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デュヴァル政権

……………………


 ──デュヴァル政権



 1736年2月。


「私は約束しよう。強い帝国を。何ものにも屈さず、妥協せず、立ち向かう帝国を!」


 汎人類帝国統一党は同党中央委員会が、これまで首相であったアンドレ・ボードワンの解任を決定。アンドレは首相の座から降りた。


 その後任にタカ派のジャック・デュヴァルを任命した。


 アンドレが解任されるのは時間の問題だった。彼は既に人気を失っていたし、ニザヴェッリルでの敗北も大きかった。第二次土魔戦争で汎人類帝国は大勢の犠牲を出したのに、得たものは何もなかったのだ。


「統一党万歳! 帝国万歳! 皇帝陛下万歳!」


「統一党万歳! 帝国万歳! 皇帝陛下万歳!」


 首相官邸のバルコニーから力強い帝国をアピールしたジャックを詰め寄せた市民たちが万歳の声で歓迎する。


 もちろん、全てが自由意志でここでいるわけではない。統一党は汎人類帝国で唯一許された政党であり、この国は一党独裁の下にあるのだから。


「私は生涯をかけて魔王軍に立ち向かうつもりだ! 諸君、今日この日から汎人類帝国は戦時体制である! 戦いはもう始まっている!」


 ジャックはそう訴え、その通りにした。


 彼ら汎人類帝国はニザヴェッリルが滅んだ様子をよく観察しており、その原因についても理解していた。


 そのひとつは政治的な混乱であり、もうひとつはそれを招いた魔王軍の情報工作。そして、技術格差と国力の差だ。


 政治的混乱は執政官選挙の直後に第一次土魔戦争が勃発したことや、執政官と元老院でねじれが生じた状態で起きた第二次土魔戦争を見れば分かる。


 意思決定の遅れはそれだけで戦況を不利にすると。


 さらに言えば、その過程で魔王軍は情報工作を行っていた。対立をあおり、厭戦感情をあおるような工作を行っていたことが、汎人類帝国に亡命したニザヴェッリル政府関係者によって判明している。


 後は純粋に力の問題である。


 技術と国力。これらに関しては魔王軍のそれがどの程度か分からないので、まだ何とも言えないが、恐らく汎人類帝国ならば対抗できる可能性はあった。


 となれば、問題は先のふたつだ。政治混乱と魔王軍の工作。


 ジャックはこれに対して厳しい情報統制などで応じた。


 新聞やラジオなどは検閲され、統一党及びデュヴァル政権に不都合な情報が記された場合には、発行禁止や放送免許の没収が容赦なく行われたのだ。


 彼がいうとろこの戦いとはそういうものであり、そして戦時体制とはこういうことであった。


 さて、デュヴァル政権はタカ派の指導者であるジャックの下に結成された。大勢の閣僚のうち、ほとんどはタカ派の党員たちである。


 しかし、ほとんどといったように全てがタカ派ではない。


 そのことは最初に開かれた閣僚会議で分かる。


「諸君。よく私の求めに応じてくれた。感謝する」


 ジャックはそう言って閣僚たちを見渡す。


「特にルヴェリエ外務大臣は私の求めに応じるのは難しかっただろうが、それでも今の地位を受け入れてくれた。感謝している」


「いえ。私にできることがあるならば、と」


 ボードワン政権で外務大臣であったエリザベト・ルヴェリエ外務大臣が、デュヴァル政権でも引き続き外務大臣を務めることになった。


 これにはある理由がある。


 ボードワン政権からデュヴァル政権に代わったことで、エルフィニアとの外交関係が完全にリセットされるわけではないということを示すため。


 エルフィニアとの関係はボードワン政権のときは良好だった。そのおかげで第二次土魔戦争では肩を並べて戦えたのだ。


 しかし、ジャックは魔王軍はおろかエルフィニアすらも敵視するような発言を、今の地位を得るまでに繰り返してきた、そのせいもあって、エルフィニアはジャックが首相になったことに懸念を示している。


 ジャックにとってはエルフィニアはかつては自分たち人類を脅かした異種族の国であり、警戒すべきものであった。


 だが、状況は変わったのだ。


 ジャックは威勢のいいことをいうが、決して自分の言動に振り回されるほど愚かではない。今は魔王軍にとっての緩衝地帯となっているエルフィニアと敵対して、魔王軍に利してやる必要はないと理解している。


 だから、エリザベトを留任させた。親エルフィニアである彼女が留任すれば、エルフィニアとの交渉もスムーズに進むという考えからだ。


「さて、まず話し合わねばならないのは今後の魔王軍への対応だ」


 ジャックが閣僚たちを前にそう切り出す。


「ニザヴェッリルは崩壊し、今や我々は魔王軍と国境を接している。これからは本土防衛も考えなければならない。もはや魔族の侵略という津波を前にして、防波堤は存在しないのだ」


 ニザヴェッリルが陥落し、リヒテンハイン政権が発足してから、汎人類帝国は北部にて事実上魔王軍と国境を接した。


 もはや汎人類帝国はその本土を脅かされている。


「デュフォール大臣。参謀本部の将軍たちによく言って聞かせておいてほしい。我々は祖国防衛のためにいかなる軍への支援も惜しまないと。そうであるからにして、国土を僅かでも魔王軍に渡すことがないことを求めると」


「分かりました、首相。伝えておきましょう。軍は既に準備を始めているはずです」


 ジャックの求めに応じるのは老齢の男性で、国防大臣のオリヴィエ・デュフォールだ。彼は元陸軍大将で、統一党党員だった。ジャックが政権を立ち上げた際に初めて閣僚入りし、国防大臣任命された経緯がある。


 ここで思い出す名前はアドラーピッツェ線で戦っていたエルフィニア外人部隊のアルフォンス・デュフォール少佐だろう。


 彼とオリヴィエは血縁であり、デュフォール少佐はオリヴィエの息子だ。


 元帝国陸軍大将の父とエルフィニア外人部隊に所属することを選んだ息子。そこには何やら根深い問題を感じさせていた。


「まずは軍を立て直さなければ。第二次土魔戦争で我々は多くの将兵を失った。それを埋め合わせる必要がある。それも早急に、だ」


 汎人類帝国が派遣した帝国海外遠征軍は大損害を出して戻ってきた。装備と人員を失い、ニザヴェッリルから撤退してきた。


 汎人類帝国の工業力があれば装備は短期間で補充できるだろうが、訓練された将兵というのはなかなか補充が難しい。人的資源というのは、それぞれの人生があるものであって、すぐに無から生えてくるわけではないのだ。


 グスタフ線やアドラーピッツェ線で犠牲になった将兵にも家族がいて、それぞれの生活があった。国家というものはそれを統計上の数字としかみなさないものの。


「国防省としては再び魔王軍との戦争可能になるのは3年後と考えております。それまでには新しい将校なども十分に教育できているかと」


「ふうむ。3年か……。長いな……」


「今は現有戦力で魔王軍を脅し、外交で宥めて開戦を遅らせるしか」


「あるいは我々以外の人間に戦ってもらいうか」


「我々以外……?」


 ジャックが不意に口にした言葉に閣僚たちが眉を歪めた。


「エルフとそしてドワーフだよ」


……………………

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