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第83話 見えないポテンシャル 1

「さてと、ラトルはこのままオーク達が用意している食事をいただくといいさ。俺達の用件はその後に済ませるとしよう」

 ラトルから離れた俺は、テーブルに戻り椅子に腰掛ける。


《用件……って他に何かありましたっけ?》

「あのなぁ、俺達はこの森に何をしに来たんだ? 山菜採りか? 違うよな? オークだろ? オーク狩りに来たんだよな?」 

 ユーティアのボケもここまで来ると笑えないレベルである。


「ちょっと待ってよリューちゃん! それじゃポルテちゃんや村長ちゃんやドクターちゃんまで退治しちゃうってこと? そんなのあんまりだよ! 恩を仇で返すなんてサイテーだよ! バツバツバツでーすっ!」

 俺は人差し指を口元に当て、マリオンに声のトーンを落とすよう促す。

 まったくこいつは、大声出してオークに聞こえるとは思わないのかね?


「その恩は俺が受けた恩ではないからな。俺が生きていくためには金がいる。そして今金を稼ぐためにはオークの首が必要というだけの話だ。お前だって豚肉を食べるだろう? それと同じことではないか」

「ぶ……豚肉は食べるけど、それとこれとは違うよ!」


「ほう、なにがどう違うんだ? 言ってみろ」

「そ……それは……」

 俺の反論にマリオンは言葉を詰まらせる。


「そ、そう! オークちゃん達は頭がいいから! 普通に喋ってるしね。だから殺してはダメなのです!」

 ようやく捻り出した答えがそれらしい。

 俺はフフンと鼻で笑ってのける。


「ほぅ、正義の味方を自称するお前が、まさか知性で命の価値を選別するとは驚きだね。つまり喋る豚は殺さないが喋らない豚なら殺すというわけか。頭の悪い奴は殺されてもしょうがないと?」


「そっ、そんな事は言ってないよね!?」

「いーや言ってるね! 正義の味方の魔法士様が差別主義者だったなんて、僕ちゃんガッカリだなぁ~」


「ひっ……ひぐっ……そ、そんなことないもんっ! ふぇええええんっ!!」

 …………泣きよった。

 論破されたマリオンはまるで子供のように、床に膝をついてピーピー泣き始めた。


《リュウ君いいかげんにしてください! お母さん本気で怒りますよ!!》


「ム……俺だって良心の呵責はあるさ! でもライアス坊ちゃんが言ってただろ。これは王国から直接発令されたクエストだと。つまりオーク討伐は王国にとって相当に重要なミッションというわけだ。ならば……辛くとも従わねばなるまい。敬愛すべき国王陛下のためにも!」


《ふーんそうですか。ならとーぜん敬愛すべき国王陛下の名前は言えますよねリュウ君?》

「うぐっ、ほらアレだよ! アーサーだったかアレキサンダーだったか……」

 おのれユーティアのくせに小癪な。

 息子より豚の肩を持つというのか?


「どうかされましたかな?」


 ギクリ──と後ろを振り返ると村長が立っていた。

 今の会話、聞かれてないよな? 


「お待たせして申し訳ない。凡庸な物しか用意できませんが、まずはスープを温めました。三人分用意いたしましたので、皆様でお召し上がりください」

 奥の部屋からトレイを手にしたポルテが出てくる。

 トレイの上にはお椀が三つ。


「あぁ、いただくとしようか……」

 どうやら感付かれてはいないようだ。

 ここで騒がれても面倒だし、今は自然に振舞うべきだろう。


 正直俺達までオーク料理を食べる羽目になるとは思わなかったが……村長からもう少し村の情報を得たいところだ。

 ここは無理をしてでも付き合うべきか。


 しかしオークの料理か……人間が食べられるような代物が出てくるか怪しいものである。


 マリオンはラトルと共に、俺とは対面の入り口側の椅子に並んで座る。

 俺達の前に、ポルテがお椀を置いていく。 


「ブファッファッ! お口に合うかわかりませんが、オーク村名物ドブ汁ですじゃ」

 村長は謙遜気味に言う。

 しかし出されたスープは限界まで下げた俺の期待値をさらに下回るものだった。


 これは……口にしてよいものなのか?

 茶褐色に濁った泥水のような液体。

 そしてよく見ると、細かい粒子が滞留している。

 まさにドブ汁という名にふさわしいスープ、というか本当に泥水を汲んできて温めただけなんじゃないだろうな?


 マリオンに飲んでみろと目配せするものの、プルプルと顔を横に振り拒否される。

 ラトルもスプーンを手にしてはいるものの、口に運ぶのはためらっている。


 まったく使えない連中だ。

 ここは上手いこと食べずにすむ言い訳を考え──

 

「…………………………」


《リュウ君とりあえず、私達は色々とアレルギーがあるから決まったものしか食べられないと言って断ってはどうでしょう? ご用意してくれた村長さん達には申し訳ないのですが、さすがに私もこのスープを飲んで健康でいられる自信がありません。……てリュウ君、聞いてますか? リュウ君?》


「………………この……匂いは」

 俺は……スープの入った陶器のお椀を両の手で持ち上げる。

 そう、この独特の香り。

 俺はこの液体の正体を知っている。


《ちょっ、ちょっとリュウ君! まさか飲んだりしないですよねぇ? いくらお腹が空いてるからって! メッですよ!!》


 もはやユーティアの制止など耳には入らない。

 それほどまでに、このスープから漂う香りは俺を惹きつけていた。


《いやっ! なんか変な匂いがしますっ! 絶対に飲まないでリュウく──》


 ゴクリ──と、俺はお椀に直接口を付けてスープを喉に通す。

 瞬間、俺の全身を衝撃が駆け巡る。


 それは、この世界で味わう初めての味!

 しかし、ずっと心の中で欲し続けた味!


 俺は一心不乱に残り全てを飲み干すと、ドンッ──と勢いよくお椀をテーブルに置く。


「────美味かった……」

 たった一言、そう自然に言葉が口から漏れていた。


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