第75話 キケンな香り 2
《内輪で揉めてる場合じゃないてすよリュウ君! あと前のほうに何か見える気がするんですけど……あれなんでしょう?》
視界には入っていたものの、ユーティアに言われて始めて気がついた。
たしかにこの道前方の脇に、巨大な円柱状の柱のような物が見える。
直径一メートル、高さ五メートル程の石で作られた柱。
かなり重量感のあるその石柱は、表面に原始的な文字のような刻印とうねる波のような幾何学模様が刻みつけられていて、その頂点近くには拳大の赤い魔石らしき物が所々に埋め込まれている。
極太のトーテムポールといった感じだ。
「明らかに人工物だな。なぜこんな物がこんな場所に?」
だが、こいつは使えるかもしれん。
俺はまだしがみついているマリオンを右手で押しのけながら、左手で印を結ぶ。
「リア・クリック・ガン!」
簡易呪文による低位魔法。
俺はそれを石柱の根元へと狙いを定める。
『 爆 裂 弾 !!』
俺の手のひらから放たれた炎弾は石柱の下部へと命中し、同時に破裂する。
爆発自体は小規模。
しかし狙い通り、石柱根元の道寄り部分が抉られる。
「走れ! 全力でだ!!」
俺は右手でマリオンを掴んだまま石柱の横を駆け抜ける。
直後に支えを失った石柱が、俺達の背後へと傾倒する。
砕け、散乱し、土煙を巻き上げる石柱。
寸前に俺達が走り抜けた道は、半ば塞がれた形となる。
「道は寸断、土煙で香水の香りも紛れるだろう。気休め程度だが、これで多少は追跡を躱せるかもな」
「おおー! さっすがリューちゃん、お利口さんだねぇ! よしよし!」
そう言って俺の頭を撫でてくるマリオン。
誰のせいで苦労してると思ってるんだか。
《あっ! また同じようなものがありますよリュウ君!》
たしかに前方の道の脇に一本、そのさらに奥にもう一本石柱が見える。
「なんだかわからんが好都合だ! とことん利用させていただくか!」
俺は同様のやり方でその二本も倒壊させ、その先にさらに一本発見し破壊。
後はひたすら走って逃げる。
「ゼーッハー……どう……だ、マリオン。マンティコアはまだ追ってきているか?」
「はあっ……はあっ……ちょ~っとまって……」
俺は一旦足を止める。
魔力消費を抑えるために体力を使い切っては本末転倒。
振り切れていないのならここで迎撃しよう。
俺以上に息を切らせたマリオンは、後ろを振り返るとポチの耳をピクピクさせる。
「…………もう追ってきてないみたいだよ! やったね作戦大成功!!」
マリオンは得意満面でピースする。
もっとも俺が考えて実行した作戦だがな。
「しかし……走り回ったせいで余計に方向がわからなくなったな。とりあえず先に進むしかないか……」
俺は再び前を向き歩き始める。
──とその時!
バキバキバキ──と突然俺達の前方の樹木を割り裂いて、一頭のマンティコアが飛び出してくる。
「なっ……新手か!!」
後方ばかり気にして前方の注意を怠った。
完全に虚をつかれた強襲!
だが、続いてもう一つ驚くべきことが起こる。
そのマンティコアと揉み合うようにして、一人の剣士が現れたのだ。
その剣士は勢いよく地面を転がると、俺達の目の前で止まった。
そしてゆっくりとその身を起こし、マンティコアへ向かって剣を構える。
その姿には見覚えがある。
戦車を思わせるほどの重厚なフルプレートの鎧。
こいつはライアスの弟……ラトルだ!




