北部崩壊
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──北部崩壊
アドラーピッツェ山脈に立て籠もった三国同盟軍は必死の抵抗を繰り広げるも、魔王軍の欺瞞工作と人海戦術を前に膝を突いた。
「閣下。もはやアドラーピッツェ山脈は防衛戦として機能しておりません……」
三国同盟北部戦域軍司令部では悲痛な空気が流れていた。
「よもや希望は尽きたか……」
司令官のクールベ上級大将はそう呟いた。
「テオドール・エッカルト執政官閣下に連絡。戦線は完全に崩壊し、北部戦域軍は壊滅状態である。ゾンネンブルク、いやアドラーピッツェ山脈以西の全てにおいて住民を避難させられたし、と」
「了解」
勝利への希望は消えた。国土を奪還するため反撃はできないどろこか、もうアドラーピッツェを守り抜くこそすら不可能。
これから長い敗走が始まり、それから国が滅ぶのだ。
「我々は最後まで抵抗し、ニザヴェッリルを延命する。次に防衛に適した地形は、恐らくはケルムト川に沿った線だとするが、どうか?」
「その通りかと。しかし、後退してばかりでは時間はあまり稼げません。ここは兵力がまだ組織立っている間に局所的な反撃をされてはどうでしょうか?」
「反撃か。可能なのか?」
「現在撤退中の部隊で我が軍の第15歩兵師団がほぼ無傷です。それに撤退中の部隊を集めれば、どうにか」
「よし。すぐに計画を策定しろ」
「了解」
こうして北部戦域軍は完全に壊滅する前に、魔王軍に一矢報いることを決意。迫りくる魔王軍に向けての反撃が準備され始めた。
そのころ、魔王軍北方軍集団司令部でも困難な状態への対処が議題になっていた。
「ゴブリンとオークをかなり消費しました。次の攻勢の前に補充が必要かと」
そう北部軍集団司令部の参謀が告げる通り、魔王軍はアドラーピッツェ線を何も無傷で乗り越えたわけではない。下手をすれば三国同盟が出した被害より、莫大な被害を出している可能性すらあった。
ただ、戦死したのはゴブリンやオークという下層民であり、弾除けに使われるものたちであるから、そこまで深刻な被害ではない。
だが、それでも魔王軍が人海戦術を繰り広げる上では重要であり、足りなければ他のものが血を流すことになる。
「しかし、アドラーピッツェを攻める前のようにのろのろしたら、せっかく突破したことで望みえる戦果が拡大できない。ここは多少無理をしてでも前進するべきだ」
ブラウ上級大将は参謀の意見にそう返した。
魔王軍はアドラーピッツェを攻める前には入念に準備していた。大量の物資を集積し、兵員を集結させ、火砲を集結させ、敵に対して欺瞞工作を徹底した。
そして、今やアドラーピッツェから三国同盟軍は撤退している。
司令官としてはこれを情け容赦なく追撃し、前進を続けさせたい。できるならば、この攻勢でニザヴェッリルの首都ゾンネンブルクまで到達したい。
そういう考えがあったが故に、ブラウ上級大将はまた足踏みすることを拒んだ。
「ですが、閣下。このまま追撃を続けた場合、兵站や人員の面でのちのち問題が生じるかと思いますが……」
「その前に勝利を決定的にすればいい。追撃を続けさせる。将兵に足を止めさせるな」
「了解です」
こうして北方軍集団司令部は追撃を決意。
薄くなったゴブリンとオーク、トロールの層を突撃させながら、人狼たちがそれに続く。火砲は依然としてちゃんと追いついているが、砲弾は底が見え始めていた。
しかし、火砲を欠いているのは三国同盟軍としても同じだ。アドラーピッツェから撤退していく彼らは重装備をほぼ放棄したために、魔王軍の砲撃に対して対砲迫射撃を行うことも、もはや不可能であった。
そういう事情で戦闘は火力の不足したものになるかと思われたが、ここにきて魔王空軍が行動を活発化させ始めた。
三国同盟軍側が撤退の際に重装備を放棄したことで、対空火器も喪失したと見たのだろう。カリグラ元帥自らが弾3航空艦隊に追撃を命じ、魔王空軍は三国同盟軍の撤退阻止に向けて動いた。
もちろん、カリグラ元帥には陸軍の勝利の裏で空軍が目立たないということは許せないという政治的思惑もあったに違いない。今回のアドラーピッツェの戦いでは、魔王空軍の地上部隊は参戦しないのだから。
レッサードラゴンたちが編隊を組んで戦闘哨戒飛行に当たる中で、ファイアドレイクが地上の撤退している三国同盟軍を狙う。撤退中で隠れることのできない彼らはファイアドレイクからすればいい目標であった。
火炎放射が浴びせられ、地上が炎に飲まれる。
大地が焼け、家屋が焼け、人間が焼け、ドワーフが焼け、エルフが焼けた。
ただ、三国同盟軍にとっての幸運が主に攻撃を仕掛けてきたのがファイアドレイクだということだろう。魔術障壁のないファイアドレイクならば、所持している銃火器で対抗できる範囲だ。
損害は覚悟の上になるが、全く手出しができないということで生じる混乱や士気の低下はある程度防げる。
そんな魔王空軍に立ちふさがるものが現れた。
三国同盟軍の航空戦力だ。
「敵竜視認!」
「我に続け! 突撃、突撃!」
まず攻撃を仕掛けてきたのは汎人類帝国から支援を受けて育成されたニザヴェッリル陸軍航空隊の空中騎手たち。
グリフォンに跨った彼らは汎人類帝国から供与された口径13ミリ弾を使用する大口径ライフルであり“竜撃ち銃”と呼ばれるルノアール銃を装備していた。
このルノアール銃は主に魔術障壁を展開するグレートドラゴンやレッサードラゴンを相手にするために開発されたもので、帝国陸軍での採用はない。帝国陸軍は7.7ミリ弾を改良したものを対空火器として配備している。
「よく狙って撃ち抜け」
ルノアール銃を構えたドワーフたちが一斉に飛行しているファイアドレイクを狙って射撃。魔術障壁を持たない彼らは一瞬でひき肉にされて撃墜された。
「4時の方向からレッサードラゴンの編隊!」
しかし、そのことに気づかない魔王軍ではない。戦闘哨戒飛行中だったレッサードラゴンたちがファイアドレイクからの救援要請を受けて駆け付け、ニザヴェッリル陸軍航空隊との戦闘に突入した。
レッサードラゴンが展開する魔術障壁に向けて13ミリ弾が叩き込まれ、障壁が一瞬で飽和寸前に至る。グレートドラゴンに比べれば薄い魔術障壁しか持たないレッサードラゴンにこの武器は有効だった。
しかし、残念なことにルノアール銃は単発式で連射ができない。
それが帝国陸軍がルノアール銃を採用しなかった理由だ。彼らは旧式銃のように一発撃つと再装填が必要な銃ではもはや戦えないと考えていたのである。
それでもドワーフたちは奮戦した。
「俺が援護する。再装填を急げ!」
互いを援護しあいながら、装填と射撃を行い、レッサードラゴンと交戦。レッサードラゴン2体を撃破することに成功した彼らは──最後はレッサードラゴンに追い詰められて全滅した。
しかし、どうして今になってニザヴェッリル陸軍航空隊は活動を始めたのか。
それは三国同盟北部戦域軍隷下第15歩兵師団が反撃に出ようとしてるからだ。
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