ラウィンドールダムの戦い
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──ラウィンドールダムの戦い
ラウィンドールダムは汎人類帝国の技術支援を受けて建設された治水用ダムだ。
大雨の際に氾濫を繰り返し、被害を与えてきたラウィンドールを制御するために建設され、今も大量の水を蓄えているダムである。
そのダムを巡って、エルフィニア軍と魔王軍が争っていた。
「魔王軍のワイバーンだ!」
「畜生! 味方の空軍は何をしてるんだよ!?」
魔王軍はレッサードラゴンに護衛された空中突撃部隊をダムに向けて進出させ、ダムの爆破を阻止しようとしていた。
それに対してエルフィニアは工兵を中心にした部隊が、必死に爆弾をダムに設置しており、魔王軍の妨害に抵抗している。
「対空射撃、対空射撃!」
エルフィニア軍が保有する対空火器はルノアール銃を改造したもので、やはり口径13ミリの大口径弾がレッサードラゴンやワイバーンを狙う。
「魔術障壁の飽和に警戒。交互に守れ」
「了解」
レッサードラゴンたちは魔術障壁が飽和しないように交互に攻撃を受け止めながら、友軍の降下まで時間を稼ぐ。
「友軍部隊、降下開始!」
魔王軍の空中突撃部隊はファストロープ降下で一斉にダムに効果し、爆破を急ぐ敵の工兵部隊との交戦を開始した。
「爆破を妨害させるな! 撃て、撃て!」
エルフィニア軍の多くは国産のスティング小銃ではなく、汎人類帝国から供与されたフレジール小銃で武装していた。この小銃は汎人類帝国から多くが供与されており、スティング小銃が全軍を満たせない中、その代わりになっている。
ダムに陣地を作った彼らは、その陣地から抵抗を行う。
「エルフどもを殺せ!」
空中突撃部隊は火砲の類は少数しか有していない。迫撃砲程度だ。
その迫撃砲が火を噴き、ダムの周囲に着弾するが、決定打にはならない。
「突撃、突撃!」
ゴブリンたちがけしかけられ、さらには人狼たちが続く。
「進ませるな!」
「やってやる!」
エルフィニア軍の工兵たちは覚悟を決めて工兵用の爆薬を抱えて走り、それを魔王軍に向けて放り投げる。爆発が生じてゴブリンたちが一斉に薙ぎ払われるが、ゴブリンは味方の死体を乗り越えて進んでくる。
「爆破まであとどの程度だ?」
「間もなく完了です。あと5分、どうにかできれば……」
「5分だな。任せておけ」
工兵を守る部隊の指揮官が頷き、部下たちの方を向く。
「諸君! 我々がやらねば友軍が大勢犠牲になる! 市民たちもだ! よって何としても工兵を守り、ダムを爆破する! やるぞ!」
「了解!」
それからの抵抗は粘り強かった。
「すぐに死ぬな。可能な限り生き残って抵抗しろ」
エルフィニア軍の兵士たちは遮蔽物からの狙撃を繰り返し、ゴブリンではなく人狼の将校を撃ち抜くことで侵攻を遅らせる。
エルフィニア軍のエルフたちの狙撃の腕前は恐ろしいまでに高度だった。全員が元々猟師であることもあり、銃に親しんでいたおかげだ。
「クソ。狙撃手が多すぎる……!」
狙撃手というのは実に面倒なものだ。
軍隊の射撃というのはもちろん相手を狙いはするが、必ず当たる射撃ではない。十分な光学照準器もないこの世界においては、火力を一定に場所に叩き込む程度のものにすぎないのである。
それに対して狙撃手は相手を認識し、確実に相手を屠る一撃を放つ。
このどちらが脅威であるかは言うまでもないだろう。
この狙撃手を叩くには、同じ狙撃手を動員してカウンタースナイプをやるか、あるいは砲兵などの火力支援によって突破するかしかない。
だが、魔王軍のこの空中突撃部隊にはその両方が欠けていた。
先に述べたように火砲は限定的であったし、魔王軍というのは狙撃というのをあまり積極的に行うことをしていない。
その間にもエルフィニア軍工兵によるダムの爆破準備は進み──。
「爆破、爆破!」
大量の爆薬が使用され、ダムがついに爆破された。
「クソ。やられた。撤退だ!」
展開していた魔王軍の空中突撃部隊も崩壊していくダムに巻き込まれるのを避けるために、撤退を始める。一部の部隊はダムの崩壊に巻き込まれてしまい、少なくない戦死者が生じた。
だが、ダムの崩壊による被害がそれだけではない。
ダムが崩壊したことで下流に大量の水が押し寄せ、ラウィンドール川は氾濫。大量の水があふれ出て、辺りのものを全て巻き込み、押し流していく。
それは渡河の最中であった魔王軍だけではなく、流域に暮らすエルフたちも同じように薙ぎ払い、水と泥の中に沈めていったのだった。
「ツュアーン上級大将閣下。ダムが爆破されました……」
「残念だ。だが、想定はしていた。我々はインフラを復旧しながら、攻撃を続行する。ダムひとつ爆破されたところで、我々の勢いは止まらない」
南方軍集団のツュアーン上級大将たちも、ダムが爆破されることを全く想定していなかったわけではない。彼らはダムは爆破される可能性は高いとして、ダム爆破後の侵攻計画を策定していたのだ。
まずはインフラを立て直すこと。この状況で渡河を継続することは不可能だし、継続したところで後方連絡線は寸断されたままになる。
工兵を中心に土木の知識を有する人狼と吸血鬼たちが指揮をとって、インフラの再構築が開始された。道路が復旧され、鉄道が再度敷設され、橋が架橋される。
しかし、時間はかなりかかった。
全ての作業が完了するまでの時間は信じられないほど長く、短い作業でも3ヶ月で長い作業となると1年以上というありさまであった。
魔王軍はラウィンドール川で長らく足踏みをすることになり、一向に前に進めないまま、エルフィニア軍に奇襲の混乱から目覚めさせる時間を与えてしまった。
魔王軍がラウィンドール川を渡河した際には、既にエルフィニア軍は万全の体制をとっており、魔王軍はこれから厳しい戦いを強いられることになる。
第一次、第二次土魔戦争のような奇襲効果もない状況では、魔王軍も力業で戦わざるを得ず、力業で戦うためには準備が必要だ。そのためさらに時間を使わなければならないということになってしまう。
ひたすら時間が過ぎていき、エルフィニア軍と魔王軍との間でラウィンドール川を巡る小競り合いが続き、どちらも決定打になる攻撃が出せない状況となった。
その状況が変わったのは翌年1740年3月のこと。
魔王軍はついに部隊を集結させ、インフラを復旧し、攻撃準備を整えた。
それに対抗するようにしてエルフィニア軍には軍事同盟によって参戦した汎人類帝国と自由ニザヴェッリル軍からの海外遠征軍が派遣されてきており、再び三国同盟軍が結成された。両軍の勢力はぶつかり合う状況となった。
そして、1740年5月。
魔王軍は攻勢計画大槌作戦を決行し、三国同盟への攻撃を開始した。
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