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戦争の必要性

……………………


 ──戦争の必要性



 本来、政治家にとって戦争は起きないに越したことはない。


 その認識は汎人類帝国統一党タカ派のジャック・デュヴァル首相にとってもあったし、魔王軍の魔王ソロモンにもあった。


 民衆や軍部の支持を得るために威勢にいいことを言って、過激なパフォーマンスをすることはあっても、戦争を本当に望む人間は少ない。


 だが、戦争が明確な利権となっている魔王軍の軍部にとっては話が違う。彼らは利権のために戦争を欲した。ライバルである国家保安省や文民派閥に政治的勝利を収めるために戦争を望んだ。


「今度は陸軍をなだめなければならない」


 ソロモンは執務室でそう愚痴る。


「カリグラ元帥を統合参謀本部議長と人民元帥に任命したことで、陸軍と空軍の同盟は阻止できた。だが、陸軍は空軍を優遇していると反発し始めた」


「どうなさるのですか?」


「連中がほしいものを与えてやるつもりだ。つまりは戦争だ」


 カーミラの言葉にソロモンはそう返す。


 ソロモンは戦争を決断していた。彼は軍部という暴力的な派閥を満足させるために戦争を行い、それによって魔王軍を存続させるつもりであった。


「どのみち、我々が戦争を決断しなくとも、放っておけば汎人類帝国は先制攻撃を仕掛けるだろう。連中にとって我々は脅威となっている。我々がいくら友好を示したところで、信用に値しないと考えるだろう」


「それならばやむを得ませんね」


「ああ。やむを得ない」


 ソロモンはこの後、カリグラ元帥とシュヴァルツ上級大将を呼び、汎人類帝国との戦争について話し合った。


「汎人類帝国は巨大な国家だということをまず考えなければ」


 カリグラ元帥はその会議の場にてそう発言した。


「ニザヴェッリルとエルフィニアを合わせたよりも広大な国土を持った国家。それが汎人類帝国だ。国土が広ければ人口も莫大であり、一撃でこの国家を粉砕するのは難しいかのように思われる」


 汎人類帝国はカリグラ元帥が語るように広大な国土と膨大な人口を抱える巨大国家だ。単純な国土と人口の比較ならば、魔王軍に匹敵する唯一の国家である。


「そこで、だ。我々としてまず連中を締め上げるために、南部の穀倉地帯を狙うべきであると考える」


 汎人類帝国南部にはその膨大な人口を支える豊かな穀倉地帯が存在した。


 汎人類帝国の台所ともいわれるその場所を先に制圧してしまうことで、汎人類帝国の食料事情に影響を与えることをカリグラ元帥は提案している。


「なるほど。悪くない作戦のように思える。その方向で検討してもらいたい」


「了解した」


「また穀倉地帯を押さえたあとの戦略についても話し合っておきたい。南部の次の目標はどうなる?」


「最終的には首都ローランドを制圧することになるだろうが、そこまでの戦略は段階的なものになると考えている。ローランドに向けてひとつずつ、汎人類帝国を攻略するのだ。要衝を奪い、経済地域を押さえ、汎人類帝国を弱体化させていく」


「ふむ」


「幸いにして汎人類帝国のインフラはエルフィニアのように劣悪なものではない。広大な占領地を維持するための兵站にはさほど苦労しないはずだ」


 ソロモンが頷き、カリグラ元帥はそう説明した。


「分かった。その方向で調整せよ。して、攻撃発起地点はエルフィニアだな?」


「その通りだ。我々は旧エルフィニア領から南部に向けて侵攻する」


 ニザヴェッリルの魔王軍はやはり陽動であった。


「よって南方軍集団を再び編成すると同時に北方軍集団も再編成。南部を主攻としながらも、北部でも敵を牽制して拘束する」


 汎人類帝国南部を軍は進み、穀倉地帯を制圧するが、それと同時に北部でも小規模な攻撃を行って汎人類帝国が南部に援軍を送るのを妨げる。


「いいだろう。その計画の仔細を詰めて再び報告せよ」


「了解した、我らが魔王」


 こうして魔王軍は黄色作戦として汎人類帝国への攻撃計画を立てる。


 このころ、魔王国内ではカリグラ元帥の人民元帥及び統合参謀本部議長任命についてのプロパガンダが頻繁に行われていた。


『──カリグラ人民元帥閣下は軍の統合運用のために、新たに陸海空軍を統合した作戦司令部を設置し──』


 カリグラ元帥の人民元帥という地位は名誉的なものではなく、実際に政治力を有するものであった。彼は明確に大元帥である魔王ソロモンの次に権力を有し、ソロモンによって任命されたという政治的バックを持つのだ。


 そんな彼は彼が望むことを軍内部で行えた。


「開戦と同時にローランドを爆撃したい」


 魔王ソロモンには語っていなかったことをカリグラ元帥は統合参謀本部にて語る。


「開戦と同時にですか?」


「そうだ。敵の首都を爆撃することで、敵の航空戦力を後方の拘置するのだ」


「なるほど。敵は首都爆撃を恐れるようになり、少なくない防空戦力を後方に置かなければいけなくなるというわけですね」


 参謀のひとりがカリグラ元帥の言わんとすることを説明する。


「そういうことだ。敵の防空網に察知されることは織り込み済みで、グレートドラゴンを動員して強行する。多少の犠牲はあるだろうが、将来的な出血は抑えられるだろう。すぐに計画を策定せよ」


「了解しました、閣下」


 こうして魔王軍による汎人類帝国侵攻計画は着々と進んでいく。


 汎人類帝国侵攻計画黄色作戦はそれから5度の修正案が提出され、最終案が魔王ソロモンに報告された。


「許可する。作戦開始はいつか?」


「1745年6月ごろと計画している」


 魔王軍による汎人類帝国侵攻の日時は定まった。


 両国の緊張状態は長く続き、どちらの軍も前線の兵士たちは相次ぐ警戒命令にぴりぴりとしていた。


 いつ戦争が起きるのかという疑問はあったが、戦争が起きるのかどうかについては両陣営ともに疑問はなかった。絶対に戦争は起きるという確信があったのである。


 確かに汎人類帝国は動員準備をかけたままだし、魔王軍は前線に続々と兵力を集中させつつある。後はそれをいつ動かすかだけが問題だった。


「6月26日」


 カリグラ元帥が参謀たちに告げる。


「その日に汎人類帝国に侵攻する。我らが魔王は承諾した」


 戦争を開始する日が決定した。それは今年1745年の6月26日だ。


「また魔王は総動員を許可した。我々は工業力が低下しないレベルで動員を実施する。そして、勝利する」


 魔王軍は戦争に向けて全面的に作戦を進めていく。


 前線の航空基地にはグレートドラゴンが集結し、開戦第一撃になる首都ローランド爆撃に向けて準備を進めた。


 黄色作戦では首都ローランド爆撃ののちに、南部の穀倉地帯に向けて進軍。ここを確保することが第一目標だ。


 旧ニザヴェッリル領に北方軍集団が、旧エルフィニア領に南方軍集団が、それぞれ集結した。その規模は約200個師団。


 彼らは開戦の合図を待っている。


……………………

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