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第33話 三つ葉亭の三姉妹 2

「うぉおおおお!! メシだぁああああ!!!」

 案内されたテーブルの上には、想像以上の豪華料理が並んでいた。

 俺は思わず両腕を掲げると、歓喜の雄叫びを上げる。


 マールは一通り料理の説明をすると、他の客の給仕へと戻っていった。


「凄い! 肉だ! 肉があるぞ! こんなに厚い肉塊がぁ!!」

《ちょ、リュー君大声出さないでください。他のお客さんに迷惑ですよ!》

 ユーティアに(たしな)められようが、俺の内から湧き上がる興奮は止められない!


 なにせ旅の間、肉などほとんど食べられなかった。

 長期保存用の燻製肉をわずかに口にした程度だ。

 こんなミディアムで肉汁したたる上等肉など、この世界では初めてお目にかかる。

 

 俺はフォークを逆手に持つと、ターゲット目掛けて思いっきり振りかぶる。

「さぁ! 食うぞー!! いっただっきまー」


「お姉ちゃんたち! お話しよーよぉ!」


 ────だがありえない!

 本当にありえないタイミングで突然横槍が入る。


 まるで俺の食事を妨害するかのように、いつの間にか現れたミリィが馴れ馴れしく抱き付いてきやがったのだ。


「──ぁああ!? こんのクソガキャ! ガキだからって何やっても許されると思うなよぉ! フォークでその口縫い付けてやろうか!!」

 俺はこの不届き者を、牙を剥きだしにして睨みつける。


「ヒッ……ゆ……ユーティアお姉ちゃん?」

《コラー! 子供相手に何てこと言うんですかリュウ君! ミリィちゃん怯えてるじゃないですか!!》


「ぐぬ……そうは言ってもだな、肉が早く食えと俺を呼んでいるんだぞ!」

 そもそも冷めたら味が落ちるではないか!


「ハイハーイ! ゴメーンねミリィちゃん! ユーティアお姉ちゃん今ちょーっと機嫌悪いんだ。すぐ元に戻るから、後でお話しようねぇ~」

 気を利かせたマリオンが、涙目のミリィをあやして退散させる。

 こいつも子供の扱いうまいな。

 それとも単に精神年齢が近いだけか?


「では改めて、いっただっきまーす!!」

 俺は再びフォークを宙に舞わすと、程良く焼き目の付いた肉に突き刺す。


 極厚の肉なのに、フォークが貫通しかけるほどに柔らかい。

 これは本物だ!

 続けざまにナイフを通し、カットされた肉を大口開けて放り込む。

 この柔肉の食感と肉汁の香りは……まさに絶品!!


「ああ……生きててよかった!」

 まだ生まれてすらいない俺が言うのも妙な話だが、しかしそう感嘆せざるを得ない程の美味。


「リューちゃん行儀悪ーい!」

《まったくです、はしたないですよリュウ君! メッです!》

 ジト目のマリオンと、ユーティアまでもがケチをつけてきた。


「あのな、メシぐらい自由に食わせろよ。そんなことまで俺に指図するつもりか?」

《指図じゃありません。躾ですよ! し・つ・け・で~す!》

 ああ五月蠅い!

 ユーティアはこういうところは小姑みたいに目敏いのだ。


 それでも仕方がないので少しだけ行儀良くすることにした。

 早く他の料理にもありつきたいからな。

 

 10本足タコのマリネに巨大土筆のバターソテー。

 飛び蟹のフライにレッドコーンのスープ。

 どれも素材を生かし趣向を凝らした上等の料理。

 リムファルトは物流拠点のため海の幸から山の幸まで食材も豊富に揃うのだとか、マールが言ってたな。


「はむはむ、おいしゅーございます! さっすが都会は料理もゴイスですにゃぁ~」

 マリオンもご満悦のようで、口調がちょっと変になっている。


 ちなみにポチはマリオンの膝の上に座り、たまにマリオンが与える食事をパクパクと食べている。

 マリオンの魔力によって姿を維持している魔法生命体なのだから、食事は不要なはずだが……

 食べた料理はどこに消えているのか謎だ。


《でも……やっぱり悪いですよ。無料で泊めていただいて、さらにこんなお料理まで》

 ユーティアが(うたげ)を白けさせるようなことを言い始めた。

 まったく空気の読めない奴である。


「でもあれだ、あいつ……エクシードだっけ? あれに盾突くと下手すりゃ死刑なんだろ? ってことは俺達はミリィの命の恩人ってわけだ。ならこの厚遇もまんざら過剰でもないと思うがねぇ。いちいち考えすぎなんだよお前は」

《そう……でしょうか……》


「それにしてもあの司教、それほど凄そうには見えなかったがな。魔力が高い人間がエクシードになれるんだろう? ならそこそこの実力者のはずだが、しかし現に俺のアイアンクローに成す術もなかったぞ」

 もっとも実力があったとしても、あの状態では呪文を唱えることすら無理だっただろうが。


「えーとね、あの人の勲章は銀勲章だったよね? エクシードは階級によって勲章の素材が違ってて、銀勲章はエクシードの中でも一番下の、第四等位のエクシードの証明なんだよ。第四等位となると、かならずしも強いとは限らないんじゃないかなぁ?」

 マリオンは細いパスタのような麺類をフォークで絡め取りながら解説すると、パクリと口に放り込んだ。


 なに?

 エクシードには階級がある……だと?

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