シュタインバッハ村の戦い
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──シュタインバッハ村の戦い
魔王軍はグスタフ線を崩壊させつつある中で、三国同盟北部戦域軍司令部はある命令を発令した。内容を説明すると以下の通り。
グスタフ線は放棄される。あらゆる魔王軍に利用される恐れのある装備と設備は破壊して撤退せよ。予定される撤退ラインは事前に通知されていた通り、アドラーピッツェ線である。
そう、グスタフ線は1週間すら持たずに撤退が開始されたのだ。
本来ならばエミール線が完成しており、そのふたつ目の要塞線と組み合わせて防衛が行われるはずだったが、残念なことにエミール線は完成していない。
よって、次の防衛線が自然に天然の要害であるアドラーピッツェ山脈となった。
「戦略予備を投入しろ。友軍撤退のための道を作るんだ」
北部戦域軍司令官のクールベ上級大将はそう命じ、後方に控えさせていた全ての戦略予備の投入を決定。
汎人類帝国陸軍から7個師団、ニザヴェッリル陸軍から3個師団、エルフィニア陸軍から2個旅団の戦略予備が投入され、グスタフ線の友軍救出へと向かった。
しかし、その間には既に魔王軍の特殊作戦部隊が展開している。
彼らはこの魔王軍の展開させた特殊作戦部隊も相手にしなければならない。
グスタフ線では戦略予備の到着を待たず、北部戦域軍の将兵たちが撤退を開始。グスタフ線内の魔王軍に鹵獲される可能性のある装備は爆破され、設備も壊され、焦土作戦のごとき破壊を振りまいたのちに撤退を始めた。
魔王軍の主力はまだ殿の部隊が抑えているが、撤退は容易ではない。
「狙撃だ!」
「畜生、どこから撃って来やがった!?」
各地に潜伏している魔王軍の独立特殊任務旅団の将兵たちが撤退しようとする三国同盟側の戦力を足止めする。狙撃に爆破を繰り返し、三国同盟側を混乱させ、彼らの撤退を遅滞させていた。
そして、その間に魔王軍の主力の一部はグスタフ線を抜けた。第501独立重装地竜大隊を中核とする部隊がグスタフ線に穴を穿ち、その穴を押し広げ始めていた。
「進め、進め! 友軍のために突破口を開くんだ!」
ゴルト少佐は装甲ワームの装甲板を掴んで前線に立ち、そこで装甲ワームたちを指揮していた。装甲ワームは今や無類の強さを誇る存在となり、グスタフ線後方に回り込むと、そこで暴れ始めている。
ゴルト少佐たち第501独立重装地竜大隊はグスタフ線の後方連絡線を遮断し、撤退しようとする三国同盟側に立ちふさがった。
「クソ! あんな化け物の相手ができるのかよ!」
「小銃じゃあ効果がない!」
撤退の際に重装備のほとんどを喪失している三国同盟軍に装甲ワームを撃破する手段はなく、小銃で戦いを挑んでは装甲ワームから爆炎を浴びて撃破されていた。
そんな装甲ワームが苦戦する戦いがこれから起きる。
戦いの舞台となるのはシュタインバッハ村という小さな村で、そこにはレーテ川の小さな支流が流れており、橋があった。
ゴルト少佐たちが橋に目を付けたのは当然だ。装甲ワームの弱点は、酷く渡河を苦手とすることなのだから。
「斥候が戻りました」
ゴルト少佐はまず騎兵を放って村の状況を確認した。
「少佐殿。敵は村に重砲を据えております」
「何だと? 重砲なんてどこから……」
ゴルト少佐たちは知ることがなかったが、三国同盟軍はエミール線に配置予定だった火砲を、グスタフ線から撤退する友軍を支援するために展開させていたのだ。そして、彼らは友軍が撤退路とするシュタインバッハ村を防衛している、と。
「重砲に耐えられるか……」
これまで装甲ワームに浴びせられたのはせいぜい口径75ミリの榴弾ぐらいであった。それが重砲となると装甲ワームでも耐えられるか怪しくなる。
「しかし、のろのろと友軍を待つわけにもいかない。突撃だ」
ゴルト少佐は決心し、前進を命じる。
彼の命令によって装甲ワームたちを先頭に第501独立重装地竜大隊は前進し、シュタインバッハ村を目指す。
周囲に警戒しながらシュタインバッハに近づいてきたときだ。
「おおい。止まれ!」
汎人類帝国の軍服を身に着けた兵士たちが前方に現れた。しかし、その臭いからゴルト少佐は彼らが人間ではないことに気づいていた。
「どうした?」
「なに、ちょっと俺たちを運んでくれるやつを探しててな。俺は独立特殊任務旅団のオランジェ大佐だ。よろしく頼む」
そう彼らは人狼だ。独立特殊任務旅団の兵士たちは、敵である汎人類帝国の軍服を着て、敵地後方で活動していた。言うまでもなく卑怯な手段だが、彼らはずっと前からこの手の手段を使っている。
「大佐殿。こっちはシュタインバッハ村という場所を目指してる。そこでよければ連れていくよ。どうする?」
「よし。それでいい。連れて行ってくれ」
「あいよ」
ここでオランジェ大佐の1個小隊が加わり、ゴルト少佐とともにシュタインバッハ村を目指した。
途中で撤退中の三国同盟軍を攻撃しながら、ゴルト少佐たちはついにシュタインバッハ村に到着しようと──。
「砲撃、砲撃!」
「伏せろ!」
砲声が響き、先頭を進んでいた装甲ワームが被弾。大規模な爆発が生じたのちに残っていたのは装甲ワームの下半身だけであった。
「例の重砲か、畜生め」
ゴルト少佐たちは一度後退し、また斥候を出して重砲の位置を確認する。
「敵は村を防衛するように布陣している」
そして得られた情報をゴルト少佐がオランジェ大佐たちと共有。
「重砲は村の南と北に。汎人類帝国製の口径200ミリクラスの重砲が4門だ。それからさらに東の村に入り口に偽装された口径75ミりクラスの野砲が4門」
「兵員の数は?」
「確認できたのは1個中隊規模。だが、まだまだいるだろう」
「楽しくなってきたな?」
流石は独立特殊任務旅団の指揮官であるオランジェ大佐は慣れた様子だった。笑いを浮かべるほどの余裕を持っている。
「大佐殿。あんたは乗客とは言えどここでの指揮官だ。どうする?」
「俺たちは精鋭といえど所詮は軽歩兵だ。迫撃砲すら持っちゃいない。だから、ここはお前に任せる、ゴルト少佐。正面突破はお手のものだろう?」
「分かった。我々が突破口を開く」
こうしてゴルト少佐の装甲ワームたちが突破口を切り開くことに。
「迫撃砲で煙幕を展開して、その隙に突っ込むぞ」
正直、重砲で直接照準射撃をされるなど想定もしていない。重砲はそういう用途で使うには不向きな兵器だからだ。砲弾は重く、連続した射撃は困難で、キャニスター弾などの歩兵に有効な砲弾があるわけでもない。
実を言えば村に立て籠もっている三国同盟側も重砲で直接照準射撃をやるつもりはなかった。だが、グスタフ線から逃げてきた兵士が言うには口径75ミリ程度の砲撃では、装甲ワームを止められないと聞き、急遽実施したのだ。
そして、再びそれが求められている。
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