第63話 双璧の剣士 3
声の主は──若い一人の剣士だった。
歳はまだ十代後半に差し掛かる程度か?
長身にして細身。
しかしその体付きは貧相というわけではなく、むしろ極限まで鍛え上げられ絞られたアスリートのそれである。
保護箇所が比較的少ない軽量型の鎧は、素人目に見ても衛兵の物とは品質のレベルが違う。
量産品ではなくオーダーメイドで肉体にピッタリとフィットさせて作られており、かつ硬度の高そうな白銀に輝くプレートが高貴ささえ漂わせている。
さらに細めの顔に白くくすみの無い肌。
穏やかながらも力強さを秘めた紺碧の瞳が輝く細目に、まるで女性のように肩まで伸びた細く光沢のある銀髪。
完全な美形!
少し前に見たまがい物ではなく正真正銘の美男子だ。
「ライアス坊ちゃん!」
グルードが剣士の元へ駆け寄る。
「外で坊ちゃんはやめろと言っているだろグルード」
ライアスと呼ばれた剣士は、やれやれといった具合に髪をかき上げる。
坊ちゃん?
ということは、こいつがグルードの主か。
二人が並ぶと、これはこれで落差がスゴイ。
「探しましたよグルードさん。宿舎に居なかったので兄上の提案でこうして探しに出たのですが、正解だったようですね」
そしてもう一人、こちらはやや背の低いフルプレートの騎士がガチャンガチャンと鎧をカチ鳴らしながら歩み寄ってきた。
ライアスを兄と呼んでいるということは、当然ライアスの弟ということなのだろう。
「これはこれは、ラトル坊ちゃんまで! お二人とも予定よりお早いお着きだべぇ!」
ラトルと呼ばれた剣士は全身を鎧で包み込んでいるためその風体を窺い知ることはできない。
唯一視界を得るために開けられた目元からは、兄同様の深海のような深い藍色の瞳がわずかに覗いて見える。
というか、なぜこんな街中で完全防備の鎧を?
動きにくいのは当然。
加えてその声も、鎧の中で反響することで無機質な合成音声のように変換されてしまい感情が伝わりにくい。
なんというか……まさに正体不明。
「オイオイオーイッ! どこぞの剣士かしらねぇけどなぁ。只今不審者の尋問中だぁ! 勝手に割り込まねぇでくれねぇかなぁ! ヒック!」
そう言って今度はライアスに食ってかかるオルデラだったが、しかしここでロロイドがその肩を掴み止めに入る。
「やっ止めるのですオルデラ! 彼の胸元をよく見よ。ミスリルの十字勲章──第三等位エクシードの称号ですぞ!」
──なに!?
……たしかにライアスの胸のプレートには、アクアマリンのように青みがかった十字勲章が埋め込まれている。
あれがミスリル!?
縁取りも無いってことは、正第三等位。ヴェロウヤブより一段格上のエクシードってことか!
「ライアスにラトル……ああっ! もしかしてこの二人。ルーンフェルグ兄弟かもよね!」
そう言うコーキンの顔色が一気に青ざめる。
「グェヘヘヘヘ。今頃気付いただべか?」
グルードは勝ち誇ったように胸を張り……というか結果的には腹のほうが出っ張っているが、両手を大きく広げて二人の剣士の前でヒラヒラと躍らせる。
「こちらは高速剣の異名を持つライアス・ルーンフェルグ様! 瞬きする間にゴブリン10匹を切り伏せたというエピソードはあまりにも有名! 若干17歳で第三等位エクシードの称号を獲得する期待の新鋭剣士様でさぁ!」
グルードが喝采を浴びせる中、当のライアスは名声など興味がないと言わんばかりの無表情。
見た目に違わず性格までクールそうな奴だ。
「さらにこちらは無敗王のラトル・ルーンフェルグ様! 剣でも魔法でもあらゆる攻撃を跳ね返す鉄壁の防御力! 未だに戦場でわずかな傷すら負ったことが無いという絶対無敵の剣士様でさぁ!」
ラトルの方も……うーん、ボーっと突っ立ったままだが、こいつは鎧のせいで表情が読めない。
やはり掴みどころのない奴だ。
「攻守共に隙無し! 若くして赫々たる武勲を上げご活躍中のこのお二方こそ、王都でも名を轟かすニューフェイス! ルーンフェルグ兄弟だべぇ!!」
もはや海老反りにまで達し大高笑いのグルード。
今の解説に、お前が威張れる要素は一ミリもなかったけどな。




