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エルフィニアの陥落

……………………


 ──エルフィニアの陥落



 1743年3月。


 魔王軍は大規模攻勢に出た。


 残存戦力僅かとなったエルフィニア軍に対して魔王軍は牙を剥き、これを瞬く間に撃破すると王都アルフヘイムに向けて進軍。


 もはや魔王軍を止めることのできる戦力は存在せず、次々に都市が陥落していった。


「そちらに陣地を作れ! お前たちはそこで待機だ!」


 アルフヘイムでは少しでも降伏を遅らせようと市民が動員されて防衛戦の準備を行っていた。バリケードが構築され、旧式のライフルマスケットが持ち出され、エルフたちはアルフヘイムの戦いに挑んでいる。


 既に三国同盟はその姿を消し、汎人類帝国は自国まで撤退。自由ニザヴェッリル軍も撤退してしまっていた。


 そのせいかエルフたちの士気も低く、もう完全に敗北を悟っていた。


「エルフの同胞諸君!」


 そんなアルフヘイムのエルフたちに呼び掛けるものがいた。


「女王は裏切り者だ! 女王のために戦う必要はない!」


 それはラウィンドール政権のエルフたちで、彼らは魔王軍に監視されながら、アルフヘイムのエルフたちに降伏勧告を行っていた。


「進んで降伏すれば食料が与えられ、丁重に扱われる! 決して殺されはしない! さあ、我々を裏切った女王に背を向けて、正しき側につくのだ!」


 既に士気の落ちきっていたアルフヘイムのエルフたちに、この降伏勧告はよく響き、何人ものエルフたちがラウィンドール政権と魔王軍に降伏した。


 降伏勧告が終われば、魔王軍の砲爆撃が始まる。


 市街地だろうと情け容赦なく砲爆撃が浴びせられ、アルフヘイムの美しい街並みが破壊されていった。古くから続く歴史ある古都でもあるアルフヘイムが、今日この日に失われたのである。


 砲爆撃は続き、そして地上軍が投入された。


 ゴブリンの軍勢が押し寄せ、それに向けてアルフヘイム防衛のために動員された民兵たちが応戦。正規軍は僅かで、寄せ集めの民兵ばかりのアルフヘイム守備隊は、脆弱なゴブリンにすら苦戦している始末。


 何度かのゴブリンの波状攻撃を退けるも、火力支援を伴った人海戦術を前に、ついに防衛線は崩壊した。


 なし崩しに市街地戦となったが、士気が低いアルフヘイム守備隊の抵抗は、決して粘り強いものではなく、市街地のほとんどはあっさりと魔王軍の手に入った。


 問題は宮殿だ。


 アルフヘイム守備隊はその戦力を宮殿に集結させており、魔王軍の攻撃を何度も退けていた。というのも、宮殿を防衛しているのは民兵ではなく、エルフィニア外人部隊の精鋭たちなのだ。


 ここが落ちれば行く当てのない彼らは必死で戦っていた。


「撃て!」


 魔王軍は榴弾砲などの火砲を前線まで運んできて、直接照準射撃で宮殿を砲撃した。だが、古代の魔術によって通常の建物とは異なる強度を有している宮殿は、なかなか破壊することができない。


 魔王軍は仕方なくゴブリンをとにかく突っ込ませて、守備隊を損耗させることを狙った。戦闘工兵の爆薬を背負ったゴブリンが突撃しては、敵陣地で爆発する。


「ここを通すな! 戦え!」


 そう声を上げるのはエルフィニア外人部隊の指揮官アルバート・ミュラー少将で、彼の指揮下にある第1外人猟兵旅団を主力とする部隊が宮殿防衛の任務に就いていた。


「閣下。そろそろ弾薬が底を突きます」


「なら、白兵戦ででも戦ってやる」


 ミュラー少将にそう報告するのは第二次土魔戦争にも従軍していたデュフォール少佐で、彼は包帯を巻いた頭のまま弾薬不足を報告していた。


「了解。やるだけやってみましょう」


「待て、デュフォール少佐。頼みがある」


 デュフォール少佐が去ろうとするのをミュラー少将が呼び止めた。


「何でしょうか?」


「お前の父は汎人類帝国の国防大臣だったな?」


「……そうですが、それが?」


「戦えないものを汎人類帝国に逃がしてくれ。そして、汎人類帝国で再び部隊を結集してもらいたい。できるか?」


 デュフォール少佐にミュラー少将がそう頼んだ。


「分かりました。できる限りのことはしましょう」


「脱出ルートを指示する。よく聞け──」


 それからデュフォール少佐は戦えない部下を率いて脱出。


 宮殿の戦いにはついに人狼まで投入されて激戦となり、9日間戦闘は続いた。その末に魔王軍は宮殿を制圧し、黒旗を掲げたのであった。


 女王ケレブレスは捕虜となり、後方に送られた。


 アルフヘイムの街は見る影もなく破壊され、動員されていたエルフたちがひとりひとりとあぶりだされ、降伏していく。


 そして、1742年5月。魔王軍はエルフィニア征服を宣言した。


「女王ケレブレス。亡命しなかったのは予想外だな」


 アルフヘイム攻略を行っていた南方軍集団司令部を訪れたソロモンは、捕虜となったケレブレスを前にそう言う。


「お前にはいろいろと役に立ってもらおう。ラウィンドール政権には正統性が欠けている。それを補い、我々の役に立ってもらう」


「私に貴様の傀儡になれと?」


 ケレブレスはソロモンの言葉に彼をにらむ。


「そうだ。お前は一切の権利を持たず、我々に媚び、同胞には国を売ったと憎まれ、されど生きていくことになる。それがお前の運命だ」


 ソロモンは無慈悲にそう言ったのだった。


 その後、ケレブレスはラウィンドール政権を認め、ソロモンに忠誠を誓い、そして魔王軍との友情を語ったのだった。


このエルフィニアの陥落は汎人類帝国に大きな衝撃を与えた。


 もはや魔王軍とまともに戦えるのは汎人類帝国だけになってしまったのだ。


 汎人類帝国はこのまま魔王軍が自国に攻め込んでくるのを恐れて、動員を発令し、国境に兵力を集中させ始めた。


 しかし、魔王軍は攻めてはこなかった。


 魔王軍は汎人類帝国に軍使を送り、停戦を申し出たのだ。


 停戦ラインは旧エルフィニアと汎人類帝国の国境線で、中間に非武装地帯を設置するということであった。


 汎人類帝国ではこれを受けるかどうかで揉めた。


 魔王軍が停戦を申し出てきたのは、彼らが攻勢限界を迎え、動けないからだと考えるものがおり、彼らはこれを機にエルフィニアの領土を少しでも奪還しようと提案。


 別のものはこれを機に停戦し、国土の守りを固めるべきと主張。


 双方の主張が張り合って纏まならない中。


「停戦を受け入れる」


 首相のジャック・デュヴァルは停戦の受け入れを鶴の一声で決めた。


「将軍たちの一部はすぐにでも戦えると思っているようだが、私が見る限り、エルフィニアでの敗北はニザヴェッリルでの敗北から何の進歩もしていないように思える。軍を根本的に立て直してからでなければ戦争は望まない」


 ジャックはそう宣言したのであった。


 こうして汎人類帝国は魔王軍と停戦。停戦ラインに沿って非武装地帯が設置され、魔王軍も汎人類帝国もそれを尊重した。


……………………

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