第55話 転職のすすめ 3
「イジケている場合ではないぞよパパ。いつまでもここでお世話になるわけにもいかないのである。早く新しい職を探さないと」
「わかっておるわい! しかしワシが長年にわたって貯めた金は全て使い切ってしまったし、無一文からの再出発となると難しいのぉ~」
変態親子が急にリアルな話をし始める。
もっとも金が無いのは俺達も同じ。
他人事ではないのだが。
「オヤジちゃんゴーレム作れるんだよね。それ作って売ったらいいじゃん?」
「簡単に言ってくれるな猫娘よ。ゴーレムは製作費がかかりすぎるから今は無理じゃ。もっとも以前小サイズの物を作ったことがあったが売れなかったのぉ。性能は良いはずなんじゃが」
ヴェロウヤブは思い返すようにしみじみ語る。
売れなかったのは十中八九デザインの問題だと思うがな。
「お困りのようだな。そんな哀れなお前らのために、特別に俺様が知恵を授けてやってもいいぞ」
だがこの流れは好都合。
この親子とは遅かれこの手の話をするつもりだったのだ。
「知恵……とな? どういうことぞよ?」
「あの一団を見てみろ」
俺は親指でクイッと隅の席を指差す。
丸テーブルを囲んだ四人組は、これからクエストに赴く冒険者だろうか?
皆が重厚な鎧を身に纏い、雑談を交わしながら装備の点検をしている。
「あれがどうかしたであるか?」
「あの中に一人女性の剣士がいるだろう? だがその装備は他の男同様にフルプレートに近いアーマーだ。あれだと防御力は稼げるが、当然重量がハンパないから筋力の劣る女性では敏捷性がかなり犠牲になる。おまけに体力の消耗も激しいはずだ」
そう、これはこの世界に来てずっと感じてきたこと。
女性剣士がいささか重装備すぎるのだ。
「それはそうであるが、鎧というのは元々そういうものぞよ? 身を守るためのものなのだから、保護は広く厚い方が良いのである」
「それだよ、その固定概念を覆す、まったく新しいコンセプトの鎧をお前達親子で作るべきだと俺は提案する!」
「新しいコンセプトの……鎧じゃと?」
ヴェロウヤブがピクリと反応する。
鍛冶職人だけあって、この手の話には血が騒ぐらしい?
「まずベースにはリンゲルの水着……いや礼装を使う。礼装の中には厚手のものもあったな。あれをもう少し厚めにしてでも防御力を持たせることはできないか?」
「それは、耐水性を切り捨てればかなりの強度の実現は可能ぞよ。吾輩は礼装の開発にあたり多彩な素材の研究もしてきたであるからな。それでも金属製の鎧よりは脆いぞよ?」
「それはもちろんだ。だから必要最低限の部位はオヤジの積層プレートで保護する。あれも高剛性と軽量性を兼ね備えた逸品だった。つまり二種類の素材を組み合わせることで、防御力と敏捷性を両立させようってわけだ。これぞ名付けてビキニアーマー!!」
俺は人差し指を突き上げると、高らかに命名。
もちろん俺が考えた名前じゃないが。
「ビキニ……アーマーじゃと? 確かに悪くはない発想じゃ。のう息子よ?」
「たしかに、それなら美の追求をしながら収入源の確保も可能である。吾輩とパパにとっては理想の職業と言えるぞよ。やってみる価値はあるのである!」
余程に俺の入れ知恵……いやサジェスチョンがハマったようだ。
ヴェロウヤブもリンゲルも活き活きと目を輝かせ始める。
「ふふっ、開発には女性の協力者が必要でしょう? また私もお手伝いさせていただきますわ」
「あ~私も私もっ! 可愛い〜の期待しまっす!」
そしてアンゼリカとマリオンまでもが乗り気だ。
こうして、俺プロデュースの新しいビジネスが誕生することとなった。
道行く女剣士がビキニアーマーを着るようになるのかと思うと、今から待ち遠しい。
《もうっ! 二人に利用価値があるっていうのは、この事だったんですねリュウ君? 変な事にばかり頭が回るんだから》
ユーティアだけは半ば呆れているようだ。
「わかってないなユーティア。俺はこの世界の支配者になる人間だぞ。しかし無味乾燥な世界では支配する価値は無い。支配予定の世界をより華やかにさせるために、今からこうして種を蒔いているのだ。この世界に無いものは作ればいい。自分で作れないなら、他人に作らせればいい。支配者とはカリスマ経営者としての才覚が必要とされるものだ!」
《はぁ、自分に自信があるのは良い事だけど、もっと子供らしい事に興味持ってほしいんだけどなぁ……》
ユーティアの嘆きをよそに、俺は順調に進みつつある世界征服の野望に胸が高鳴っていた。
To Be Continued
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