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第96話 あとの祭り 1

 その晩オークの村の中央広場では、キャンプファイアーを囲んでのちょっとした祭りが催されていた。


 祭りの趣旨は、まぁ色々だ。

 俺がこの村の新たな支配者になった記念。

 マンティコアを撃退しヌシを倒した記念。

 オークに死者重傷者が出なかった記念。 

 ちなみに村の外の結界も新しく建て直し、マンティコアに対する脅威も再び取り除かれた。


 俺とライアスの決闘の後、再び村長の家でラトルの治療が行われた。

 ユーティアの治癒魔法とドクターミンチの怪しい塗り薬との併用で、ラトルの傷はほぼ塞がる。


 治療の間、ライアスとグルードには村長から俺達と同じように納豆卵かけご飯が振る舞われた。


 目の前に並べられた食品群に、戦闘中ですら見せなかったほどの戦慄した表情を浮かべるライアス。

 しかし顔を引きつらせながらも律義に口へ運ぶ様は、今思い出しても吹き出しそうになる。


 対照的にグルードはガツガツと三杯も平らげる有様で……こいつはもうここに住んだほうがいいぞ、いやホントに。


 その後ライアスは村長からオークは王国に敵意はないとの説明を受け、またラトルの説得もあってオークのことは王国に報告しないことを確約した。


 オーク脅威論は、やはり不確かな情報として王国に漏れ伝わったものらしい。

 王国としても半信半疑で調査に乗り出しただけのようだ。

 ライアスが森にオークが居る形跡は無かったと報告すれば、王国もそれ以上は深追いしないだろうとのこと。


 まぁなんにしても、狂瀾怒濤のごとき一日はこれでようやく丸く収まったってトコらしい。


「あの……これならお口に合うかと思うのですが、よろしければお召し上がりになりませんか?」

 よせばいいのに、ユーティアは広場の端で一人切り株に腰掛けているライアスに声をかける。


 ラトルとマリオンはオークの子供達とはしゃぎながら祭りの出店を練り歩いている。

 ライアスはこんな時ですらラトルから目を離さぬよう、ここで身を潜めていたようだ。


「あ……ああ、いただくとしよう」

 戸惑いながらも、ライアスは紙製の船皿を受け取る。

 中身は鶏肉とネギを串で刺して焼いてタレを付けたもの。

 つまりねぎまだ。


 ライアスは先端の鶏肉とネギを一口でかじると、咀嚼して飲み込む。

 想像以上に美味だったのか、感心したように串を眺める。


 しかしそんな仕草を微笑ましく眺めるユーティアの視線に気が付くと、気恥ずかしそうに目を背ける。

 この体をユーティアに戻して以降、ライアスはユーティアとの接し方に苦慮しているようだ。

 ユーティアへと交替した際の人格の変貌ぶりは、もはや猫を被っているというレベルではないので当然ではあるが。

 かと言って種明かしをするつもりももちろん無い。

 まぁ精々振り回されてくれ。


「ありがとうございます。オークさん達のこと。王国を……その、裏切るような形にさせてしまって心苦しいのですが。でも私は、こうして他の種族の平和を守ることも、とても名誉なことだと思います。それは王国の平和を守るのと同じぐらいに。エクシードでもない私がライアスさんに意見するのも差し出がましい話なのですが……」

 ユーティアの言葉にライアスはしばし目を瞑り押し黙る。

 やはりこの優等生が王国に嘘の報告を上げるというのは、断腸の思いなのだろう。


 しかしやがてわずかに目を開け口を開く。

「ミスシェルバーン、貴女が決闘前に口にした言葉を思い出したのだ。一度失われたものはあとからどう足掻いても取り戻せないという言葉をな」

 そしてライアスはラトルの方を眺める。


「私は今までの自分の行為の全てがラトルにとっての最善であると信じて疑わなかった。あの魔法の鎧もしかりだが、自分のエクシードとしての地位を確立させれば同時に弟であるラトルの名声も上がる。それがラトルのためになると確信していた。だが実際はどうだろう? 私はラトルに向き合えていたのだろうか? ラトルの本音を汲み取れていたのだろうか? 今回ラトルは思いがけない成長を遂げた。それは私がラトルの力を見落としていたということだ。すれ違いがあったということだ。そして貴女の一度失われたものは戻らないという言葉。その言葉を思い出して、私は怖くなったのだ。もしこのままラトルの信頼を完全に失ってしまったとしたら、二度と取り返しがつかないのではないかと。だからこれから私はラトルの言うことにできるだけ耳を傾けることにしたのだ。自分の信念を曲げてでも、場合によってはラトルの意思を尊重することにしたのだ。そんな理由で今回オークを見逃すことに関しても、まぁやぶさかではないのだよ」

 そう語るライアスの顔は、どこか凛々しく成長しているようにも見えた。

 これが長兄の貫禄……ってやつなのかね?


「兄上!」

 ラトルとマリオンがこちらに走ってきた。


「こんなところにいらしたのですね。兄上も祭りを楽しんではいかがですか?」

「そーだよ! 焼きそばに焼きとうもろこしにチョコバナナにりんご飴! 昼のとは違ってサイコーに美味! ビバ! オークの食文化だよ!」

 ラトルはともかくマリオンのはしゃぎっぷりときたら小学生レベルだな。

 しかし屋台のメニューまで日本的とは。

 つくづくわけのわからん村だ。


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