ローランド空襲
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──ローランド空襲
1745年6月26日。
「大規模な魔力反応探知。複数のグレートドラゴンです!」
「その針路は?」
「これは……帝都ローランドに向かっています」
「警報を!」
魔王空軍のグレートドラゴンは旧ニザヴェッリル領、旧エルフィニア領、北方海、南方海の4つの方向から同時に汎人類帝国空域に侵入した。
汎人類帝国は要撃のためにグリフォンを出撃させたが、対応は飽和していた。
「敵竜、視認!」
「これより警告射撃を実施する!」
グリフォンに跨る空中騎手たちは、新しい武器として口径20ミリの連装式ライフルであるガルニエ銃を装備していた。
そして、そのガルニエ銃に曳光弾を装填して、侵入してくる魔王軍のグレートドラゴンとレッサードラゴンに対して警告射撃を実施。
「敵竜、針路変更せず!」
「司令部より攻撃許可が下りた。やるぞ!」
もはや魔王軍の攻撃は明白であり、要撃に上がった部隊に攻撃命令が発令される。
空中騎手たちはしっかりとその狙いをグレートドラゴンに定めるが、しかし──。
「レッサードラゴンに狙われているぞ、気を付けろ!」
「クソ! 振り払えない! うわ──」
グレートドラゴンを護衛するレッサードラゴンたちによって、要撃の空中騎手たちは葬られて行く。もちろん彼らも魔王空軍のレッサードラゴンを撃墜したが、グレートドラゴンを止めるという目的は果たせなかった。
そのころ、帝都ローランドでは空襲警報が鳴り響いていた。
「爆撃だ! 魔王軍の爆撃が来るぞ!」
「急いで避難しろ!」
歴史上帝都ローランドは何度が爆撃されたことがあるが、それは50年以上前の話だ。多くの人間にとってこれは初めての空襲である。
帝都内にある指定された地下の防空壕に向けて人々が逃げ込み、空襲警報は鳴り響く中で息をひそめた。
その間にもグレートドラゴンは帝都ローランドに向けて着実に迫る。
「高射砲部隊、迎撃準備を完了しました!」
「よし。よく狙え。帝都が燃えるかどうかがかかっているんだ」
防空のために導入された高射砲も、侵入してくるグレートドラゴンを狙う。
「来たぞ──!」
グレートドラゴンがその巨体を現した。
「砲撃開始、砲撃開始」
帝都を襲撃したグレートドラゴンたちを迎え撃つために高射砲が火を噴く。何白発もの高射砲弾が打ち上げられてはグレートドラゴンの魔術障壁を前に弾かれる。
「撃ち続けろ! 魔術障壁を飽和させるんだ!」
それでも汎人類帝国の防空部隊は必死に砲撃を行い、ついに魔術障壁を飽和させることに成功。そこに高射砲弾をさらに叩き込む。
砲弾はグレートドラゴンを貫き、出血させた。砲弾で相次いで体を貫かれたグレートドラゴンが姿勢を崩して、唸ると、ぐるりと向きを変えて撤退を始めた。
「やったぞ! 追い払った!」
「別方向からもグレートドラゴンです!」
しかし、攻撃を仕掛けてきたグレートドラゴンは1体ではない。4つの方向から同時攻撃が行われているのである。
グレートドラゴンは翼をはばたかせ、速度を上げて帝都ローランドに迫ると、地上に向けて熱線を浴びせた。
「クソ──」
まず高射砲部隊が全滅し、それから迎撃に向かった空中騎手たちが撃破される。
それからグレートドラゴンたちは市街地を狙った。
「残り15分」
とは言え、グレートドラゴンたちも自由に破壊を楽しむわけにはいかなかった。汎人類帝国の大規模な反応が予想され、レッサードラゴンたちが活動限界を迎える15分までは友軍勢力圏に帰還しなければならない。
しかしながら、その15分は汎人類帝国にとって悲惨な15分となった。
グレートドラゴンは帝都ローランドに向けてまずは工業地帯を爆撃し、そこにあった発電所や製鉄所、造兵廠などを完全に破壊。
続いてその目標を市街地に移し、市街地の3分の2を破壊した。
防空壕などグレートドラゴンの熱線を前には何の役にも立たず、帝都ローランドでば莫大な死傷者が生じた。
医療機関は対応がパンクし、このローランド空襲だけで50万人が死傷。
その後、グレートドラゴンたちは撤退し、魔王軍の損害はグレートドラゴン1体の負傷とレッサードラゴン10体の喪失だけとなった。
この被害を受けて帝国空軍参謀総長ポール・ビヨット大将が更迭され、後任にダミアン・アムラン大将が任じされる。アムラン大将は防空体制の抜本的な見直しとして、後方に多数の空中騎手とグリフォンを温存することを決定。
これによって前線から航空戦力が引き抜かれ、カリグラ元帥が狙った通りの動きとなったのであった。
しかしながら、魔王軍でも危うくグレートドラゴンを失うところであったことから、魔王ソロモン自らカリグラ元帥に『これ以上の冒険は避けるように』との命令が下り、ローランド空襲はひとまず中断された。
カリグラ元帥として空軍力のみで勝利を達成する戦略空軍にまた一歩近づいたことから満足できる結果であり、彼は己の育ててきた空軍力に自信を持った。
1745年6月の戦争はこうして始まった。
ローランドを爆撃された汎人類帝国は衝撃を受けながらも、政府機能は存続したことから指揮系統は維持され、すぐさま総動員が発令された。
「ローランドの被害の把握まだです、首相」
「一般の被害の把握は後回しでいい。今は政治中枢と軍の機能の存続だ」
「その点では陸海空軍省に被害はありません。議事堂は被害を受けましたが、無人でしたので人的損害はゼロです」
「よろしい。不幸中の幸いだな」
国防大臣のオリヴィエ・デュフォールが報告するのに首相のジャック・デュヴァルがそういって頷く。
「前線の状態は?」
「魔王軍の猛砲撃を受けているとの報告の後でいくつもの部隊と連絡が取れなくなっています。陸軍参謀本部は第016号計画実行の許可を求めています」
「許可する。直ちに実行せよ」
「畏まりました」
こうして帝国陸軍は第016号計画を発動。
国境線からの総退却が計画的に実行され、魔王軍に対する遅滞戦闘を繰り返しながら、汎人類帝国は戦線をベルシエール=モンレーヴィル・ラインへと下げた。
しかしながら、魔王軍の追撃は激しく、部隊には想定上の被害が出てしまう。
それでも防衛線を無事に下げることに成功し、第016号計画は無事にスタートした。
これからベルシエール=モンレーヴィル・ラインでの防衛戦とその後の反撃が行えるかが、汎人類帝国の存続にかかっている。
この戦いに負け、南部の穀倉地帯を失えば、汎人類帝国は大打撃を受けるだろう。
しかし、魔王軍はまさにその穀倉地帯を狙っているのだ。
「前進、前進! 進軍せよ! 我らは妖鬼のごとく!」
指揮官が声を上げ、魔王軍は前進を続ける。
まさに妖鬼のごとく。
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