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第39話 片想い 2

「……ょう…………師匠ぉおおお!!!」

 マリオンは泣き叫びながら舞台へとダッシュする。


「え? マリー? いったいどうしたんですか??」

 ユーティアもマリオンを追いかける。


 マリオンはすでに子供達に交じり、魔法少女のダンスとシンクロして歌いながらピョンピョン飛び跳ねている。


「さー! みんなも一緒に! トゥインクル♪ トゥインクル♪ トゥインクルスター!」

「「「トゥインクル♪ トゥインクル♪ トゥインクルスター!」」」

 子供と一緒になって盛り上がっているマリオンの違和感が凄い。


「マリー、どうしちゃったんですか?」

 ユーティアはようやくマリオンに追いつくと、チョイチョイとマリオンのマントを引っ張る。


「ティア! お師匠様だよっ! 魔法少女トゥインクルちゃんがわたしのお師匠様なんだ! ようやく会えた! 大感激だよぉ~!!!」

 言いながらマリオンはドバドバと涙を流す。


《お師匠様って……おまえ》

 そういえばマリオンは昨晩、師匠が滞在しているという噂を聞きつけこのリムファルトまで来たと言っていた。


 魔法少女トゥインクル。

 激しく踊りながらも息を切らさず歌い続けるタレント性はたいしたものではある。

 だがそれはあくまでアイドル的な才能であり、魔法士としての能力が高いわけではないのではないか?


《ちなみにマリオン、おまえその師匠からどんな魔法を学んだんだ?》

「魔法なんて習ってないよリューちゃん! だって会うのも今日が初めてだしね! お師匠様は悪の組織ワルインダーとの戦いで昼夜忙しいから、なかなか人前にも出てこれないんだよね。でもお師匠様の弱き者を守る正義の心とその活躍は、王国中に書物なんかで伝え広がっているんだよ! そしてわたしはそんなお師匠様の心意気に感動して、正義の魔法士を目指しているのです! 明日へ~向かって~♪ みんなで走ろ~ういぇーい!!」

 歌もサビに突入。

 より一層ノリに乗ってきたマリオンは大きくジャンプして叫ぶ。


《な・ん・だ・と!?》

 つまりマリオンは、一度も会ったことも無い魔法少女トゥインクルを師と仰いでいるってのか?

 というか、というか……


「あの……リュウ君。もしかしてマリーはトゥインクルさんが実在する魔法士だと思い込んでいるのでしょうか? 魔法少女トゥインクルというのは、王都の女性作家が創作したキャラクターを出版社が子供向けにアレンジしてビジネス展開したものだとルーシィが言っていました。本人や悪の組織が実在するわけではないはずです》

 ユーティアがマリオンに聞こえないように小さな声で囁く。


《ああ、だがマリオンは大マジで信じているようだな》 

 しかしどう説明したものか。

 おまえ勘違いしているぞ、とでも言ってやるか?

 しかしそれもサンタクロースを信じている子供にサンタクロースなんていないと現実を突きつけるようなもので、いささか残酷ではある。


 ドンッ──と、突然舞台の端で黒煙が上がる。

 煙の中から数人の黒タイツ姿の戦闘員と、続いてオレンジ色の着ぐるみが姿を現す。

 固い甲羅に大きなハサミ状の両腕。

 カニ……だろうか?


「あれは! ワルインダーの幹部のカニーカだよ! なんでこんなところに!」

 マリオンがなんかいつになくシリアス顔で叫ぶ。

 なんでったって、そりゃそういう演出だからだよ。


「カニカニカニ。子供達はいただくカニ~」

「現れたわねワルインダー! でも子供達は私が守るわ! 流るる星の如くに現れて、弱気を助け強きを挫く! この愛と正義の魔法少女トゥインクルがね!」


 さすがプロ。

 堂に入った決め台詞だ。

 ……いや、どこかで聞いたような?


「ティアとリューちゃんは子供達を守って! わたしはお師匠様に加勢するから!」

「ちょ! ちょっと待ってくださいマリーストーップ!!」

 ユーティアは慌てて舞台に上がろうとするマリオンの腕を掴んで止める。


「ええっ! なになにティア??」

「え……と、とりあえず成り行きを見守りませんか? その……トゥインクルさんならその、ヨユーかもしれませんし」

「おお! なるほど! むしろわたしなんて出て行っても足手まといにしかならないかもってことだね! うん確かに! ここはお師匠様を信じてみるよ!」

 なんとかマリオンを引き留められてユーティアは安堵する。


「タイツ軍団共やってしまうカニ~!」

「負けない! トゥインクルスターフラッシュ!!」

 トゥインクルのステッキの先から光が放たれると、黒タイツ達が吹き飛ばされる。


「すごいっ! 呪文の詠唱も無しに広範囲魔法を!? さすがお師匠様ですっ!」

 マリオンはめっさ感心しとる。


 もちろんトゥインクルは魔法など使ってはいない。

 ステッキから出た光線は魔石によるものだし、黒タイツはそのタイミングに合わせて演技で吹っ飛んだだけ。

 よく観察すればわかるはずだが、完全にのめり込んでいるマリオンには気付く気配すらない。


「そこまでカニ、この子を助けたければおとなしくするカニ~」

 いつの間にか一人の少女を脇に抱えたカニが、トゥインクルに向けてハサミをジャキジャキと突き付ける。


 人質を取られたトゥインクルは手が出せずに絶体絶命。

 もちろん少女は仕込みだろうが、子供向けにしてはなかなか凝った展開だな。

 ここからどう逆転するんだ?


「ニャンコアタック!」

 突然カニの顔面に黒い物体が衝突。

 カニが怯んだ隙に、何者かが人質の少女を(かす)め取る。


「子供を人質に取るなんて卑怯だぞっ! お師匠様の一番弟子、このマリオンが助太刀いたすっ!」

 そう啖呵(たんか)を切る乱入者は、言うまでも無いがマリオンだ。


 先程カニを攻撃したのはポチだったようで、ピョンピョンと地を跳ねるとマリオンの肩の上に戻っていった。


《なにを……なにをやっているんだあの馬鹿は!》

 舞台の台本が台無しだ!

 どう収拾を付けるつもりだこれ!

 

「お師匠様! 子供は無事です、今のうちに!」

「え? ええ? えっと……ハイ! か……カニーカおとなしくワルイン星に帰りなさい! トゥインクル・スターフラッシュ!!!」

「カニッ……カニカニカニィイイイイイイッ!!!」


 闖入者(ちんにゅうしゃ)に混乱しながらも、トゥインクルは芝居続行。

 振り上げたステッキから光線を発射!

 カニはスモークに巻かれながら退散する。


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