第69話 異世界の車窓から 1
俺達は六両の馬車のうちの一両に乗り込んだ。
二頭立て箱型四輪馬車の内部はそこそこ広くて、中央を挟むように左右に長いシートが向かい合っている。
まぁ小型のバスみたいなもんだ。
前方席はすでに他パーティーが乗り込んでいた。
先客は五名。
三名と二名に分かれて向かい合って座っている。
三名の方はそれなりに年期の入った冒険者であり、二名の方はかなり若い。
それぞれ別のパーティーのようだ。
しかし意気投合しているようで、やれ北の谷の大狼を退治したとか、古代巨人族のお宝をサルベージしたとか、なにやら冒険談自慢が白熱している。
「お邪魔にならないように、後ろに座りましょうかマリー」
「そーだねティア!」
ユーティアとマリオンは、五人とはやや間隔を空けて最後尾に腰かける。
ポチもマリオンの膝の上で寝転がって、気持ちよさそうに寝始めた。
ま、あの連中と話題が合うとも思えないのでそれは妥当な判断なのだが……
「なぁなぁ! 可愛い子ちゃん達もオーク討伐参加の冒険者かヨォ?」
「女の子二人だけなんて、マジやべぇんじゃねぇ?」
案の定、若い男の二人組が隣に移動して話しかけてきた。
向かって右側の男は派手な赤髪、左側の男はやはり派手な青髪。
二人とも明らかに地毛ではなく染めた色。
この世界でこんな風に髪を染めている奴を見るのは初めてだ。
おまけにワックスのようなもので固めているのであろうその頭髪は、天に向かって逆立っている。
魔物相手に時には身を潜める必要もある冒険者で、この目立つ頭は無いだろう。
さらに言うと二人共黒を基調とした軽装のアーマーを身に着けているのだが、妙に真新しく傷すらついていない。
これでは実戦経験があるのかすら疑わしい。
こいつら冒険者とは名ばかり。
報酬目当てに飛び入り参加したド素人なんじゃないのか?
おおかた先程の武勇伝も作り話だろうよ。
「はわわっ……そ……その、私は別に冒険者というわけでは……見ての通りごく普通のシスターでして……」
「わたしも冒険者ってよりは正義の魔法士見習いって感じかな? まだ修業中の身なのです!」
「ワオワオッ! 二人ともチョーカワイイじゃん? 特にオレァショートの子がチョー好みだゼェ!」
「オレっちは大きい……その、背が大きい方がマジやべぇわ!」
チャラ男二人はそれぞれのターゲットが決まったとばかりに、お互い顔を見合わせコクリと頷くと、ガシッと二人で腕をクロスさせる。
……ウザいなぁ、こういうノリ。
「なぁなぁ可愛い子ちゃん達! 二人じゃ心細いダロ? オレラと組まネェ? こう見えてもオレラァ地元じゃ名を轟かせる凄腕冒険者なんだゼェ! オレァ一万年に一度の勇者、雷撃槍のアスタロッサ・マーカイン!」
「んで、オレっちが神に嫉妬されし英雄、踊双剣のブルムナ・ベルモルトだマジやべぇ!」
二人とも親指で自らの得意顔を指しアピールする。
しかしなんだその二つ名は?
中二病が全開すぎるだろう!
それとたしかに、二人の背後の席にはドリルのように捻じれた槍と、三日月のように大きく歪曲した剣が二つ置かれている。
見た目こそ派手だが、こんな奇天烈なデザインの武器を使いこなす力量がこの二人にあるとは思えない。
ただの虚仮威しか?
それとマジやべえってのが語尾なのかも気になるところだ。
「ど、どうしましょうリュウ君? せっかくのご厚意です。ここはありがたく頂戴するべきでしょうか?」
《はぁ? ご厚意?? どう見ても安い安〜いナンパだろうが! こいつらはオークを狩るついでにお前らまで頂こうって腹積もりだ。どうせこんな連中足手まといにしかならないから願い下げだがな。丁重にお断りしろ》
「え? はいえっと……私共にはもったいないほどのお気遣い、心からの感謝を申し上げますが──」
あかん……
ユーティアは本当に丁重にお断りし始めやがった。
こんなノリでこのチャラ男共が引き下がるわけがない。
《マリオン、お前ならこういう場合の対処は慣れてるだろう? 大人の女性らしく男共をあしらってみせてみろ》
旅を続けてきたマリオンなら、同じようなケースは過去何度もあったはず。
それをどう乗り越えてきたのか、ある意味見ものである。
「わかってるねリューちゃん! ご期待に応えて、大人の女性として男の子の扱い方を披露しちゃいましょう! こういう場合は!」
《フムフム……こういう場合は?》
「……んん?? え〜とぉ……どーしてたっけか?」
《いや俺が聞いてるんだが?》
マリオンまでもがこの体たらくとは。
今までどうやって貞操を守ってきたんだこいつは?
「アハハッ! なに? 君超面白マジやべぇじゃん? 陽気なオレっちと気が合いそーじゃん!」
そう行ってブルムナがマリオンの肩に腕を回そうとした瞬間──
ガブリ!──と、いつの間にかマリオンの肩に乗っていたポチが、ブルムナの手に鋭い牙を突き立てた。
「ほがぁあああああああああっ!! 痛ぇええ! マジやべぇ!! なんだコイツ!!!」
「あーそうだ! いっつもこうなるんだった!」
アリオンは今さら思い出したとばかりに、パチンと指を鳴らす。
そういえば、ポチはマリオンに対する危険性を察知して攻撃するんだっけか?
ブルムナは指を噛み千切る勢いのポチの牙をなんとかひっぺがえす。
「な……なんだコイツ魔物!? マジやべぇ!!」
「ぶっぶー!! 魔物じゃなくてわたしの相棒のポチでーす! 仲良くしてあげてね!!」
まだ唸り声を上げるポチを両手で持ち上げブルムナの目の前に突き付けながら、マリオンは無茶な注文をする。
アスタロッサとブルムナは顔を見合わせお互い頷く。
おそらく関わらない方が良さそうだという意見で一致したのだろう。
そそくさと元の席へと退散していった。
なるほど、わがままボディのマリオンが能天気に旅をしてこられたのはポチという保護者が居ればこそってわけか。
うーん納得。




