大槌作戦
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──大槌作戦
魔王軍は次の攻勢として大槌作戦を発動。
主攻を南部の港湾都市アラマリスに向けた大規模攻勢だ。
この攻勢計画では魔王軍はラウィンドール川の氾濫で失ったいくつかの補給線を補うために、港のあるアラマリスを占領し、海上ルートでの補給を行うことを考えていた。
海上ルートの補給というのは地上ルートや空中ルートより大量の物資を一斉に運べて、非常に力強い兵站線となることを魔王軍は学んでいた。
第一次、第二次土魔戦争でも北方海を経由した補給によって、魔王軍は前線で戦い続けることができたのだ。
今回も港湾都市を確保することで、ラウィンドールダム爆破のせいで困難になった補給線を回復させようと、魔王軍は、南方軍集団司令部は考えていた。
いつものように全戦線においてゴブリンとオークの波状攻撃が始まり、三国同盟側に圧力がかけられ始める。
「最終防護射撃、最終防護射撃!」
しかし、流石に三国同盟側も魔王軍の攻撃については分析していた。
彼らは数で勝る魔王軍の突撃を粉砕するために、あらゆる火砲の火力を指向して、その突撃を粉砕する戦術を打ち立てた。
迫撃砲や野砲の砲撃のみならず、ある兵器が新たに投入されていた。
それは──。
「撃て!」
けたたましい銃声を響かせ、連続した射撃を行うのは、そう機関銃だ。
汎人類帝国は亡命してきたドワーフやノームの技師たちとともに新たな兵器として機関銃を生み出していた。
口径7.7ミリのライフル弾を使用するもので、名前を開発者からとってトルーヴェ機関銃と呼ばれる兵器。それがこのエルフィニアの戦いに導入されていた。
装備しているのは主に汎人類帝国と自由ニザヴェッリル軍で、エルフィニア軍ではまだ訓練途中である部隊が多く、導入はまだまだ進んでいない。
「撃て、撃て!」
機関銃の銃口から放たれるライフル弾は次々にゴブリンたちを薙ぎ払っていき、オークを蜂の巣にし、彼らの突撃を粉砕するかのように見えた。
そう、機関銃が証明したのは凄まじい殺傷力であった。これまでは人海戦術に完全に押されていた三国同盟が今回は辛うじてとは言えど、魔王軍の攻撃に抗っているのだ。
「これはいけるんじゃないか……?」
汎人類帝国のひとりの将校が目の前の戦果を見て、そう思っていたときだ。
魔王軍の激しい砲撃が彼らの陣地を襲った。
魔王軍の火力主義はこの戦いでも継続しており、あらゆる口径の、あらゆる種類の火砲が三国同盟の陣地を狙って砲撃を始めた。
先ほどまで勝利が得られるのではないかと思っていたものたちも、この魔王軍の猛烈な砲撃を前に、そんな幻想を早々に失った。相手は機関銃どころではない火力を有し、それを投射してきている。
「母さん!」
「クソ、クソ、クソ!」
魔王軍の砲撃は人類の、ドワーフの、エルフの精神を揺さぶり、傷つけ、じっくりと戦場を耕していった。
なお悪いことに魔王軍はゴブリンたちを先に進めさせることで、三国同盟の陣地に位置を把握しており、そこに向けて正確な砲撃が飛んできているのだ。
「敵の弾薬庫の爆発を確認」
「砲撃は効果あり、効果ありです」
魔王軍の砲兵は陣地だけでなく、航空偵察によって明らかになった三国同盟の弾薬庫なども砲撃した。三国同盟の戦線後方できのこ雲のような煙がもうもうと立ち上り、弾薬庫が吹き飛んだことが分かる。
猛烈な砲撃とゴブリン、オーク、トロールの波状攻撃を前に三国同盟側の防衛線は危機的な状況に陥っていく。
さらにこのとき魔王軍はただ物量をぶつけるだけではなく、別の戦術をとっていた。
それはゴブリンの津波で敵の防衛線の弱い位置を探り、そこに戦力を集中させて突破するという戦術だ。
人狼の将校たちは前線でゴブリンたちがぶつかっていき、その中で生き残ったゴブリンが多い位置に予備の部隊を投入する。敵は弱い位置を抜かれ、戦線は突破されてしまう。そのまま突破した敵は後方に回り込んで敵の後方連絡線を遮断。
こうなると戦線は崩壊していってしまう。
「戦線が突破されつつあります!」
「クソ。まだここを渡すわけには行かない。予備戦力を投入し、突破を阻止せよ」
フェアラス大将がそう命じ、魔王軍が突破していった守りの薄い場所に向けて、後方に準備されていた予備戦力が投入された。
しかし、魔王軍の進軍速度は素早く、予備戦力が投入されても戦線の穴が防げない。戦線はじりじりと崩壊していき、それを受けて戦線の後退が始まった。
「残念ですが、これ以上は……」
「……やむをえない。全面的に後退して戦線を立て直す。我々はセリスティア=アラマリス線まで後退し、そこに防衛線を展開する」
ここでフェアラス大将は全面的な撤退を決意。
彼らは一時的に戦線を大きく下げ、そこで戦線を立て直すことに。
「退却だ、退却!」
「重装備は破壊して撤退しろ! 早く!」
三国同盟はラウィンドール川に面した防衛線からじりじりと下がっていき、辛うじて組織的な退却を行った。
魔王軍は追撃を試みるが、ラウィンドール川の氾濫がもたらした破壊を前に、やや進軍が遅れ、完全な追撃とはならなかった。
しかし、ラウィンドール川流域を制圧することには成功した魔王軍は、現地のエルフたちを起用して傀儡政権を樹立。エルフィニア同君王国、またはラウィンドール政権と呼ばれる傀儡政権は魔王軍にエルフィニア全土の解放を求めた。
当然魔王軍はその要請に応じ、エルフィニア攻撃を続ける。
さらに魔王軍は三国同盟が撤退して空になった陣地から機関銃を回収した。彼らはその機関銃に興味を抱き、それを後方に送り、魔王軍でも同様のものが作れないかと試みることになる。
一方の重装備を失って撤退した三国同盟側は危機的だった。
新しく動員された兵士たちや、汎人類帝国、自由ニザヴェッリル軍から派遣されてきた戦力が戦列に加わるも、魔王軍を退けるには心もとない。
しかし、エルフィニアに全く勝算がなかったわけではない。
彼らの国土のほとんどは森におおわれており、彼らはそこで抵抗することを考えていたのだ。ゲリラ戦で粘り強く抵抗すれば、魔王軍も音を上げる。そうエルフィニア政府が考えていたのだった。
そんな中、魔王ソロモンは前線を訪れていた。
魔王軍に制圧された村にソロモンが現れ、ツュアーン上級大将たちが出迎える。
「戦況はどうだ、ツュアーン上級大将?」
「はっ! 我が軍将兵の士気は高く、攻撃を完遂する決意に満ちております!」
「そうか。作戦目標はアラマリスであったか」
「はい、陛下。海軍の準備ができれば、そこから補給を」
「そのようにせよ」
ツュアーン上級大将の報告にソロモンは頷く。
「それから機関銃と呼ばれる武器を鹵獲したそうだな」
「はい。既に後方に送っております」
「よろしい。だが、これから少しばかり面倒なことになるぞ」
ソロモンは予言めいてそう言ったのだった。
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