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第51話 意趣返し 2

  『 圧 気 護 泡(メレスト) !』

 俺は着地点に空気を凝縮した緩衝魔法を生じさせ、無事に地面に降り立つ。


「やったか?」

 言ってから俺は、そのことを後悔する。

 このセリフの後で攻撃が不発だったってのは、漫画とかで100回くらい見たお決まりのパターンではないか!


 そしてご多分に漏れず、今回もその展開のようだ。

 黒煙から浮かび上がったゴーレムの姿は、いまだ健在であった。


 いや、それなりにダメージは与えている。

 直撃した部位は陥没し、赤熱している。


 だが先程の攻撃はその装甲を貫くには至らなかったようだ。

 想像より遥かに与えたダメージは少ない。


「フアッファ!? まさかラブリーハニーちゃんに傷を負わせるとは!! だがその程度の火力ではラブリーハニーちゃんの特殊装甲を破ることは叶わん! なにせラブリーハニーちゃんの鎧はワシの長年に渡って培われた技術の結晶! 絶対無敵の防御力を誇るのじゃ! 剛性のガリウス鉄鋼と軟性のミュレム合金を極薄に加工し六層に重ね合わせることで、あらゆる攻撃を跳ね返す圧倒的な強度と耐久性を実現! さらに特殊魔石の粉体コーティングによって魔法攻撃による高熱、冷気、電撃等を拡散することで平均で約60%ものダメージを軽減! ありとあらゆる攻撃を跳ね返すラブリーハニーちゃんは絶対無敵の──」


  『 六 合 終(パリス・) 極 回 帰(メタリオン) !!』


 突き出された俺の掌底から、暗紫色の光弾が弾ける。

 その巨大な光弾は、金切り声のような不快な音を撒き散らしながらゴーレムに衝突。


 同時にゴーレムの堅固なはずの装甲は、まるで波に飲まれた砂の彫刻のようにボロボロと壊落。

 その土手っ腹に大穴が空く。


 体幹を失ったゴーレムの四肢と頭部は、糸が切れたマリオネットのようにガラガラと崩れ落ちた。


「ほげぇええええ!! ラブリーハニーちゃああああん!!!!」

 自慢の最強兵器があっさりとスクラップにされたヴェロウヤブは、半狂乱となり残骸の元へすっ飛んでいく。

 必死で亡骸をかき集めようとするも、触れた部分が砂糖菓子のようにさらに崩れる。


「これは……物質構成自体の……崩壊? ディスインテグレイトか!? しかしまさかエクシードでもない者がこんな高等魔法を、しかもこんな大規模で行使するとは!」


「御明察だな! この呪文は詠唱が長いのが難点だが、お前がダラダラと講釈垂れてくれたおかげでその時間も十分に稼げた。感謝するぜ!」


 そう、俺が使ったのは対象を原子レベルで崩壊させるディスインテグレイトと呼ばれる系統の魔法。

 この魔法ならば、対象の強度は度外視して破壊することができる。


 もっとも単純な火力でこのゴーレムを倒すことも可能だったが、その場合はこの建物ごと吹き飛ぶ。

 それだとさすがにユーティアにどやされそうなので、今回はこれが最適解だろう。


「さてと、楽しいパペットショーはもうおしまいか? エクシードってのも存外大したことねーなぁ?」

「ぐぬぬぬぅう! 調子に乗るなよ小娘ぇ! ワシなぞ最下級である第四等位。しかもこの歳でようやくエクシードになれる程度の下っ端にすぎぬ! つまりワシの実力は第四等位の中でも最弱。おぬしのような小娘ごときに負けるエクシードの面汚しよ!!」


「それ自分で言っちゃう?」

 俺はこの諦めが良いんだか悪いんだかよくわからんオヤジにトドメを刺すべく、指関節をボキボキと鳴らしながら歩み寄っていく。


「まっ待つぞよー!」

 戦いに巻き込まれないように遠巻きに見ていたリンゲルが砂上をバタバタと転がるように走ってくると、俺とヴェロウヤブの間に割って入った。


「おっ……お主が恨んでいるのは吾輩であろう! パパは関係無いはず! たしかにパパは偏屈でスケベであるが、吾輩の唯一の大切な家族。だから殴るなら吾輩を──ブゴッホォオオ!!」


 俺のハイパースクリューアッパーを顔面に受け、綺麗な放物線を描いて吹っ飛んだリンゲルはキリモミしながら砂浜に頭から突き刺さる。

 胸部から下が天に向かって突き出すという、シュールなオブジェと化した。


「そんなことは言われるまでもないが、しかしお前を本格的にブチのめすのは後回しだ。俺が一番頭にきているのは、この教団の創設者なんだからな」

 そして再び俺はヴェロウヤブに視線を向ける。

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