地下構造
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──地下構造
魔王軍は出血しながらも、アルトヴァルト制圧を目指していた。
だが、アルトヴァルト防衛を担う三国同盟軍は、それはもう恐ろしいまでに粘り強く抵抗を続けていた。
建物という建物に立て籠もり、狙撃によって魔王軍を釘付けにする。都市の構造をよく知る地元出身の兵士が抜け道を案内し、魔王軍の背後に現れて襲うことも。
魔王軍がいくら航空優勢を握り、空からの目で支援してもらえるとしても、建物の中までは見通せない。三国同盟軍は瓦礫の山を潜り抜け、建物の中を、トンネルの中を通って移動しているからだ。
魔王軍はこれに対して建物に口径57ミリ山砲の直接照準射撃で砲弾を叩き込んだり、トンネルを爆破して塞いだりしているが、このドワーフの作った都市は地下構造が本当に面倒な相手になっていた。
「ゴブリンども! 進め!」
またひとつのトンネルの攻略を魔王軍のある部隊は目指していた。
ゴブリンたちがまずは投入され、トンネルに向けて前進。そこでトンネルから砲撃があり、ゴブリンたちが薙ぎ払われる。
このアルトヴァルトのトンネルはトーチカ的な役割を果たしていた。堅牢で砲撃では崩れず、火砲で反撃することは難しいトーチカだ。
これを攻略するには兵士をすり潰すしかない。
トンネルに向けて無数のゴブリンたちが突撃していき、数によってトンネルの入り口を確保しようとする。トンネルからは銃撃、砲撃と火力が叩き込まれてきたが、ゴブリンたちはそれでもトンネルの入り口に到達。
いつものように爆弾を背負わさせていたゴブリンが爆発してトンネル入り口の敵を友軍ごと吹き飛ばす。
「いいぞ。突入だ。俺に続け!」
それから人狼の将校に指揮される部隊がトンネルに向かっていった。彼らはトンネルの入り口から中に手榴弾をまずは投げ込み、それが炸裂してから前進する。
トンネルを巡る戦いは非常に血なまぐさかった。不意の遭遇戦になることも多く、その際に役に立つのは銃よりもスコップや銃剣などの白兵戦に使える武器だ。それらの武器を使った戦闘は野蛮ともいえる殺し方になる。
さらに魔王軍を苦しめたのはトンネル内のブービートラップの存在だ。
三国同盟軍は悪意あるトラップをあちこちに仕掛け、魔王軍はトンネルを無理やり攻略しようとするごとに損害を出していた。
いきなり数万の意兵力が包囲されて殲滅されて失われるわけではないが、市街地戦におけるじわじわとした出血は確実に響いていた。
「何か有効な手段はないのか?」
ロート大将は忌々し気に参謀たちに尋ねた。彼もトンネルや市街地を利用した三国同盟軍のしぶとい抵抗については報告されており、被害が報告されるごとに憂鬱な気分になっていたのだった。
「トンネル内での戦闘を避け、出入り口を爆破して封じるのはどうでしょうか?」
「我々が全てのトンネルの出入り口を把握しているならば、それもいいだろうが、我々はどこから敵が現れるのかすら把握できていない。難しいだろう」
トンネルの位置や順路を把握できれば、トンネル内の敵と交戦せず、トンネの出入り口を潰すだけで事足りる。しかし、現状魔王軍はアルトヴァルトの地下について、何か有力な情報を持っているわけではない。
「そうであればやはりひとつずつ潰すしかありませんね。時間はかかり、損害は広がりますが、それでもアルトヴァルトは確実に制圧しなければ」
「忌々しいが仕方がないな。兵力をすり潰してでも勝利を」
アルトヴァルト攻略が始まってから既に7日が過ぎているが、未だに魔王軍は足止めを食らっている。魔王陸軍砲兵に補給のめどはまだ立っておらず、また砲兵の支援があっても頑丈な地下トンネルに潜む三国同盟軍には意味がなかった。
とにかく時間と兵員を浪費している。
魔王軍の士気が低下する反面、三国同盟軍はときおり局所的に反撃に出るほどであり、まだまだ士気は高い。というよりも、もはや完全な死兵になってしまっていると言えるだろう。
自分たちはもうここで死ぬしかなく、魔王軍の兵士をひとりでも多く殺せば、自分の人生に意味が生まれる。そう考えた三国同盟軍の将兵たちは死に物狂いで戦い、決して降伏や撤退を行わなかった。
だが、魔王軍もいつまでも三国同盟軍のはた迷惑な自殺に付き合うつもりはなかった。魔王軍はついにトンネルに対する有効な手段を生み出した。
「やれ!」
人狼の将校の号令とともに爆発音が響く。それと同時にトンネル向けて大量の水が流れ込み始めた。
そう、魔王軍はアルトヴァルトの上下水道を掌握すると、トンネルをその水によって水攻めにすることにしたのである。
これでトンネルのほとんどは無力化され、アルトヴァルト制圧が一気に進んだ。
もはや敗北は間近と悟った三国同盟軍側の司令官トレスコウ中将はインフラの破壊を指示。鉄道路線のひとつから、陸橋などの道路に至るまで破壊されることとなった。
そして、司令部のあった南東部の教会に魔王軍が迫るのに──。
「全軍、打って出るぞ。敵に食らいつく最後のチャンスだ」
トレスコウ中将は反撃を命じた。
もはやそんな兵力はなく、装備もなく、弾薬もない状態で命じたのだ。彼はどうせ魔王軍が捕虜を取ったりしないことを知っていたので、部下たちが捕虜になって拷問を受けて死ぬより、戦場で死なせた方が慈悲深いとすら思っていた。
「戦えない負傷者は将校の義務を果たし、楽にしてやれ。その後、全軍で魔王軍に攻撃を仕掛ける。ひとりでも多くの魔族を道連れにしてやれ。火砲も最後の砲弾まで全てを使い切るんだ」
「了解です、トレスコウ中将閣下。ご一緒できて光栄でした」
「ああ。私もだ」
そして、アルトヴァルト防衛軍は市街地から一斉に魔王軍に対して攻撃に出た。
後援に展開した生き残りの砲兵が最後の砲弾まで撃ち尽くし、三国同盟軍は魔王軍に突撃していく。歩けるものは負傷者であろうと動員され、魔王軍に襲い掛かった。
「突撃ぃ!」
「フラアアアアァァァァ────!」
雄たけび上げ、戦争の狂気に浸り、三国同盟軍の兵士たちはあるものは銃剣を装着した小銃を手に、あるものは先祖から引き継いだ剣を持ち、ただ勇気だけは共通して魔王軍に刃を突き立てる。
「クソ。火力を集中し、連中の突撃を粉砕しろ!」
その突撃に対して人狼の将校が叫び、魔王軍が必死に銃撃で迎撃を試みた。
魔王軍は野砲の水平射撃も交えて三国同盟軍の反撃に応じたが、長い市街地戦で疲弊し、物資も尽きかけていた魔王軍は少なくない損害を出してしまう。
しかし、この最後の戦いでアルトヴァルトの命運は決した。
トレスコウ中将を含めて三国同盟軍は全滅し、魔王軍はついにアルトヴァルトの占領を宣言した。もっとも魔王軍が確保したかったアルトヴァルトのインフラのほとんどは、魔王軍と三国同盟軍の手で破壊されてしまったが……。
そして、三国同盟軍は当初計画していた目的を果たせた。
彼らはアドラーピッツェ山脈に立て籠もり、西部防衛の構えを見せている。
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