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第45話 悦楽の園 2

 奴はドーム左端の砂浜にいた。

 海パン姿のリンゲルは目隠しをしていて、木の棒を振り上げ右往左往している。

 周りでは複数の女性信者があっちだこっちだと守り立てる。

 どうやら地面に置かれた木の実を棒で叩き割るゲームの真っ最中のようだ。

 どこの世界にも同じような遊びはあるものだな。


《奴め、なにが職務を遂行してるだ。女に囲まれ鼻の下伸ばしながら遊戯を堪能しまくってるだけではないか!》

「でもそのほうが都合がいいですよ。今なら私がリンゲル司教に見つかる心配はありません。今のうちにアンゼリカさんを探しましょう。……て、もしかしてあの方ですかね?」

 俺達とリンゲルとの中間、波打ち際近くでビーチバレーをしている一団。

 その中の一人にユーティアは目を止める。


 背はやや高めでアッシュグレーのストレートヘア。

 そして青みがかった宝石三つが逆三角形状に配置された髪飾りをしている。

 まず間違いなさそうだ。

 ちなみに言うとスタイルも良い。

 

 ユーティアは周りの信者達に不審がられないように平静を装いつつ、その女性に近づく。


「あの、お取込み中失礼します。もしやアンゼリカさんでしょう……わぷっ!!」

 女性に声をかけようとしたユーティアの顔面に、ビーチバレーのボールが直撃。

 ユーティアはそのまま受け身をとるでもなく砂浜にひっくり返る。


「きゃあっ! あなた……大丈夫?」 

「は、はい、そんなことよりも……」

 まぁ競技用ボールではなく先程の浮き輪と同様軽いビーチボールだったのでダメージは無い。

 ユーティアはボールが直撃した鼻を押さえながら起き上がると女性に迫る。


「もし違ったらすいません。あなたはアンゼリカさん……でしょうか?」

「ええと……そうですよ? イルヴィネス教団の美少女二大巨頭としてエルトリーゼさんと並ぶと言われるアンゼリカとは私のことです。もしかして私のファンの子かしら? うふふ!」

 アンゼリカを名乗る少女は、ほんわかした笑顔でいけしゃあしゃあと味噌を上げる。

 

 いやこうして近くでみると、確かに美人ではある。

 ミリィを少し柔らかくして成長させたらこんな感じになりそうだ。

 おまけにこのマール似の天然なのか厚かましいのかよくわからん態度。

 アンゼリカ本人で間違いなさそうだ。


「いえ、そうではなくて、私達はミリィちゃんに頼まれてあなたを連れ戻しにきたんです」

「ミリィが? あの子にはしばらく帰れないと言っておいたのに。本当に心配性な子なんだから」

 アンゼリカは困ったもんだといった風に小さく息を吐く。

 その姿に深刻さはなく、少なくとも脅されて帰れなくなっているという様子ではないようだが……


「心配性って、もう何日も帰っていないんでしょう? そりゃ心配もしますよ! それにこの教団はどこかおかしいです。とりあえず一度戻りましょう!」

「そーだよ! 家出は非行の始まりだよ! 良い子は門限までに帰りましょう!」

 アンゼリカはユーティアとマリオンの説得の後しばらく難しそうな顔で沈黙していたが、考えがまとまったようにポンと胸の前で手を合わせると柔らかな笑顔を見せる。


「わかりました。では一緒にまいりましょう。あなたたちの善意を無下にするわけにもいきませんし。ですがここから出るには入る時と同様に通行証が必要ですが、お二人は今お持ちでしょうか?」


「い……いえ、それは……」

 後ろめたそうに視線を逸らすユーティア。

 アンゼリカはそんな素振りを気にする様子もなく、自分の両耳に付けていた赤い宝石のイヤリングを外す。


「ではお二人とも一つずつこれをお持ちください。これを持っていれば信者が認めた者とみなされ通行できるようになります。割れやすいので両手で持ってくださいね」

「はい、ありがとうござ……」


《それに触るな!!》

 俺の励声(れいせい)は、しかし一瞬遅かった。


  『 ローズ・チェイン!』

 アンゼリカが叫ぶ!

 と同時に赤い宝石は破裂し、光の帯となってユーティアとマリオンの手首を拘束する。


《これは! 拘束型の魔石か!!》

 そもそもおかしな話なのである。

 通行証を持っていないのにここにいる時点で不法侵入の不審者。

 不審者をわざわざ逃がすために仮の通行証など渡すはずがない。


 だというのに二人揃って罠にかかるとは。

 まったくこいつらは人を疑うということを知らないのかね?

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