第66話 ボーナスステージ 2
「オーク……てなんだっけ? 聞いたことはあるような……」
「豚面した魔物だよ。人面豚というよりは豚面人と言うべきか? メジャーな魔物だと思っていたが、この国ではかなりの希少種らしいな」
そう、俺はあの後ギルドに出向いてオーク討伐のクエストを探したのだ
グルードの言っていたクエストはすぐに見つかった。
受付のお姉さんからは難度が高いからと止められたが、相手はたかがオーク。
俺は即座に手続きを済ますと、三つ葉亭へとんぼ返りした次第である。
「そしてだ……このクエストの醍醐味はその報酬額にある。目ぇかっぽじってよぉく見てみろ!」
「え~とぉ、ゼロゼロゼロゼロゼロイチ! わぁ10万ギルだぁ!!」
桁の多い数字を見る機会が少ないのか、マリオンは指折り数えて驚きの声を上げる。
「しかーも! 一匹あたりで10万だぞ。10匹倒せば100万!! すげぇ! 乗るっきゃないこのビッグウェーブに!!」
「ふーん、まぁわたしはお金より人の役に立つクエストのほーが嬉しいけどねぇ」
「ふーんてオマエ……」
金額に驚きはしたものの、マリオンのこのクエストに対する関心は想像以上に低い。
これじゃ一人浮かれている俺がバカみたいではないか。
《そういうものですよリュウ君。いいかげん報酬額で仕事を選ぶのはどうかと思います。人は金銭のみで満たされるわけではない。お母さんはお金だけじゃなくて、もっと心を豊かにしてくれるものにも興味を持ってほしいですよ? たとえば最近は春めいてきて道端に咲く花が綺麗ですよぉ! 素敵ですよねぇ!》
「はぁ? 道端の花が食えるのかよ? 俺は心より懐が豊かになる方が素敵ですぅ!」
ダメだ!
マリオンといいユーティアといい、現実の厳しさを直視せず理想論ばかり。
ここは俺がしっかり舵取りをせねば!
「それでリューちゃん、もしかしてわたしも強制参加?」
「当然だ! 戦力は少しでも多いに越したことはないからな!」
「うーん、でもそのオークちゃん倒すのも可哀想だし、あんまり気が乗らないなぁ……」
再び惚け顔でベッドに倒れ込んだマリオンは、完全にやる気ナッシングだ。
「だがなマリオン、人助けというのなら、なおさらこのクエストに参加すべきだと思うがな。なにせこのクエストは王国から直々に発令されたものらしいぞ。それに加えてこの高額報酬。つまり王国が本腰を入れなければならないほどに、オークの危険性が高いということなんだろう。そしてオークを倒すことが、すなわち国民の平和を守ることと同義というわけだ」
「うーん、それはそうかもだけど……」
「と・に・か・く! お前には絶対に来てもらうからな! 絶対にだ!!」
いまだやる気ゲージが低いままのマリオンに、俺は念入りに言葉を重ねる。
《リュウ君、マリーに無理強いはしたくありません。せめて私達だけではダメなのですか?》
「駄目だな。荷物持ちが最低一人は必要だ」
「《荷物持ち?》」
ユーティアとマリオンが同時に聞き返す。
どうやら二人共が事後処理を想定していないようだ。
「このクエスト依頼書にも書いてあるだろう? 報酬を受け取るには狩ったオークの首を持ち帰る必要がある。そこで初めて契約が履行され、オークの首一つ当たりに10万ギル支払われる。ただ多く倒すだけでは無意味。より多く持ち帰ることが重要となる。つまり遠足は家に帰るまでが遠足です!」
《なんなんですかその例えは?》
「とはいえガタイがデカそうなオークの首だ。かなりの重量と予想される。魔法で身体強化した俺が持てるのがせいぜい八個として、マリオンが四個。それでも手に余るならポチを巨大化させて口の中に詰め込んで持って帰るとしよう」
「ポチは物入じゃないからぁ! それにそれとっても不衛生ぽい~!」
「叫ぶな喚くな! 賞金の一割をやるから!」
「リューちゃんそれすっごいボッタクリ!!」
マリオンはベッドから飛び起きると、ポチを庇うように抱えたままピョンピョンと部屋の入口へと跳ねていく。
「ティアが心配だから付いていくけど、絶対にポチにそんなことさせないんだからね! プンプン!」
マリオンはそう言うと、頬を膨らませながら自室へと戻っていった。
「……俺そんなに怒らせるようなこと言ったかなぁ?」
《当たり前ですリュウ君! そもそも、人は他者から何を得るかではなく何を与えられるかを考えるべきですよ。そうすれば人間関係も自然と良好に──》
「あ~そういう面倒な話はいいから。じゃ、俺は疲れたし魔法を解除してもう寝るから、明日の朝は時間通りに起きてくれよ」
《こらぁ! 今日疲れたのは私の方ですってばぁ!!》
まだまだ小言が続きそうなユーティアを放置して、俺は魔法を解除し明日に備えるため眠りについた。




