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第85話 見えないポテンシャル 3

「う……うーん?」

 そんなやりとりの中、ラトルが箸を握りしめて茶碗と格闘していた。

 というかマリオンも似たようなものだが。


 この国には箸を使う文化は無い。

 いきなり俺の見よう見まねで使いこなすのは厳しそうだ。


「無理して箸を使う必要はないぞ。スプーンで食べてみろ」

 俺はスプーンをラトルの顔面に向けて勢いよく投げつけ、マリオンに向けては山なりに放る。


 ラトルは顔に当たる直前でスプーンを掴み取り、マリオンへ投げたものはテーブル上でポチが口でキャッチする。


《危なっ! どうして投げるんですかリュウ君? ラトルさんもう少しでケガするところだったじゃないですか!》

 どうやらユーティアはラトルが偶然スプーンを掴み取ったと思っているようだ。

 だが俺の見解は違う。


「それはどうかな? ラトル、今のパスは危ないと感じたか?」


 ラトルは俺の質問の意図が分からないようで、首を(かし)げながらもこう答える。

「いえ、ユーティアさんはかなりゆっくりと投げてくれましたので、さすがの僕でも楽に受け取ることはできましたが……」


 その言葉に、この場の俺以外の一同が目を丸くする。


 そりゃそうだ、俺が身体強化魔法を使ってラトルに投げたスプーンは、時速100キロ近かっただろう。

 本来は空中で掴めるような速度ではないのだ。


「魔眼……というやつなのかもしれないな。常時展開型で、自身に危険が及んだ時、もしくは視界で一定以上の速度の物体を感知すると自動で発動。効果は……視覚による体感速度の大幅な遅延といったところか? マンティコアの針も俺が投げたスプーンも、人間が見て対処できるような速度じゃないんだよ。だがラトル、お前にはあれが低速で見えたのだろう? 魔力を使わなければ、そんな芸当は不可能だよ」


 ラトルがマンティコアの毒針を躱したのを見て、俺は薄々そうじゃないかと思っていたのだ。

 つまりラトルには特殊な能力がある。

 そしてそれは、自分に危険が及んだ時に発動するのだろうと。


「僕に……そんな力が? まさか……とても信じられない話ですが」

 ラトルは自分の目の周りをさすり始める。


 もちろん目に異常があるわけでもないし、目の周りに魔法陣が描いてあるわけでもないのだが。


「思い当たる節はないのか? その体質なら、今までも同じような経験がありそうなもんだが」

「そう……いえば、あります。不意に飛んできたボールを素手で掴んで驚かれたりといったことが何度か。当時はあまり気にはしてなかったんですが、今にして思えばそういうことだったのかと合点がいきます」

 長年の謎が解けたとばかりに、ラトルは心の奥のモヤモヤが晴れたような表情で語る。


「でもそれってスゴーくない? 魔法士ならイマイチだけど、剣士で相手の動きがスローで見えちゃうなんて無敵じゃん!」

 マリオンの言う通り、剣士にこの能力は相当にチートだ。


 相手の攻撃をじっくり観察しつつベストタイミングで対応できるのだから、躱すも往なすも自由自在。

 もちろんそう対応できるだけの最低限の身体能力は必要だが。


「ただ問題は……」

「はい……わかっています。目を閉じるな……ですね」


「そうだ、どんなに優れた魔法だろうと発動しなければ意味が無い。お前のように見るだけで発動するというとんでもないガバガバ発動条件にもかかわらず、それすら満たせないとは。おおかたいつも相手が攻撃モーションに入っただけで怯えて目を瞑っていたんだろう? だから今まで自分の能力に気が付きすらしなかった。マンティコアの針や先程の俺のような不意打ちなら目を瞑る前に発動したから活用できたものの、実戦で不意打ちだけ躱せますでは話にならない。まずはその意気地の無さをなんとかしなくてはな」

「はい……まったくもってごもっともです」

 まるで上司に怒鳴られている平社員のように首を竦めるラトル。


 まぁラトルが自分の能力を有効活用しようができまいが、俺には関係ないしどうでもいい話なのだが。


「グフフフ……これはたいへん興味深い検体ですぞ。君、是非ともワタシの診療所に来たまえ! ワタシの実験に協力していただければ、必ずや君の能力向上に貢献すると約束しようではないか!!」

「これやめんかドクター。そういう行為がオークの印象を悪くするんじゃろうが!」

 貴重なモルモットを目の前に、ドクターミンチのマッドサイエンティストとしての血が騒ぐようだ。

 というかこのドクターはいつもこんな調子なのだろう。

 止めに入る村長の手慣れたことよ。


「さて……と、雑談も済んだことだし、本題に入るとするか」

 俺は茶碗の上に箸を置きカップの水を飲み干すと、ゆっくりと立ち上がる。


「はて本題とは?」

 これから俺が口にする内容など想像すらつくまい。

 村長も箸を置くと、顎髭をさすりながらこちらを見上げる。


 そんな村長を見据えながら、俺は一言こう告げる。


「村長……いやこの村のオーク全員、俺の配下となれ!」



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