れず、砲撃可能な状態ではなかった。今は後方で足踏みしており、兵站のための鉄道のスケジュールの邪魔にならない範囲で前進しようとしている。


「ゴブリンどもありったけ叩きつけて、弾薬切れを起こさせてやる。物量で勝っているのはこっちだ。その物量を生かさなければ勝てる戦闘にも勝てない」


「了解。ただちに配置します」


 汎人類帝国軍部隊が立て籠もる製鉄所に向けてゴブリンの大軍がけしかけられる。


「突撃、突撃!」


 人狼の指揮官が命令を叫び、ゴブリンたちが一斉に製鉄所に向かう。


 製鉄所からは機関銃などの射撃がゴブリンたちに浴びせられ、一瞬で仲間たちが撃ち抜かれたことでゴブリンたちが引き返そうとする。


「退くことは許さん! 進め!」


 しかし、人狼の将校たちは後方から機関銃でゴブリンたちを銃撃し、決して撤退を許さない。彼らには一歩も引くなという命令が発令されていた。


 ゴブリンたちはやけになって突っ込むしかなく、さらに戦闘工兵に分類されるゴブリンには爆薬が背負わせされていた。もちろん、それは本人の意志とは無関係に爆発するようになっている。


「敵の抵抗は弱まりつつあります、指揮官殿」


「よろしい。ゴブリンどもをもう一度けしかけてから、我々も突撃だ」


 製鉄所内の汎人類帝国軍は負傷し、医薬品もなく、そして銃弾も尽きかけていた。この製鉄所はほぼ陥落したアンゲラブールにて、完全に孤立しているのだから。


 それでも彼らが抵抗を止めることはなく、戦闘は続いた。彼らは銃弾が尽きれば、敵の武器を鹵獲してでも戦った。


「戦闘工兵、前進!」


 しかし、魔王軍は火炎放射器を装備した戦闘工兵を前進させた。


「畜生! 火炎放射器だ!」


「やつら俺たちを焼き殺す気か……!」


 火炎放射器はその威力を発揮した。製鉄所内に立て籠もる汎人類帝国軍の兵士たちもこれには抵抗できず、生きたまま焼き殺されてしまった。


 かくして製鉄所での戦いは終結し、アンゲラブールは陥落したのだ。


「我らが黒旗を掲げよ!」


 アンゲラブール中心部の市庁舎に魔王軍の黒い軍旗が掲げられ、アンゲラブールが陥落したことが広く知らしめられた。


 汎人類帝国軍は約5個師団に相当する7万人の死傷者を出し、アンゲラブールを喪失。


 以前の勇者タカナシ・メグミの勝利したニュースもこの敗北によって意味がなくなってしまったのだった。


……………………

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