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第65話 ボーナスステージ 1

「作戦会議だ!」


 その日の晩。

 俺は下僕に召集をかけ、三つ葉亭の二階の自室でミーティングを開くことにした。


「しゃくしぇーかいぃ〜?」

 なんとも気の抜けた声が返ってくる。

 声の主は、ベッドの上でゴロ寝しながらクッキーを頬張っている寝巻姿のマリオン。

 俺の下僕第一号だ。


 マリオンは彼女の相棒のポチ──といっても彼女の魔力で作られた猫型の魔法生命体なのだが──をその大きな胸に抱きしめたまま、ベッドの上で骨の髄まで弛緩させて怠惰の限りを尽くしている。


 まったくいい度胸だ。

 俺がこうして立ったまま作戦会議の主幹を務めているというのに!


 ほむほむ──と、またぞろマリオンがクッキーに手を伸ばし口へと放り込む。

 ベッド上を転がっては食べる、転がっては食べるの繰り返し。

 いつもサイドテールに結われている桃色の髪は風呂上がりのためほどかれ、マリオンが転がるたびに宙をフワフワと舞う。


「おまえなぁ、こんな時間に食べたら太るぞ?」

「ん~それがわたし夜食べても太らない体質なんだよねぇ。なんでっだろぉ? なんでっかなぁ? ふっしぎっだねぇ??」


 いや全然不思議じゃない。

 肉は確実に付いているぞ、ただし一極に集中してな。

 ボヨォンボヨォン──と、マリオンが転がるたびに弾む特大の胸。

 そいつが贅肉に行くはずの栄養まで奪い取っているに違いない。


 ちなみに胸の間に挟まれたままのポチはマリオンが転がる度に圧迫され、その都度ゴム製のオモチャのように伸び縮みしている。

 生身の猫だったら圧死してるぞこれ。


 火照った肌と湿り気を帯びた艶髪、そしてこの凶悪なまでのナイスボディと、男を狂わすために生み出されたような肉体なだけに、この幼稚な性格だけが惜しまれる。


「とにかくだ、昼間の出来事は先程簡単に説明したとおりだが……」

「昼間のってぇ、ティアが体を売りに行ったってとこかにゃあ?」

《売ってませんよぉマリー! 売ってませんからぁあああ!!》


「そーなの? ティアから聞きたかったのにぃ、大人のタ・イ・ケ・ンってヤツう? キャアア!!」

《ううぅ……他人事だと思ってぇ。もうぜえったいにあんな仕事はしませんからねリュウ君!!》


 はぁ~まったく、困ったものだ。

 ユーティアは完全に職務をボイコットしている。

 故に新しい金蔓(かねづる)が必要になったわけで、それがこの会議の主題なわけである。


「マリオン、その話は後でゆっくりするがいい。今は本題に入るぞ。第三等位のエクシードに遭遇したってとこまではさっき軽く説明したよな?」

「えっと、確かぁルーンフェルグ兄弟だっけ? わたしも名前だけは聞いたことあるかな? リューちゃんそんな有名人とお友達になっちゃうなんて社交派だねぇ。学校へ行くようになったら友達100人でっきるっかなぁ??」

 などと、学校に通えば本当に友達100人ぐらい作りそうなマリオンがお気楽ほざきやがる。


 どうせ俺には出来ねーし!

 現に前世でボッチだったし!


「勘違いするなよ。奴と友達などと心外極まれりだ。そもそも俺にとってエクシードなど俺がのし上がるための踏み台にすぎん。ただあの場では戦うべきではないという判断をしたまでだ。俺は勇猛ではあっても無謀ではない」

「わぉっ! リューちゃん意外と理性あったんだね! ビックリ!!」

「お前な、俺を考え無しの単細胞とでも思ってたのか?」


 もっともまだ卵子が数回分裂した程度であろう俺は、生物学的にはまだ単細胞に近いと言えるんだろうが。


「そんなことよりだ。その時に気になったのはそのルーンフェルグの兄の方、ライアスについてだ。ライアスは第三等位のエクシードなんだが、奴は剣士だったぞ? エクシードってのは魔力の高い者がなれるんだろう? 剣士でもエクシードになれるのか?」


「うーん、剣士っていっても腕力だけで戦うには限界があるからね。だから魔力を使って強くなっている剣士ちゃんたちもいるってわけ。たとえば剣を魔法で強化したり、自分自身の体を強くしたりとか。火を出したり傷を治したりだけが魔法の使い道じゃないってことだよねぇ。そしてそういう系の魔法には詠唱しなくていいのが多いから、魔法を使っているかは気付きにくい場合もあるかな?」


 なるほど、魔法で身体能力を上げているのか。

 ならばあの人間離れした剣速も合点がいく。

 考えてみれば俺の身体強化魔法もその系統だしな。


「ということは、奴が放出系の魔法を使う可能性は無いと考えていいのか?」 

「なくはなーいと思うけど、魔法の系統っていうのは個人の適正に左右されるんだよね。普通に剣士ちゃんとして活躍してる人が、他の系統の魔法も一緒に極めようとしても難しいかな? わたしがティアの治癒魔法を覚えようとしてもムリみたいな? やっぱりわたしにはポチしかいないのさぁ!」

 そう言ってマリオンはポチの口にクッキーを詰め込み、ポチはムシャムシャと食べ始める。


 しかし、本当にそうか?

 それにしては俺は放出系魔法も身体強化魔法も高度なレベルで使えるぞ?

 まぁ俺の使う魔法はこの世界の今のスタンダードとは別物なのであまり参考にはならないだろうが。

 

 ということは、やはりライアスと対峙する場合は距離を取って戦うのが安全策か。

 所詮は剣士。

 遠距離から魔法で(あぶ)り殺せば楽勝だろう。


「ま、それでも実際の所は戦ってみるまではわからない。奴の話はここまでだな。それより今は資金調達にカロリーを割くべきだ。そしてその鍵となるのがあの兄弟が飼っている豚から聞いた情報なのだが……」


「ええっ! 豚が! 喋ったの!? すご~い! どんなだった? 人面豚?」

 マリオンは飛び起きると興味津々に目を輝かせる。

 一番食いつくのソコかよ?

 

「豚の話はいい。重要なのはそいつが言っていたこのクエストだ!!」

 俺はマリオンの顔面スレスレに、一枚の用紙をかざす。


“オーク倒して賞金ゲット! 命知らずの参加者大募集中!!”

 そう用紙には記されている。

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