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第67話 必然の再会 1

 翌朝。

 俺達は町の最東端の門外へと来ていた。


 建築物が連なる街中とは打って変わって、低めの城壁を抜けた町の外側にはなだらかな草原が延々と広がっている。

 唯一町の名残の幅広な街道だけが、門を超えても延々と東方へと伸びる。

 日中ならかなりの通行量を誇るであろうこの通りも、早朝というだけあって行き交う人は見当たらない。


 いや早朝と言うよりは、夜明け前と表現すべきか?

 なにせようやく東の地平線から、かろうじて明かりが漏れ広がってきた程度。

 太陽はいまだ開店前の準備中だ。


 夜の余韻を引きずった空気は静寂に包まれていて、肌寒いほどの冷気が漂う。

 それでも不快な程と感じないのは、この濃密に立ち込める朝霧によるところが大きいだろう。

 程々に高い湿度によって、体表の冷えが幾分緩和されているように感じる。

 

「やっぱり早起きは気持ちが良いですね! ねぇリュウ君!!」

 ググ〜ッと高く腕を上げて体を伸ばしながら、ユーティアは全く共感しようのない同意を求めてくる。


 冗談じゃない。

 本来なら布団の中でヌクヌクしているはずの時間だぞ。

 今だって三つ葉亭のベッドに飛んで帰りたい衝動を抑えるのに必死だってのに。


「朝の澄んだ空気が身に染み込むようです。なんだか体を動かしたくなってきますよね」

 どんな理屈でそうなるのか?

 ユーティアはラジオ体操的な運動をオイッチニッサンシッと始める始末。

 こいつあれだ、夏休みにスタンプコンプリートしちゃうタイプの輩だ。


「これを機に、毎朝体操とランニングを日課にしましょうかリュウ君! 健康的だし気持ち良いですよぉ~!」

《却下! 断固反対だ!!》


 馬鹿馬鹿しい。

 金銭的メリットがなけりゃ、こんな時間に起きるはずがない。


 今回は特例的に、複数のパーティーが合同で行うクエストとなっている。

 要は大人数で一気にオークを狩る殲滅戦というわけだ。

 そして参加パーティーには、ギルドが手配した馬車によって現地まで送り迎えしてくれる手筈になっている。


 なんとも粋な計らいではないか。

 それだけ今回のクエストが重要ということなんだろう。

 ただ集合時間がもう少し遅ければ言うこと無しだったが……


「はわわはぁ~! やっぱりまだ眠いにゃ~」


 俺と同意見の奴が隣にもう一人。

 珍しくしおらしいマリオンが、近くの木の幹にもたれかかって眠気まなこをこすっている。

 ちなみにマリオンの首元に巻き付いたポチは、いつも通りに丸い目をパチクリさせている。


 ここまでの道中でも寝ぼけて道を間違えそうになったところを、ユーティアに引き止められること幾度か。

 まぁこいつはこれぐらいのテンションの方が静かで良いんだがね。


「そろそろ出発の時間ですが、大丈夫ですかマリー?」

「んおぉ~! たいよー出てきたじゃん! 元気も出てきたよぉ~!」

「ナーゴ!」

 たしかに、わずかに顔を出し始めた太陽と同期するようにマリオンの顔に生色が戻り、ポチも身を震わせ一鳴きする。

 こいつは光合成でもしてるのか?


《……んん? マリオン、お前今日はなんか違くないか?》


 気のせいだろうか?

 見た目はいつものマリオンなんだが、何か妙な違和感を感じる。


「んーそう? また一晩で女に磨きがかかっちゃったかなぁ? どうリューちゃん惚れちゃう? ねぇねぇ!!」

 やれやれ、マリオンがいよいよ本調子を取り戻してきた。

 相手にするのが面倒なので無視することにする。


 とはいえ、朝から元気なのはこの二人に限った話ではないが。


「よぉマークス! 久しぶりだな。最近調子はどうだ?」

「おぉベルファルト! またゴブリン退治でチマチマって感じさ。だから今日は稼がせてもらうとするよ」

「見ろよこの新調した黒鋼鉄のグレートソードを! 今日は切れ味を試してやるぜぇ!」

「なぁクリフト、賞金で何を買うかもう決めたか?」


 そう、もちろん参加パーティーは俺達だけのはずはなく、門の前に集合しているパーティーは十組程度。

 一パーティー当たりの平均人数は三~四名ってトコか。


 どいつもこいつもクエスト前とは思えない緊張感の欠落した笑顔で談笑に興じている。

 やはりこいつらの間でも、オークはそこまでの脅威という認識ではないようだ。

 雑魚モンスターを倒して大金ゲットとくれば、浮かれるのも当然か。


 しかし予想より人数が多いな。

 ライバルが増えれば当然取り分が減る。

 これはなかなかに、頭の痛い問題だぞ。


「はーい、時間になりましたー! 皆さーん! 準備はできてますかー?」


 いつの間にか門の前にギルドの受付お姉さんが立っていて、喚起の声を上げる。

 どうやらクエストの説明をしてくれるらしい。


「「はーいっ!!」」

 そしてまるで小学生のように、手を上げて元気よく返事を返す冒険者たち。

 クッソテンション高けーなこいつら。


「今からこの大きい皮袋を配りますからぁー、狩ったオークの首を入れて帰ってきてくださいねぇー。ひとつ当たりの賞金はぁー、告知通りの10万リグでぇーす!」


「「うぉおお!! やったぁああああ!!!」」


 ……まるでイチゴ狩りにでも行くようなノリだな。


「あとオーク以外の生物は基本的に討伐禁止でーす! 目的地の迷いの森の生態系は未解明なのでー、むやみに乱すことはやめましょー! では、馬車が六両用意されていますのでみなさん分かれて乗車してくださーい。迷いの森に到着後は各自自由行動でーす。午後四時には帰りの便が出発しますがー。遅れた人は置いていっちゃいますのでぜえったいに戻ってきてくださーい!」


 おいおいマジか? 非情だな。

 絶対に乗り遅れないようにせねば。


 ユーティアはギルドのお姉さんから皮袋二枚を受け取る。

《おいマリオン。お前も一枚じゃなく二枚もらっとけ》

「えぇっ!? でもこの袋すっごく大きいよ? 詰め込んだらわたし二枚も持てないよぉ!」


 確かにこの袋の容量は100リットル近くある。

 だがキャパシティは多いに越したことはない。

 いざとなったら引きずってでもより多く持ち帰らなくては。


《いいのか? おまえが持ちきれなくなった分は、ポチの口に詰め込むぞ?》

「もぉ! リューちゃんの守銭奴! ケチンボぉ!」

 マリオンは文句を言いながらも二枚目の袋を受け取る。


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