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追撃戦

……………………


 ──追撃戦



 最終的にシュタインバッハ村に籠っていた三国同盟軍は潰走した。ファノン曹長は最後まで重砲部隊の指揮を取り、部下を逃がした。だが、彼自身の消息は不明だ。


 ファノン曹長が工兵に要請した橋の爆破は一歩及ばずに、魔王軍が橋を奪取してしまった。オランジェ大佐たちはその橋でゴルト少佐たち第501独立重装地竜大隊を出迎えたのだった。


 そして、このような動きはグスタフ線の背後のあちこちで発生していた。


 魔王軍による突破、突破、突破。戦線はもはや崩壊していると言えた。


 だが、戦略予備が辛うじてグスタフ線の友軍部隊を救出。魔王軍による包囲が完成する前に彼らを救出した戦略予備の部隊は、その友軍とともに撤退を開始した。


 彼らが目指すは後方のアドラーピッツェ山脈。


 古くからのドワーフの要塞も存在する高い山脈だ。


 そこまで引けば、そこまで耐えきれば、ニザヴェッリルを守れるかもしれない。希望はまだあるのかもしれない。


 そうであるが故に友軍をそこまで到達させようと、あらゆる部隊が懸命にに戦った。


 特にニザヴェッリル軍のドワーフたちはほとんどの部隊が喜んで殿を務めた。


「アドラーピッツェでまた!」


 撤退する部隊と彼らは最後はそう言って別れたが、彼らのほとんどが魔王軍の激しい追撃戦の中で全滅した。文字通りの全滅だ。


「戦況はますます悪くなっている」


 三国同盟北部戦域軍司令部にて司令官のクールベ上級大将が告げる。


「魔王軍の追撃戦が激しく、我が方の出血は甚大だ」


 軍隊は正面から戦っているときよりも撤退するときの方が脆弱で、多くの犠牲を出すと言われている。そのことは今の北部戦域軍が証明しているようなものだ。


 北部戦域軍は魔王軍の情け容赦ない追撃を受け、大損害を出しまっている。


 魔王軍は戦意高く、計画通りに前進しているのに対して、三国同盟はその正反対だ。士気はどん底で、計画などとうに破綻した。


 混乱の中で撤退はゆっくりとしか進まず、逃げ遅れた部隊は犠牲になっていく。


「アドラーピッツェに友軍主力を逃がすために、どこかで魔王軍に対して抵抗しなければならない。多少の抵抗ではない。断固とした抵抗だ。魔王軍が進軍を躊躇うほどの抵抗が必要であると考える」


 その上でクールベ上級大将は魔王軍の進軍を食い止めようとしている。


 友軍が無事にアドラーピッツェに到着しなければ、魔王軍はその山脈を超えて、ニザヴェッリル西部を征服するだろう。ゾンネンブルクも長くはもたないはずだ。


「それはどの地点で?」


「アルトヴァルト。この都市で敵への抵抗を試みる」


 クールベ上級大将が指示したのはアドラーピッツェに至るまでの山々の、その間の谷にある都市であった。


 それは古代ドワーフ式の半地下都市で、鉄鉱山などの鉱山に隣接している。半地下都市というのはドワーフにとっても近年の都市計画の流行りからははずれているが、軍事的な抵抗をするのには向いていた。


「現地に兵はおりませんが……」


「こちらから派遣できるのは僅かだ。よって、撤退途中の兵を使って防衛部隊を組織せよ。司令官はニザヴェッリル陸軍のパウル・トレスコウ中将に一任する」


 ここでクールベ上級大将が命じたのはトレスコウ中将で、そのドワーフは黙ったまま一礼して任務を引き受けた。


 正直な話として、この状態で魔王軍が迫る都市の防衛に行けというのは、死んで来いと言っているのも同義だ。


 それでも誰かがやらなければならなかったし、ニザヴェッリルの、ドワーフの都市に立て籠もって抵抗するならば、それはドワーフの将軍が指揮を執らねばならなかった。


「幸運を、トレスコウ中将」


「今の我々にはそれが必要でしょうな」


 クールベ上級大将がトレスコウ中将を送り出し、彼は参謀と僅かな増援を連れてアルトヴァルトに向けて出発した。


 さて、三国同盟側から見た魔王軍は何の問題もなく、前進を続けているように見えていたが、そうでもない。彼らは彼らで問題を抱えていた。


「我々は一体何時間ここで足止めを食らっているんだ?」


「閣下。安全が確保できるまで司令部は前進できません」


 変わらず北方軍集団司令官を務めるブラウ上級大将は、その司令部を破壊され尽くされたグスタフ線の向こう側へと動かそうとしていたがそれができていない。


 というのも、北部戦域軍が敢えて残した部隊がゲリラ化して魔王軍の鉄道や橋にサボタージュを行っているからだ。


 ブラウ上級大将もその影響を受けて、司令部は移動できないまま、部隊だけがどんどん前進しているという不安な状況になっていた。


「憲兵に我々が通る道だけ確保させてはどうか?」


「狙撃の恐れが……」


「戦場で撃たれる覚悟ぐらい私だってしている!」


 今は自分のみの安全云々より前線の部隊の方がブラウ上級大将には心配だったが、周囲は違っていた。


 それは魔王軍内部の派閥争いに関係する。


 ブラウ上級大将はシュヴァルツ上級大将に面倒を見てもらって今の地位にあった。そして、そのシュヴァルツ上級大将はオリーフ退役上級大将に世話になっており、彼の派閥に属している。


 しかし、最近の魔王陸軍内ではオリーフ退役上級大将と反目する別の派閥が生じ始めているのだ。組織が大きければ大きいほど派閥は生じやすいというが……。


 そのためブラウ上級大将が万が一にでも戦死し、代わりとなる司令官が陸軍の主流であるオリーフ派以外の魔族になるのは困る。そういうわけであった。


 そのくだらない派閥争いが前線に向かう司令部に影響し始めているとき、ようやく前線部隊も後方の司令部からの命令が遅れ始めていることに気づいた。


「前進すべきか?」


 どんな小部隊も作戦目標達成したのちにさらに前進するのか、それともその場にとどまるのかが分からなくなり、一斉に通信が行われ、そのせいで通信がパンクする。


 北方軍集団司令部は宙ぶらりんで、前線部隊は右往左往。


 恐ろしい魔王軍の姿はどこへやら。魔王軍は不意にその前進を停止した。


 三国同盟にしてみれば降ってわいた幸運である。


 ニザヴェッリル陸軍のトレスコウ中将は無事にアルトヴァルトに到着して、撤退していた兵士たちをかき集め、防衛戦に備え始めた。


 トレスコウ中将が司令部をアルトヴァルトに設置して、それから暫く経ったのちにブラウ上級大将も無事に司令部をグスタフ線以西に設置。再び命令を発令し始める。


「全軍、アドラーピッツェまで前進せよ」


 魔王軍も狙うは西部の山脈アドラーピッツェであったが、その途中にアルトヴァルトが立ちふさがることになる。


 列車砲や空軍部隊などもパルチザンの攻撃を受けながらも前進し続け、魔王軍の誇る火力が前進していく。


 それらはやがてアルトヴァルトに到着する。ひとりのドワーフが執念を以て立て籠もる要塞と化した都市に向けて。


……………………

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