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売国奴

……………………


 ──売国奴



 エルフィニア全土を征服した魔王軍は、エルフィニアの企業も支配下に置いた。


 そのうちのひとつが、魔王軍が求めていたものを作っている。


 そう、魔力探知機だ。


「我々はあなた方に協力する準備があります」


 魔王ソロモンにそういうのはエルフィニアの大手魔術機器メーカーの社長だ。彼はソロモンに呼び出され、怯えるようにしてそう言った。


「それは全面的な協力か?」


「その通りです。全面的な協力です」


「そちらが秘匿する技術の開示も含めて、だな?」


「はい」


 ソロモンはこの魔術機器メーカーにまずは産業省を接触させていた。この魔術機器メーカーは最初魔力探知機について明かすことを拒んだが、ソロモンが様々な恩恵を提案すると態度を変えた。


「よかろう。従業員と家族についての特別な配慮を約束する。その代わり我々の技術者を教育することと商品の提供を求める。それが守られる限り、我々は寛大であろう」


「ありがとうございます、陛下」


 魔王軍はこうしてついに魔力探知機を手に入れたのだ。


 魔王空軍を中心に配備が進み、ようやく空軍の迎撃率が上がる状況になった。


 この他にも多くの魔術機器メーカーが魔王軍に協力し、様々な技術が魔王軍へと流出していったのだった。


 彼らは売国奴として批判されたが、それでも魔王軍に協力するものは後を絶たない。


 しかし、魔王軍にエルフィニアの技術が流出したように、汎人類帝国にもエルフィニアの技術が流出していた。


 魔王軍に追われたエルフたちは難民として汎人類帝国に逃げ込み、そこで汎人類帝国に技術を売れるものは技術を売ったのだ。


 彼らが難民キャンプから逃れるために技術を売ったのは無理もない。


 難民たちは酷い状況だった。


 いきなりエルフィニアが崩壊し、あまりに多くの難民が押し寄せたのに、汎人類帝国ではパニックが起きている。


 難民キャンプでは犯罪と疫病が蔓延し、不衛生な環境で大勢の難民たちが死んでいた。そのような難民キャンプから逃れるのに技術を売るのはやむを得ないことだろう。


「エルフィニアの技術は汎人類帝国に漏洩しています」


 王都バビロンの王城にて、ジェルジンスキーがそう報告する。


「エルフィニアから汎人類帝国に逃れた難民を経由して、魔力探知機を始めとする技術が汎人類帝国の手に渡りました。エルフたちは今や汎人類帝国の技術者や兵士として迎え入れられているようです」


 エルフィニアからの技術漏洩は国家保安省によって把握されていた。


 それが脅威になるということも。


「魔力探知機を妨害する装備について、汎人類帝国は手に入れたと思うか?」


「まだ詳細は分かりませんが、可能性としてはあり得ます」


「ふむ。面倒な……」


 魔力探知機を妨害する魔術機器があるということは、魔王軍に協力することを約束した魔術機器メーカーからもたらされている。


 魔王軍としてはその装置の存在を非常に危惧していた。


 せっかく手に入った魔力探知機が簡単に無力化されてしまうことは、危惧して当然のことであろう。


「詳細について情報を入手せよ。それから我々に取りえる手段は?」


「難民というものを政治問題化させることで、難民の汎人類帝国への協力を阻害できるかもしれません」


「述べよ」


 ジェルジンスキーの提案にソロモンは興味を持った。


「汎人類帝国は決して快く難民を受け入れているわけではないのです。彼らは難民が犯罪を起こすたびに、難民受け入れを拒否しようという意見を出しています」


「その問題をさらに扇動し、難民の信用度を下げる、か?」


「その通りです、陛下。世論工作の準備はできております」


 ジェルジンスキーは汎人類帝国市民と難民の対立を扇動し、難民たちが汎人類帝国に協力することを渋るように仕向けようと提案しているのだ。


「実行せよ。我々は可能な限り汎人類帝国に技術を渡さぬようにしなければ」


「技術者の暗殺というオプションもありますが」


「できることは全て実行せよ」


「了解」


 国家保安省は世論工作と暗殺を担当する。


「それから、だ。難民に紛れてこちらの工作員を忍び込ませたい。次の戦争が起きるのは、そう遠いことではないからな……」


 ソロモンは次の戦争──汎人類帝国との戦争が近いことを悟っていた。


 汎人類帝国ではタカ派の首相ジャック・デュヴァルが魔王軍との決戦と、人類の生存圏の確保を謳っており、国防費を大幅に上げた。ジャックは魔王軍を最終的には絶滅させるとすら言っているのだ。


 このジャックによって戦争が起きるだろうと誰もが思っていた。


 しかし、ソロモンもまた戦争を考えていたのだ。


「シュヴァルツ上級大将。陸軍参謀本部としても今は情報収集にいそしむように」


「はい、陛下」


 参謀本部には独立特殊任務旅団が隷下に存在する。彼らは破壊工作だけではなく、情報収集も任務に入っている。


「全員がその義務を果たすことを願う」


「魔王陛下万歳」


 こうして会議は終わった。


 国家保安省は早速難民の犯した犯罪を声高に宣伝した。そして、それに応じたかのように汎人類帝国市民によって難民への暴行事件などを起こす。


 難民と市民の対立が深まっていき、難民の排斥を求める声上がる。


「忌々しい難民をどうにかしなければいけない」


 汎人類帝国首相ジャックが渋い表情でそう言う。


「だが、ニザヴェッリルやエルフィニアに追い返すのはなしだ。せっかくのマンパワーを無駄にしたくはない」


「では、どうなさるおつもりですか?」


「義務を果たしてもらう。国民が納得するように」


 閣僚のひとりが尋ねるのにジャックはそう言った。


「労働と軍役だ。難民を強制的にこれに組み込む。今は少しでもマンパワーがほしいのが事実。労働者不足は深刻だと報告を受けている」


 汎人類帝国はニザヴェッリルとエルフィニアの戦争に相次いで介入したため、兵士が動員されたままになり、それによって労働力不足を起こしていた。


 どんな事業だろうと人がいなければ成り立たない。そして、今まさにジャックは軍拡に励んでおり、経済が落ち込むことは致命的であった。


 そこでジャックは難民を労働力として、そして兵力として動員しようというのだ。


「悪くないアイディアだと思っているが、どうか?」


「産業省としては前向きに考えたいと思いますが、具体的にどのような事業に動員されるおつもりなのですか?」


「それぞれの適性によって変えるが、基本的に工場や農場での肉体労働だ。間違っても難民たちが我々汎人類帝国の国民を使うようなことがあってはならない」


 あくまで単純労働のために難民を動員するとジャックは決めている。


「国防省としても兵役に難民を付けるのは悪くないと思いますが、一応それぞれの難民について調べてからでなければ不穏分子が軍内部に浸透する可能性があります」


「もちろん調査は行うし、自由ニザヴェッリル軍のような形にするつもりだ」


「それでありましたら、異論はありません」


 国防大臣のオリヴィエ・デュフォールはそう言った。


「では、諸君。戦争に備えようではないか。それはそう遠くないはずだ」


……………………

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