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第50話 意趣返し 1

「どこがダサいというんじゃ! 美的センスに満ち溢れた完全無欠のネーミングであろうが!!」

 御自慢のゴーレムの名前を馬鹿にされたヴェロウヤブはカンカンになって怒り出す。


「そして完璧なのは名前だけではないぞ! 元々鍛冶職人だったワシが長年培ってきた鍛造技術の粋を結集し完成させたのがあのラブリーハニーちゃんじゃ! その性能は王国一と言っても過言ではないのじゃ!」

 と今度は一転得意満面のヴェロウヤブ。


 たしかに名前こそふざけているものの、あのおかめ顔のアイアンゴーレムの能力は相当なものだろうと推測される。

 各関節のパーツが干渉しないように設計されているようで、歩くという動作一つ取っても人間の動きにかなり近い。

 あの巨体にしてその動きは極めてスムーズだ。

 この世界のゴーレムの基準はまったく知らんが、あの自慢も強がりというわけではなさそうだ。


 ゴーレムは陸へと上がり浜辺の熱帯植物をなぎ倒しながらこちらに歩いてくる。

 信者達もあのデカブツがまさか動くとは思っていなかったようだ。

 悲鳴を上げ逃げ惑う者に、腰を抜かしてへたり込む者。

 ドーム内が半ばパニック状態になっている。


「戦闘の邪魔だな。マリオン信者の避難誘導をしろ! あと騒ぎを聞きつけて他の信者が入ってこないように退避勧告も併せてな!」

「ええっ、わたしまだ両手縛られたままなんだけどぉ!?」


「……だけど?」

 俺は甘ったれたことを言ってくるマリオンを冷たく睨む。

 自主的にここまで来たのだから、この程度には役に立ってもらわねば。


「うぅ……わかったよぉ! ポチもいるし、二人でがんばりまーすっ! 行こうっポチ!」

 マリオンは言って砂浜を走るが、すぐに転んだ。

 どうやらあの胸で両手が縛られたままだと、かなり動きにくいようだ。


《リュウ君、私達も逃げましょう! もう私達の手に負える状況じゃないですよ!》

「逃げるだと? おい冗談はよしてくれ。俺の目標は世界征服だぞ? 第四等位程度のエクシード相手に逃げるようじゃ話にならん。ちょうど良い機会だ、エクシードの実力がどの程度のものかお手並み拝見といこう。それにエロオヤジのくせに能力でモテてたというのもいけ好かない。なおさら叩き潰したくなってきたぜ!!」

《それ思いっきり私情じゃないですかぁ!》


 俺とユーティアが押し問答をしている間に、ゴーレムは間近まで迫る。

 そびえ立つそれは、まるで巨大な山脈。

 そしてその腕に握られた大剣が俺に突き付けられる。


「降参するなら今のうちじゃぞ! おとなしくワシの妹になるなら、数々の非礼を免罪してしんぜよう。それとも本当にこのラブリーハニーちゃんと戦うつもりかの?」

 まだ勧誘してきやがる。

 どんだけ妹が欲しいんだこのエロオヤジは。


「誰がするかヴァ~カ! このブッ細工なゴミは目障りだから俺が今からスクラップにしてやるぜ! 解体費用はお前らの命だ! 覚悟しろ!!」


「カ~ッ! ワシのラブリーハニーちゃんを侮辱しおって! 許されぬぞ! 死刑! 死刑じゃあ!!」 

 ゴーレムが大剣を振りかぶり、俺めがけて一直線に振り下ろす。

 風切り音と共に迫るその刃──

 しかし俺は寸前で大きく横跳びしてそれを回避する。


 ──がゴーレムは振り下ろした剣を持ち替えると、今度は横払いの一撃を放つ。

 しかしそれも後方にバク転して逃れる。


《はわわわっ! 危ない! 当たる! 当たりますっ!》

(さえず)るな! たしかにスピードは速いが、しかしあの図体だ。無茶な動きはできないから動きは読みやすい。落ち着いて見極めれば躱せないこともない!」


 もちろんそれは俺の身体強化魔法で高い機動性を獲得しているからではあるが。

 並の剣士では初撃すら躱せるか怪しい。

 それほどまでに、このゴーレムの動きには無駄が無い。


「むぐぅ……やりおる! なんなのだこの娘は!? だが逃げてばかりでは勝てんぞ! いずれ体力が尽きればラブリーハニーちゃんの勝利じゃ!!」

 俺がゴーレムの攻撃を回避し続ける光景がよほど予想外なのだろう。

 ヴェロウヤブの顔に動揺が浮かぶ。

 だが奴が言うように、攻撃に転じなければジリ貧になるのも確か。


 だがなぁ、足場が悪いんだよなぁ……

 一面砂浜なため、素早い動きが封じられているのだ。

 加えて次々と攻撃を繰り出すゴーレム。

 呪文を唱える隙がなかなか見出せない。

 かといって魔法を使わず素手でゴーレムを破壊するのはさすがに無理だろう。


「──っとと……」

 ゴーレムが倒した木の幹に足を取られ、バランスを崩す。

 その隙を見逃さぬとばかりに振り下ろされるゴーレムの一撃。


「って、やられるとでも思ったか!!」

 だがピンチをチャンスに変えるのが今の俺!


 転んだ勢いのまま両手で地を跳ね空に舞った俺は、振り下ろされた剣の上を蹴る。

 そしてそのままゴーレムの前腕を飛び、上腕を駆け肩を踏む。

 身体強化魔法を移動系統に全振りしているからこそ可能な、超人的な身のこなし。


 そして最後にゴーレムの頭上を力いっぱい蹴って大きく飛び上がる。

 宙を舞う俺の体は、ドームのほぼ天井近くにまで達した。


《たっ……高っ! なんでこんなトコまで飛ぶんですかリュウ君!?》 

「はぁ? 見りゃわかるだろ! ここが呪文を唱えるには特等席だからだよ!!」


 戦闘中にゴーレムを観察してわかったことが二つほど。

 まず一つ目には、ゴーレムは攻撃対象を目で追っているということ。

 奴の両目には青紫色の魔石が埋め込まれているようだが、それで対象を認識しているのだろう。

 そして二つ目、それはゴーレムの関節の可動域から上方を見上げたり攻撃したりということは不可能に近いということ。

 その巨体ゆえに、上方の敵を攻撃するということがそもそも想定されていないのだろう。

 そこまで自由度の高い関節を作るのは無理というのもあるのだろうが。


 つまりゴーレムの頭上というこの位置は、奴が見ることも攻撃することもできない死角になる。

 この安全地帯ならば、ゆっくりと呪文が唱えられるってわけだ。


 俺は空中で標的を眼下に見下ろしたまま、大きく両手を広げ呪文を詠唱する。


「ル・ヴァルタ・ローグ・ロード 疾風の如く空を(かけ)よ 冥闇(めいあん)より放たれし火蜥蜴(ひとかげ)よ!」

 俺を中心として光の波が弾けたかと思うと、周囲に六つの炎弾が展開される。


  『 灼 炎 乱 舞(レヴン・バルタロス) !!』


 俺が腕を振り下ろすと同時に、炎弾はゴーレムへ向けて打ち出される。

 いや厳密には上方からゴーレムの周囲に向けてばら撒かれたのだが、自動で標的へと軌道を修正する。


 自動追尾型の魔法。

 今の状況のようにエイムが雑でも目標を捕らえてくれる優れモノだ。

 

 攻撃はゴーレムに続けざまにすべてが命中。

 着弾するたびに花火のような火花とけたたましい金属音を撒き散らしながら爆炎を巻き上げた。


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