アラマリスの戦い
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──アラマリスの戦い
魔王軍は海上補給線を確保するために、港湾都市アラマリス制圧を目指している。
ラウィンドール川では手間取ったが、魔王軍は進軍を続けた。
「進め、アラマリスへ!」
魔王軍は人狼の将校がそう叫んで士気を上げ、ゴブリンとオーク、トロールの軍勢が西へ、西へと進む。人狼たちも精鋭歩兵として各地で重要な戦いを制した。
そして、ついに目的の港湾都市アラマリスが目前となる。
「アラマリスを攻略する」
南方軍集団司令官ツュアーン上級大将はそう宣言した。
「アラマリスを確保できれば、海路での補給が可能になり、我々は攻勢を続けられる。何としてもアラマリスを確保しよう。アラマリス攻略はブラウン軍の担当だな」
「はい、閣下。ブラウン軍は予定通りアラマリスを攻略するとのこと」
「海軍の支援があるという話だったが」
そこでツュアーン上級大将は海軍の連絡将校を見る。
「今現在、汎人類帝国海軍の有力な艦隊が展開中につき、地上支援はまだ困難です。残念ですが、当初予定していた支援は行えません」
「残念だが致し方あるまい。それでは陸軍が何としてもアラマリスを落として見せるが、その後の海上補給線の維持は可能なのだろうか?」
「最善を尽くし、兵站線を維持しましょう」
「頼むぞ」
魔王ソロモンが以前言っていた西に向かえば海軍の役割が変わるとは、こういうことであった。
西に展開した軍を支えるために、敵の海軍から自分たちのシーレーンを防衛する。外洋艦隊となって、それを成し遂げなければならない。それがソロモンの言っていた海軍の変化である。
もはや海軍は沿岸を守る以上のことが求められるのだ。
「では、ブラウン大将にアラマリスの攻略を開始するように指示せよ」
「了解です、閣下」
こうして南方軍集団隷下ブラウン軍によるアラマリスの攻略作戦が始まった。
ブラウン軍はただアラマリスを落とせばいいのではなく、可能な限りインフラを維持して制圧しなければならない。となると、無差別な砲爆撃は論外だ。
ブラウン大将はこの問題に南方軍集団から渡された戦力を使うことにした。
すなわち、陸軍参謀本部直属の部隊であった独立特殊任務旅団だ。
ブラウン大将は彼らを密かにアラマリスに潜入させて、内部から守りを崩すことで、アラマリスのインフラを保存したまま確保しようと考えていた。
「私の提案する作戦は可能だろうか、ヴァイス大佐?」
ブラウン大将は目の前の人狼にそう尋ねた。
「不可能ではないでしょう。ですが、絶対はないということは言っておきます」
ヴァイス大佐は人狼の将校で、第2独立特殊任務旅団の所属だ。彼はブラウン大将に示された作戦にそう言って返した。
「それは分かっている。だが、やり遂げてもらいたい。アラマリスの確保は南方軍集団司令部の望みでもある。この都市をほぼ無傷で確保できれば、我々は兵站への心配を減らすことができるのだ」
「ことの重要性は我々も認識していますが、これがギャンブル染みた作戦であることは指摘しなければいけません。絶対はやはり保証できない」
「ううむ」
ブラウン大将が示した作戦では海上からアラマリスに密かに上陸し、そのまま浸透するというものであった。海軍の支援も一定規模ではあるということだが、海軍は先に述べたように敵艦隊の動きに警戒している。
「最低でも港湾インフラは無傷で手に入れたい。努力してくれ、大佐」
「もちろん努力はします、閣下」
こうしてアラマリス奇襲作戦が発動。
時刻は深夜。
ヴァイス大佐率いる奇襲部隊はまずは魔王海軍から派遣された駆逐艦1隻が支援し、海上からアラマリスを目指す。
アラマリス沖合で作戦のために準備されたボートに乗り込むと、ヴァイス大佐たちはそのまま密かにアラマリスに迫る。
「気を付けろ。いつハチの巣にされてもおかしくはないからな……」
ヴァイス大佐はそう警告し、慎重に、慎重に、アラマリスの上陸地点に向かう。人狼たちにとって夜の闇はないに等しく、周囲を油断なく見張ることができた。
「いいぞ。敵はまだ警戒していない」
そして、アラマリスの埠頭にてヴァイス大佐たちが上陸を開始。
作戦に動員された1個中隊の戦力が上陸し、まずはブラウン大将の求めに応じて港湾インフラの確保を行う。
エルフィニア軍の見張りを音もなく排除しつつ、埠頭やクレーンなどに爆薬が仕掛けられていないかを確認するヴァイス大佐たちはあることに気づいた。
「エルフィニアの連中、焦土作戦をするつもりがないのか?」
そう、全く爆薬の類は仕掛けられておらず、港湾インフラはそっくり手に入ったのだ。エルフィニア軍はここを爆破するつもりがなかったかのように。
別にエルフィニア軍に爆破の意志がなかったわけではない。フェアラス大将は可能な限りインフラを敵に渡すなと命じている。
ただ爆破のために必要な爆薬が存在しなかったのだ。急な撤退戦となり、装備や弾薬を放棄して撤退したエルフィニア軍は様々なものを失っていたというわけである。
「このまま市街地も確保するぞ。まずは司令部を潰す」
ヴァイス大佐は戦果の拡大を決意。港湾を確保したまま、市街地に向けて進む。
ヴァイス大佐たちはもちろんM1722小銃を改造した特殊作戦ライフルを所持しており、それによって確実にエルフィニア軍の兵士たちを仕留めながら前進を続ける。
エルフィニア軍は相次ぐ撤退を前に疲れ切っているのか、見張りは十分ではなく、警戒心も高くない。あっという間にヴァイス大佐たちはエルフィニア軍を駆逐していく。
しかし、エルフィニア軍の全く気付かないイージーゲームかと思えばそうでもない。
「クソ、警報だ」
ヴァイス大佐がもう少しで司令部に到達するところで、警報が響いた。
「どうしますか、大佐殿?」
「どうもこうもない。このまま司令部を襲撃して撤退する。やるぞ」
「了解」
かくしてヴァイス大佐たちが決断し、彼らは警戒態勢に入ったエルフィニア軍の警備を突破して司令部を目指すことに。
「魔王軍が侵入しているぞ! 警戒しろ!」
エルフィニア軍の将校がそう叫ぶのにヴァイス大佐たちがそれを狙撃。
「狙撃だ、狙撃!」
「ふ、伏せろ!」
エルフたちも狙撃手が多いが、この闇夜で狙撃ができるのは訓練された人狼だけだ。ヴァイス大佐の部下たちには、他の一般部隊と違って狙撃手が揃っている。
エルフィニア軍は彼らを苦しめた狙撃を、今度は自分たちが味わうことになった。
「進め、進め。エルフどもに足止めさせるな」
ヴァイス大佐はそう指示を飛ばし、人狼たちは突撃。
夜の闇は完全に彼らの味方となり、人狼たちは司令部に迫った。
「通信機器多数。間違いなく司令部です、大佐殿」
「オーケー。プレゼントだ、エルフども」
司令部となっている市庁舎に向けてヴァイス大佐は工兵用の梱包爆薬を放り込んだ。
城壁すら吹き飛ばす威力の爆弾が炸裂したとき、司令部は崩壊した。
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