第46話 悦楽の園 3
「アンゼリカさん! これはどういうことですか!?」
「ごめんなさいね、もしあなたが来たら捕まえるようにとリンゲル司教様から申しつかっていたの。でも私は一緒に行くとは言ったけど、家に帰るとは言っていないので嘘は言っていませんよ? リンゲル司教様の元にお連れするという意味だったんです。ちょっと強引なやり方でしたけど、うまくいってよかったです!」
クレーンゲームで景品を取ったみたいな、ちょっと自慢げな笑みを浮かべるアンゼリカ。
おっとり系かと思いきや、どうやら思った以上にやり手だったようだ。
肝が据わっているところはミリィ似なのかね?
「なんであるか騒々し……ああーっ! オマエは昨日の!!」
そしてどうやら向こうからおいでなすったらしい。
騒ぎに気付いたリンゲルが、ユーティアの顔を見て目玉を飛び出させる。
しかしその両手が拘束されているのを見ると、一転して形勢逆転とばかりに笑みを浮かべる。
「これはこれは……よくやったぞよアンゼリカ! 吾輩に歯向かう不届き者にはお似合いの末路。イルヴィネス様の天罰が下ったぞよ!」
「リンゲル司教! あなたは自分の欲望のために女性にこんな……淫らな姿を晒させることに罪悪感は無いのですか? 女性はもっと清らかで慎ましくあるべきです! こんなことはどの神であろうと容認されるはずがありません!!」
しかしそんなユーティアの訴えに、リンゲルは呆れたように肩をすくめる。
「ふっるーいのである! 古い古いふるーい!! 少し肌を露出したぐらいですぐに淫らだの卑猥だのと、その化石のような押しつけがましい封建的な理想論こそ恥じるべきぞよ! そもそも吾輩は己の欲望のためではなく、彼女達の持つ美をより輝かせるためにこうして舞台と礼装を用意しているぞよ! どこが淫らであるか? 美しい! そう彼女達は紛れもなく今最高に美しく輝いているのである! 女性はもっとオープンでいいのである! その艶美な肉体を惜しげもなく武器に使っていいのである! 女性の自由を殺す貞操観念なんぞ糞くらえであるぞよ!!」
「さすが司教様! なんと崇高な理念をお持ちなのでしょう! 感服いたします!」
「私達、司教様に一生ついていきます!」
「イルヴィネス教団に栄光あれ!」
周りの信者も、リンゲルの演説に拍手喝采。
いや、賛美しているのは彼女達だけではない。
《うん、これはリンゲルが正しい!!》
もちろん俺も同意見だ。
「リュウ君は黙っててくださいもうっ! それにこのことはあなたのお父上、ヴェロウヤヴ教主も了承してのことなのですか?」
ギクリと、リンゲルの全身が硬直する。
「ふ……ふんっ! あんな堅物に吾輩の美学は理解できないぞよ! だからこうして留守中に急ぎオアシスを完成させたぞよ。完成させてしまえば作り直す予算は残っていない。吾輩の勝ちぞよ!」
おいおい、勝手に予算つぎ込んでここまで作ってんのかよ。
その行動力を褒めるべきか蔑むべきか。
「リンゲル司教様! 報告します!」
オアシスの入り口で一人の信者が声を上げる。
赤ドレスを着たその信者は、正門に居たあの門番だ。
中まで入ってこないのは、礼装を身に着けていないからなのだろう。
「なんであるか? 今は見ての通り取込み中ぞよ?」
「それがその……お帰りになられました」
「な……バカな! 早すぎるぞよ!!」
リンゲルは大口を開けて驚愕する。
「任務はあと一週間はかかるはず! まだ良い言い訳が思い浮かんでないぞよ! この状況をどう説明すれば……」
リンゲルは俺達のことなど忘れたかのようにブツブツ言いながらグルグルと同じ場所を回り始める。
とその時入り口から一人の男が姿を現す。
「なんだ……ここは? いったいどうなっている?」
白いローブを着た初老の男は、オアシスに入るなり目を見開き驚きを露にする。
「ぱ……パパ!」
パパ?
リンゲルがパパと呼ぶあの男。
奴の父親──つまりこのイルヴィネス教団の最高位。
そうか、奴が正第四等位のエクシード、ヴェロウヤブ教主か!




