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航空優勢

……………………


 ──航空優勢



 エルフィニア軍が防衛線と定めたセリスティア=アラマリス線はその役割をほとんど果たすことなく崩壊してしまった。


 魔王軍はアラマリスを占領して、海上兵站線による補給を受け始めている。しかし、ラウィンドール川の氾濫から立ち直ったかと言われれば、微妙なところである。


 陸路の兵站線は細く、魔王軍が築いた海上兵站線もいつエルフィニア海軍と汎人類帝国海軍が介入して寸断されるか分からない。


 それにエルフたちのインフラ整備の無頓着さには、海上を経由して運ばれた物資を陸路で運ぶ際にも問題になっていた。物資が運ばれた港から前線までの道路が本当に整備されていないのだ。


「この状況で攻勢に出るのは無謀かもしれないな……」


 南方軍集団司令部ではツュアーン上級大将が参謀たちにそう言っていた。


 満足な補給線が確保できず、いつ兵站線が崩壊してもおかしくない状況。だが、エルフィニア軍が崩れて追撃が望ましい状況。


 ツュアーン上級大将としては戦果を拡大するために攻撃に出たいが、やはり後方に不安が残るというのが実情であった。


「しかし、閣下。敵のセリスティア=アラマリス線は今や崩壊し、敵は浮足立っています。今、攻勢に出れば敵は崩れるのではないでしょうか? そうなった敵は多少補給の欠けた我が軍の敵になるとは思えません」


「確かにそういう考えもできるが、私は慎重にやりたいと思う。下手な冒険をして、魔王陛下から預かった兵士を死なせたくはない」


 参謀の強気の発言にもツュアーン上級大将は慎重だ。


「我々は長期的に物事を考えなければならない。敵を撃破するだけならば、今攻撃を仕掛けるのは適切だろう。しかし、だ。我々はこのエルフィニアを征服し、占領しなければならないのであり、そのためには確固とした補給が必要だ」


「では、工兵に迅速に兵站線の整備を行うように指示しましょう」


「うむ。今後のことを思えば、それは決して無駄にならないだろう」


 そのようなツュアーン上級大将の判断から魔王軍はまずはインフラを復旧と整備にいそしんだ。攻撃は止まり、魔王軍は公共事業のように道路や橋を整備していく。


 鉄道も敷設され、陸海の両方のルートで補給が可能なようになる。


 しかし、エルフィニア軍もそれをただ眺めていただけではなかった。


「上空にグリフォンだ!」


 魔王軍の工兵が声を上げたとき、上空を飛行するエルフィニア空軍のグリフォンが何かを投下して飛び去っていった。それが地面に落ちたとき、オレンジ色の炎を黒煙が広がり、衝撃波が工兵たちを薙ぎ払う。


 そう、爆撃だ。


 魔王軍の兵站線を狙ってエルフィニア軍は爆撃を仕掛けていた。訓練された空中騎手とグリフォンが魔王軍の後方に入り込んで爆弾を投下していくのだ。


 前に述べたように魔王軍には未だに魔力探知機が存在しない。そのせいでこのゲリラ的な爆撃作戦は成功していた。


 魔王軍は急ごしらえの橋を爆破され、工兵を吹き飛ばされ、鉄道車両を喪失し、そうやってツュアーン上級大将が目指す補給線確立を妨害されていた。


「空軍は何をやっているのだ!」


 前線では将兵たちが爆撃を許している空軍を批判する。


 もちろん魔王空軍は何もしていないわけではない。彼らは彼らでエルフィニア軍を爆撃している。エルフィニア軍は再び防衛線を立て直すことを妨害し、三国同盟を苦しめていた。


 それにカリグラ元帥はいちいちグリフォンを迎撃するのは不毛と見ていた。


 彼はもっと根本的な解決を南方軍集団を支援する第2航空艦隊に指示している。


「敵の航空基地を叩く」


 第2航空艦隊司令官のグレートドラゴン、ネルウァがそう宣言。


「カリグラ元帥閣下は敵の航空戦力を地上撃破することを望まれておられる。いちいち航空戦を行うのは不毛として」


 そう、カリグラ元帥はドッグファイトのようなことをいちいちやって航空優勢を手にするのではなく、地上にいるグリフォンたちと空中騎手たちを爆撃してまとめて撃破することを計画していた。


「奇襲が必要なように思われます」


「その通りだ。奇襲が必要だ」


「ですが、敵の魔力探知機を避ける方法は今のところ存在しません」


 奇襲を困難にしているのは、三国同盟が保有している魔力探知機だ。これがあるとどれだけ気づかれないように飛んでも、絶対に探知される。


「それについては陸軍は破壊工作を行って無力化する。そういうことになっている」


 この魔力探知機を破壊、もしくは鹵獲するために陸軍の独立特殊任務旅団がもう既に行動中であった。


「この地上撃破に成功すれば、航空優勢は瞬く間に我が方に移るだろう。では、諸君らの健闘を祈る」


 こうして第2航空艦隊による敵航空戦力地上撃破作戦が発動した。


 まずは陸軍の部隊が後方に浸透し、魔力探知機を狙う。


 三国同盟は警戒していたものの、その警戒を突破して人狼と吸血鬼たちは魔力探知機を破壊するか鹵獲し、エルフィニア軍の、三国同盟の、目を奪った。


「ボスホート・ワンより報告。全ての魔力探知機を無力化しました」


「では、作戦開始だ」


 第2航空艦隊は陸軍の独立特殊任務旅団からの報告を受けて作戦を発動。


 第2航空艦隊隷下のグレートドラゴンのティトゥス、ペルティナクスとレッサードラゴン、ファイアドレイクが総動員されて三国同盟の航空戦力が存在するエルフィニアの航空基地を目指した。


 もちろん無線は封止して気づかれぬようにし、さらに高高度を飛行して目視による探知も避けた。そうやって万全を尽くし、彼らは爆撃に向かう。


 レッサードラゴンが先行してナビゲーションを行い、ファイアドレイクたちは2体のグレートドラゴンをしっかりと守る。


 そうやって陣形を作ったドラゴンたちはついにエルフィニアの航空基地に近づいた。


『無線封止解除、無線封止解除。全機爆撃体制に入れ!』


 命令が飛び、ドラゴンたちは一斉に航空基地に向けて降下。


「あれは……!?」


「グ、グレートドラゴン!?」


 まずはグレートドラゴンのティトゥスが驚いているエルフたちに向けて熱線を放つ。地上のあらゆるものが信じられない高温によって蒸発する。エルフたちも空中騎手たちもティトゥスの爆撃に巻き込まれて死亡した。


『残敵を掃討せよ』


 続いてファイアドレイクたちが降下して、地上に爆炎を浴びせ、あらゆる施設を吹き飛ばしながら基地を完全に破壊しつくした。


 この攻撃とグレートドラゴン、ぺルナティクスの攻撃によって、エルフィニアの航空基地はほぼ壊滅。エルフィニアの空軍戦力は全滅に近い大打撃を受けたのだった。


 残った航空戦力も汎人類帝国に退避し、エルフィニアは航空優勢を喪失。


 上空に友軍はなく、魔王空軍の血に飢えたドラゴンたちによる一方的な爆撃を許すことになったのだった。


……………………

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