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第94話 決闘広場 2

 土煙によってライアスの姿は見えない。

 しかし俺は攻撃を続ける。


「アストラスト・バーグ・ホルン 暗雲に鳴動する雷龍よ 消魂(けたたま)しく咆哮を上げよ!」

 俺は土煙に向けて左手を掲げる。


  『 紫 電 雷 鳴 撃(アトラギス) !!』


 俺の手の平から、無数の雷撃が迸る。

 殺傷力は低いが有効範囲はそこそこ広い。

 視界が閉ざされた土煙の中では、回避するのは無理筋だろう。


 これで倒す必要はない。

 雷撃で動きを鈍らせるのが目的だ。


「クッ……はっ!!」

 どうやらライアスはあのままこちらに直進してきたようだ。

 土煙から抜け出すと、俺めがけて一撃を放つ。


「とっとと!」

 俺は後ろに飛び退き避ける。

 やはり雷撃が効いているようだ。

 その剣筋は精彩に欠ける。


「貴女ときたら! どこまでっ! 規格外なのだっ!!」

 俺の手玉に取られたのがよほど屈辱なのか。

 ライアスは腹立たしさを隠せぬ顔で、距離を取ろうとする俺に食らいつき剣を振るう。

 動きが鈍っているおかげで躱せてはいるものの、徐々に剣の速度が上がってきている。

 早くも雷撃の効果が切れてきたか。


「チッ! 鬱陶しい! もう死んどけ!!」

 俺はライアスが剣を振り切ったところを前転して奴の背後に回り込む。

 転がっている最中に呪文を唱え、振り向きざまにライアスに向けて魔法を放つ。


  『 爆 裂 弾(ブラスト) !!』


 低位魔法は呪文の詠唱に要する集中力も少なくて済むので、こういった芸当もできる。

 中位以上の魔法だとこう激しく動きながらとはいかないが。


 しかし至近距離で放ったにもかかわらず、ライアスは身を捻り直撃を避ける。

 だが辛うじて鎧をかすめた炎弾は爆発し、奴の体勢を大きく崩す。


「マータ・ロート・イーター・ラゼリア 唸れ怒濤 廻れ紅炎 (くう)を焼き 地を焦がせ!」

 そしてこの隙を逃すはずはない。

 後ろに跳ねて大きく距離を取りながら、俺は呪文を詠唱する。


  『 爆 裂 光 炎 弾(ヘル・ゼシオン) !!』


 火球が一斉にライアスを襲う。

 さすがにこの距離でこの数の攻撃を避け切るのは不可能。

 これで勝負あったか?


「私は負けぬ! 王国の、なによりラトルのために!!」

 だがライアスはそんな正義のヒーローみたいなセリフを吐きながら、むしろこちらに向けて突っ込みながら火球を横一線に一刀両断!

 複数の爆発に巻き込まれ、自滅する。


 ──と思いきや、そのまま爆炎に飲まれながらもこちらに飛び出した。

 所々の鎧は剥がれ、熱傷も散見される。

 だが意外なことに、倒すには至らなかった。


《魔法が……効いてない? まさかライアスさんもラトルさんと同じような攻撃を防ぐ鎧を着ているということでしょうか?》

「いや違う! レジストされたんだ!」

 

 魔力がとりわけ高い者は、魔法の攻撃に対して抵抗力を持つ。

 今の攻撃もかなり高火力だったものの、火種を分断されたうえレジストによって威力が軽減されたために倒すまでには至らなかったようだ。

 本来ならば最初の雷撃の攻撃でもほとんど動けなくなるはずだったが、その効果も減衰されていた。

 やはりさすがはエクシードというわけか。


「ミスシェルバーン、どうやら……私は貴女を侮っていたようだ。まさかエクシードでもない者がこれほどの力を持つとは。貴女が何者かは知らないが、手を抜くわけにはいかないようだな」

 ライアスはこちらへと走りながら剣を鞘に納める。


 もちろんそれは、降伏の意思ではない。  

 いよいよあの高速剣を使うつもりか。


 やはり俺の読み通りだったようだ。

 この戦いの以前で、俺は三回ライアスの高速剣を見ている。

 一度目は先日、鞘から放たれた高速剣で酔っ払いを撃退。

 二度目はヌシ相手に。

 三度目は先程ラトルを助けた際。


 そして三度目、奴は抜いていた剣をわざわざ鞘に戻してから高速剣を使った。


 ここである推測が成り立つ。

 ライアスが高速剣を使う条件として、剣を鞘に納めた状態から抜き放つ居合い斬りが必須なのではないかと。


 高速剣は一種の魔法だ。

 行使にスペルを使わないとはいえ、発動させるための手順があるのはむしろ必然。


 とすれば、一閃目は奴の鞘から右に振り払う形で放たれることが確定しているということだ。

 現にヌシを倒した高速剣も剣を鞘から抜いたかまでは見えなかったが、一撃目は奴に向かって右から左へと斬撃が走ったのは確認できた。


 高速剣がどういう軌道で放たれるのかわからなければ、避けるのも防ぐのもムリゲー。

 しかし初撃とはいえ軌道がわかっていれば、対処のしようはある。


 俺もライアスに向かって駆けながら、身を低くする。

 もちろん奴の攻撃範囲を絞るためだ。


 ライアスの長い剣が、ギリギリ届く間合い。

 その瞬間、奴の鞘から光が走る。

 だが同時に、俺も頭を下げ右腕で前方をガードする。


 身体強化──肉体硬化を右腕前腕に全集中!


 ハンマーで鉄筋を叩いたような、鈍い音が響く。

 そしてライアスの必殺の一撃は、俺の腕に傷を与えることなく弾かれていた。


「なっ! 生身で私の剣を防いだだと!? あり得ない!!」

 ライアスは目の前の光景が信じられないという表情を浮かべる。


 俺の身体強化魔法。

 その中でも、とりわけこの肉体硬化は優秀だ。

 物理攻撃のみならず、魔法による攻撃でもダメージを大幅に低減させることができる。


 しかしさすがにエクシードによる必殺の剣撃を無効化するレベルの硬化を全身に施すのは無理がある。

 ただし今のケースのように、ある程度攻撃が来る方向が絞れているなら話は別。

 体の部分的に魔力を集中させて、より防御力を上げることが可能だからだ。

 ここまでくると、どんな高級な鎧でも持ち得ないレベルの強度だろう。


 そして初撃を防がれたことで、高速剣のコンボも途切れたようだ。

 俺はさらに一歩踏み込むと、奴のみぞおちに強烈な左アッパーを打ち込む。



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