第40話 片想い 3
子供達から拍手が巻き起こり、一応は一件落着……となったのか?
もっとも子供達からも最後に参戦した奴は誰だという議論が当然巻き起こっているが。
「お師匠様! 会えて光栄です! 大感激です! 握手! 握手してもらっていいですか!!」
子供を見送ったマリオンはトゥインクルの元に駆け寄り、感涙しながら握手を求める。
「え……ええ、私のファンなの? でも危険だから今度からワルインダーと戦ったりしちゃダメよ? 私は一人で大丈夫だから、ね?」
ガチ勢の扱いにも慣れているんだろうか?
トゥインクルはにこやかな笑顔を保ちつつ握手に応じる。
「じゃ、私は次の任務があるからこれで。みんなーまた会いましょうねー!!」
トゥインクルは客席に向かって大きく手を振りながら舞台裏へと消えていった。
歓声で見送る子供達。
そして舞台上でより大きく両手を振り見送る少女が一人。
「かっこよかったれすお師匠様~! また……いつの日かお会いひましょ~」
惜別に涙ぐんでいるマリオンは実に満足気だった。
……しかしこれでいいのだろうか?
ここで黙っていても、いずれは気付く日が来るはずだ。
いっそ今のうちに打ち明けた方が本人のためではないか?
おまえの師匠はコスプレした偽物だぞと。
「リュウ君わかってるとは思いますけど、マリーの夢を壊すのはメッですよ! 私は実在するしないはそれほど重要ではない。本人の想いこそが真実なんだと思います。現にトゥインクルさんは立派にマリーの成長の糧になっているんです。それって素敵じゃないですか!」
《そういうもんかね?》
「そうですよ。だってシスターである私だって神様の存在を証明できるわけではないですからね。そういう意味では似たようなものですよ。本当はこんなこと言ってはいけないんですけど」
ユーティアは悪戯っぽく舌を出す。
なるほど、そりゃそうだ。
こりゃ一本取られたな。
だがしかし、それとは別に確認しておきたいことはある。
今回の件で確信したことがあるのだ。
《おいマリオン!》
「え、なにかな? リューちゃん……」
俺は舞台から降りてきたマリオンに話しかける。
《お前、さてはカッペだな!!》
「ギクッ! な……なな……なに言ってんのリューちゃん? わたしみたいなオシャレガールをつかまえて! 田舎者のわけがないじゃん! 冗談が過ぎますぞ~」
マリオンは冷や汗をダラダラと流しながら否定するが俺は騙されない。
そもそも自分でギクッって言ったし。
《昨日からおかしいと思っていたんだ。お前は魔法関連の知識こそ豊富なものの、随所で浮世離れした言動が多い。そして多人数と交流があれば当然得られるはずの知識が欠落している面も見受けられる。そこから導き出された解、それはマリオン──お前がカッペであるという事実だ!!》
俺はマリオンに言い放つ。
もはや言い逃れできんとばかりに語気を強めて。
「うわぁあああん! カッペって言うなぁああ!! ちょっと辺鄙な所に住んでただけだもーん! たまたま人が少ない場所で生まれただけなんだよぉおお!!」
それをカッペと言うのだが。
核心を突かれたマリオンは、盛大に泣き崩れる。
《ついでに言うと魔法学校で主席だったってのも怪しいもんだがな。そもそも田舎に魔法学校だと? 生徒は何人居たんだ? まさか四、五人とかじゃないだろうな?》
「……りです」
《あ? なんだって?》
「だから一人! 一人ですぅ! 毎日一人で寂しくばっちゃから魔法を教わってたんだよぉ~!」
《一人だと? それは魔法学校とは名ばかりの個人指導じゃないか! よくそれで主席とか嘯けるな! 恥を知れ恥を!!》
まさかこれほどとは。
どうやら想像以上のド田舎育ちのようだ。
「だってご先祖様の大魔法士パルテア様は人見知りが激しすぎて、魔王を倒した後人里離れた山奥に引き籠もっちゃったんだもん。でもご先祖様を慕う人達が少人数集まって集落を作って、ご先祖様の魔法もこうして細々と……じゃなくて脈々と受け継がれてきたんだ。でも人が少なすぎて同年代の友達もいないし、都会に憧れて村を飛び出したんだよぉ~」
泣きながら弁明するマリオンの姿を見て、さすがにいたたまれなくなってきた。
「あ、あの、マリー全然気にすることないですよ! 私が育った村だって似たようなものです。だからマリーの気持ちもわかりますよ」
「ほ……本当に? ティア?」
「はい、それはすごーく田舎でした。いい所でしたけど」
「そっか、じゃあわたし達田舎育ち仲間だね! やっぱりティアはわたしの親友だよ~」
笑顔を取り戻したマリオンがユーティアに抱き付いてくる。
これが同類相憐れむというやつか。
いくらお仲間が増えたところで、マリオンがカッペであるという事実が払拭されるわけではないのだが……




