表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/173

第60話 はじめてのおつかい 3

 高級品を買い与えてご機嫌を取り、直後に泣き落としてホテルに誘う。

 すぐ裏手にホテルというのも用意周到。

 これがこの男の必勝パターンなのかね?


「どどど……どうしましょう、リュウ君~」

 手を握りしめたまま祈るように平伏するルイに圧倒されたユーティアが、声を震わせ泣きついてきた。


《どうしようと言われてもな、そりゃ値段次第としかいいようがないが……》

「ちがいます! どうやって断ったらいいか聞いているんですぅ!!」

 男性からこのような要求をされるのも初めてなのだろう。

 ユーティアはこういう場合の対処法が浮かばないらしい。


 というかここでうまく立ち回って金を巻き上げろと指示しただろうに。

 俺が最初に言ったことをもう忘れているようだ。


「もっ、もちろんタダでとは言わないよ。ぴゅありんさんもお金が必要だからあの店で働いているんだろう? とりあえず今日は三万リグ出そう。もちろん今後お互いに良い関係を継続できそうなら、さらに上乗せも考えるよ」

 そう言ってルイは懐から銀貨三枚を取り出すと、半ば強引にユーティアに握らせる。


 一枚あたり一万リグの価値のある銀貨が三枚。

《ふーむ……三万か。まぁ落とし所としては悪くないな。よし、承諾してやれ》


「ええっそんな! 金額で!? 私の意思は??」

《そんなものは関係無いし興味も無い。悲しいかな、金儲けとは時に非情なものなのだ!》


「酷い酷い酷いよぉおお!!」

 フルフルと頭を振って拒絶するユーティア。

 とてもじゃないが、受け入れそうにはない様子である。


《はぁ……おまえここぞという時には本当に頑固だよな。ならこの話は断るけどいいのか? また貧乏生活に逆戻りになるけど本当にいいんだな? 大きな声で「はい」か「いいえ」で明確に答えろ》


「は……はい!」


「あっありがとうぴゅありんさん!」

「えっ違っ!? 今のは……」


 はい、契約成立!

 俺の目論見どおり、ユーティアの返答を肯定と受け取ったルイは、先程の泣き顔が嘘のようなスケベ面の笑みを浮かべる。


「すす、すいません。今のはそういう意味ではなくてですぅ!!」

「なぁに不安がることはない。君は全てを僕に委ねてくれればいいだけさ。さあ行こう! 今行こう! すぐに行こう!!」

 はやくも脳内にはピンク色の卑猥な妄想が豊満しているのであろうルイは、餌が待ちきれない犬のように強引にユーティアの手を引き連れ出そうとする。


「ちょちょ、ちょっと待ってください、私は………」

「うん? どうしたんだい? ぴゅありんさん?」


「……私は、その、ちょっとだけプレイが激しいかもしれないんです……」


「なん……だって!?」

 ユーティアの発したそのセリフは、ルイにとってよほど意想外のものだったのだろう。

 口をポカンと開けた唖然としたその姿は、今日会って初めて見せる取り乱しようだ。


 ──が、しかしすぐに逆回転された映像のように平静でにこやかな表情を取り戻す。

 獲物の女性の前ではどんな時でも動じない。

 さすがはその道のプロ?のなせる技か?


「ハハハ、それは……ちょっと、いやかなり意外だね。でも……僕はそんな君の違った一面も見てみたいと思う。なにも恥じる事なんてないさ」


「本当ですか? それは嬉しいです! なんせ私、あまりに激しすぎてよく殿方のキ〇タマを握り潰しちゃうほどですからぁあ!!」


 メキメキメキッ!!と、ユーティアが──いや、もちろんすでに入れ替わった状態の俺がだが、手に持った金属製のカップを、まるで紙コップでも潰すように片手でひしゃげさせる。


「ヒッヒェエエエエエエエ!!!」

 今度は先程とは比にならないぐらいに、ルイはあんぐりと口を開いて動転する。


《ちょっとリュウ君なんてことするんですかぁ! 早く体を私に戻してくださいっ!》

 頭の中にユーティアの声がキンキン響く。

 戻って困るのは自分だろうに。

 それにユーティア自身で対応できないのなら、俺が出張るしかあるまいよ?


「さぁ早くプレイしましょう! キ〇タマ潰された男の絶叫でゾクゾクしたいのぉおお!! 右のキ〇タマから先に潰します? それとも左のキ〇タマ? それとも両方同時がお好みかしらぁあああ!?」

 ルイの股間にわきゃわきゃと蠢く俺の両手が迫る。

 

「ヒィイイイ!! まっ待て!! 君とは性癖が合わなそうだっ! それに大事な用事を思い出したから、僕はここで失礼させていただくよ!!」

「まぁまぁ、そう言わずに。少しぐらい味わって──」


「嫌だぁああああ!! お助けぇえええええええええ!!!!!」

 ルイはまるで処刑人から逃げるかのように猛ダッシュ!

 石畳の道を転がるように走り去っていった。


「……はぁ、まったく口だけで根性の無い奴だったな。こんな美少女、たとえ玉無しになってでも抱きたいとは思わないのかねぇ?」

 俺は手に入れたばかりの一万リグ硬貨を、チャリンチャリンと宙に舞わせてその輝きを楽しみながら悦に浸る。


《こんなの酷いですよリュウ君! これじゃ詐欺じゃないですかぁ!!》

「人聞きの悪いことを言わないでいただきたいな? あいつも言っていたとおり、これは性癖の不一致によるやむを得ない事態だ。まぁ、向こう側からの一方的な契約破棄なのだから、この金は有難くいただいておくが。ククク、しかしなかなかにチョロイ仕事だなこれは!」


《ふぇえええん! 主よ、私は罪を犯しました。その罪は甘んじて受けます。しかしこの子のことはどうかお許しください。幼いがゆえに、物事の分別がついてないんですぅ……》

 ま〜たユーティアの無益な懺悔が始まった。

 神の道理などに従ったところで待つのはのたれ死に。

 己の知恵と力のみがこの世界を生き抜くための依拠だというのに。


《それとリュウ君、そのお金は没収ですからね! お店の人にルイさんが忘れていったと説明して預かってもらいます! この帽子も返品してその代金も返しますからね!》

「なんだと!? 俺が汗水垂らして稼いだ金を取り上げるだと? 鬼かお前は!!」

《鬼はリュウ君ですよ! 汗水垂らしたのは私ですし、人を騙してお金を得るなんて許しませんからね!!》

 ユーティアはガミガミと説教を垂れ始める。

 どうやら完全にへそを曲げてしまったようだ。

 成り行き上とはいえ、さすがに手法がやや強引だったろうか?


「わーかったよ、返せばいんだろ? だが次からはお前がうまく稼いでくれよ?」

《次って、まさかまだこんなことを続けるつもりですか? もう止めましょうよぉ〜》


 まだ一仕事を終えただけだというのに、すでにユーティアの声からは疲労困憊が滲み出ている。

 この状況で無理矢理働かせれば、さすがに逆ギレしかねないか?

 ここは欲を張りすぎない方が得策かもしれない。


「チッ……わかったよ。だがいずれにしても店には戻る必要がある。戻った時点で他に予約が入っていたら、せめてその分だけでも消化しろ。でないと店にも客にも迷惑だからな。今日はそれで終わりにしよう」


《本当ですか!? 絶対にですよ? では戻りましょう! すぐに戻りましょう! ほら早く代わってくださいったらリュウ君!!》


 どれだけこの仕事をしたくないのか?

 支配の魔法を解除されたユーティアは、帽子を返品すると一目散に店へとダッシュ。


「予約が入っていませんように! 予約が入っていませんように! 予約が入っていませんように~!!」

 まるで念仏でも唱えるように、必死に祈りながらユーティアは店一階の扉を開ける。


「おやぴゅありんちゃんお帰りっス! 早かったっスねー!」

 店員のコペルが、相変わらずのハキハキした口調で出迎える。


「えっ! えぇ……と、すいません、お客様が急に用事を思い出されたとのことで……」

 嘘はついていない。

 そう自分に言い聞かせるように、後ろめたそうに目を伏しながら説明するユーティア。


「そうっスかぁ。でもちょうど良かったっス。今のうちに少しでも休んでおいた方がいいスからねぇ」

「え、と……どういう意味でしょう?」


 ユーティアの疑問に、コペルは左右の指三本ずつの計六本をユーティアの前に立ててニカッと笑う。


「もう時間いっぱいまで、六件の予約が入ってるっスよ!」


「いやぁあああああああああああああ!!!」


 ユーティアは断末魔のような悲鳴を上げながら、盛大に泣き崩れた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ