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第57話 マネーサプライズ 2

「なななっ? なんでなんで? なんでそんな話になるんですか!? ぜんぜーん意味がわからないんですけどぉ!!」

《なんでって、今俺が懇切丁寧に説明したところだろうが。体を張ってでも金を稼ぐべきだという俺の主張に、お前も同意をしたではないか?》


「だっ、だからって私に体を、その……売れだなんて、酷いですよぉ! それは体張りすぎですっ! あんまりですっ! そんなの私にはムリムリムリですぅ〜!!」


《しょうがないだろ。これが一番手っ取り早くて楽に稼げるんだからさ》

「ちいっっっっとも楽じゃないですからぁ! 私は今にも目から血の涙流しそうですよぉおお! ひぐっ、ひっく……」

 さすがに血ではないが、ユーティアは透明の涙を流しながら嗚咽を漏らし始めた。


《チッ、ったく使えねーなぁ! まぁしかし安心しろ、お前がそう言って拒絶することも想定内だ。だからこうしてよりマイルドなサービスの店を選定しておいたぞ。お前にも抵抗の少ない内容のな》


「マイルド……ですか?」

 グズリと、鼻をすすりながらユーティアが顔を上げる。


《そうだ、ここはレンタル彼女、いわゆるデートビジネスとしての看板を掲げている店だ。だから性的なサービスは必要ない。俺はなにも体を売れと言っているわけじゃないんだぞ?》

「さっき思いっっっっきり言ってましたけどぉ!」


《まあともかくだ、男性とその辺をブラブラ散歩しながら閑談するだけの簡単なお仕事だ。どうだ、これならできそうだろ?》

 もっともこの世界にもこんなビジネスがあるとは意外だったが。

 さすがにガチなのはユーティアには耐えられまいて。

 

「そ、それでも私にとっては十分に至難の業なんですけど。でもほんとーに、ここはそんなことでお金をもらえてしまうお店なんですか?」

《まぁ一応はな。ただ基本料金だけでは稼ぎが少ない。そこでだ、店公認ではないが個人での交渉によって追加される裏のオプションサービス──通称裏オプによって追加料金をせしめたいところだ。お前が許容できる範囲ギリギリのサービスを提供して、最大限の見返りを得てもらう必要性がある。せいぜい飢えた野獣共から搾り取ってくれよ!》



「そんな……搾り取れと言われても……」

 ユーティアは他の三人の女性をチラ見する。

 それぞれ癖のありそうな三人だが、共通しているのは図太そうということだ。

 この業界で稼ぐとなると、やはり軟弱者では務まらない。

 自分とはかけ離れた世界で生きる女性を目の当たりにする緊張ゆえか、ユーティアは目を逸らすように俯く。


「やっぱり……やっぱり私には無理ですよぉリュウ君! 見ず知らずの男性と上手にお話するのですら自信ないです。ましてや駆け引きだなんてとてもとても……。始まる前にこのお仕事はお断りしましょう」

 ユーティアは他の三人に怪しまれないように、ソロリと立ち上がる。


《始まる前にとはどういう意味だ? もう仕事は始まっているんだぞ?》

「ええっ!?」

 入り口に向かいかけたユーティアの動きがピタリと止まる。


《なにせここは客に指名されるまでの待機室だからな。この店に来た時に一階で写真を撮っただろう? 今頃現像されて指名用のパネルとして店頭に並べられている頃だろうよ》


 驚いたことにこの世界にはすでに写真の撮影機材が存在していたのだ。

 もっともこれも魔石を利用したもので、俺の前世の物とは原理からして異なるようだが。

 それに機材も大掛かりで一枚撮影するにも時間がかかる。

 まだ手軽に個人で持ち運んで使えるという代物ではないようだが。


「あれはこの町の滞在許可証を作るためだって言ってたじゃないですか! おかしいと思ったんです。はにかんだ笑顔でとか胸を寄せてとか、やたらと注文が多かったから!」

《おかげで秀逸な出来になったろうよ。店員がキャッチコピーも用意してくれていたようだぞ? たしか『業界未経験! 完全素人!! ナント正真正銘、本物のシスターが入店!! 穢れを知らない無垢な子猫ちゃんを、あなた色に染めちゃってください!!』だったかな?》


「非常識です破廉恥です罰当たりですぅうう!! ──はむっ!」

 叫喚するユーティアだが、またぞろ睨まれ自分で口を塞ぐ。


「ううっ……どうして、どうして私の知らない間にこんなに手際よく話が進んでるんですか? おかしいですよぉ!」

《もちろん俺が直接動けば事前にお前にバレて妨害されてしまう。だから店への手続等の事前準備はリンゲルに頼んでおいたのだ。ここで働けるようにお前が16歳の成人であるという偽装まで含めて完璧にな。まぁこの国には戸籍が無いからそれほど難しくはなかったようだが》


「そういえば、思い返してみればそれらしい話をしていた記憶があります。専門用語が多かったので理解できなかったですけど、この事だったんですね? どうしてこういう事にだけは悪知恵が働くんですかもぉ!!」


 悪知恵とは失礼な。

 どんくさいユーティアを有効活用する妙策と言っていただきたい。


《とにかくだ、お前の集客用のパネルは相当な出来だ。すぐにでも性欲を持て余したロリコン共がわんさかと釣れるだろうよ》

「うえ~んっ! やっぱり止めます無理です帰りますぅ!!」


 ユーティアが逃げ帰ろうと入り口のドアノブに手を伸ばす──が、ほぼ同時に扉は外側から開けられる。


「ぴゅありんちゃーん! 90分コースのお客様入ったッスよー!」


 ハキハキとした声。

 声の主──小豆色のスーツを着た小柄な若者が、ニカッと笑みを受かべて扉の向こうに立っている。

 一階の受付に居たこの店の店員だ。

 たしか名前はコペルと名乗っていたな。


「さっそくのお客様第一号ッスよ! パネルを見た途端に即決だったッス。さすがッスねぇ! いやぁー店員じゃなきゃ僕が指名したいぐらいッスから!」


「えと……ぴゅありん……ちゃん? どなたでしょう? 呼ばれてますよぉ?」

 ユーティアは後ろを振り返り、対象の女性を探す。

 だが三人共に、ピクリとも動く気配は無い。


《お前のことだ、お前の源氏名だよ。さすがに本名で働かせるほど俺は鬼じゃないぞ。よかったな、さっそく獲物……いやお客様が釣れたってわけだ》


「ええっ!! ええええっ!??」

 今度は、はばからずにユーティアは大声を張り上げた。


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