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第25話 上流階級 1

「すごい凄ーいっ! リュウ君リュウ君見てくださいよっ! キラッキラです!!」

 ユーティアは人目もはばからず、大通りのど真ん中でまるで子供のようにクルクルと回り飛び跳ねながらはしゃぐ……ってまぁまだ子供ではあるのだが。


《ああ見てるよ、というかお前が見ているものは俺にも見えているわけだから当然の話だがな。しかし……ようやくまともに栄えた町まで来たってもんだ》

 とはいえ俺は俺で、重い荷がようやく肩から下りた気分で感慨に耽る。


 ここは王国西部の中枢都市リムファルト。

 元々は寂れた小規模都市に過ぎなかったこの地域。

 だが周囲を山やら森やら湖やらといった多彩な自然環境によって囲まれたこの立地が、多角的な魔法の研究開発に適しているという理由で近年再開発が施されたそうな。


 多種多様な設備が作られれば、当然それに伴って物流量も激増する。

 そうして魔道研究都市としてメキメキと破竹の勢いで急成長を遂げたこの都市は、日々(おびただ)しい量の物資や人材が行き交う一大重要拠点へと変貌を遂げたのだとか……ってのは、俺も先程旅の行商人から聞いて知ったばかりの話ではある。


 教会を追い出され、俺が世界征服を決意してから三日が経とうとしている。


 俺とユーティアはあの後話し合った結果、このアスガルド王国の王都であるレインフォルスへと向かうという結論で一致した。


 あんな田舎でくすぶっていても、世界征服など夢のまた夢。

 だからこの国で一番権力の集中している場所──王都へ殴りこんで一番偉い奴をブチのめすってのが俺の目論見である。


 ユーティアはそんな俺の計画はともかくも、王都に行くこと自体には予想に反して賛成した。

 詳しくは聞き出せなかったが、どうも彼女なりの思惑があるらしい。

 というわけで俺の王都侵攻計画は満場一致と相成った。


 しかしそれからの旅路は過酷だった。

 教会を追い出された後は村で宿を取り、翌日には馬車で隣村まで移動。

 ここまでは順調だった。


 しかしその村で俺が同調の魔法を解除して昼寝していたほんのわずかな時間。

 あろうことかユーティアがそこで出会った窮乏(きゅうぼう)故に薬代が払えないでいた村人のために、手持ち資金の大半を施しやがったのだ!


 おかげでほぼ無一文となった俺達は、移動手段確保のために荷馬車に忍び込んでみたものの盗賊団のアジトに運ばれるわ、大きな鳥の巣を見つけて卵を拝借しようとしたら超巨大な親鳥に襲われるわと、次々とアクシデントに見舞われる羽目に。

 まぁその都度俺の魔法でなんとか切り抜けることができたのだが。


 しかしそんな俺の魔法でも金は生み出せない。

 文無しの俺達は食事も満足に取れず、寝床は馬小屋という極貧生活を強いられることとなった。


 だがそんな苦難を乗り越えて、ようやく王都までの中継地であるこの町へと到達する。

 それがこのリムファルトだ。


 この町は新興都市ってだけあって、かなりモダンな造りになっている。

 規則正しく敷き詰められた石畳の路面。

 通りの両脇に並び立つ真新しい建造物群。

 縦横無尽に行き交う大量の人!人!人!

 この大通りの商店街だけ見ても、その栄え方は地方の村々とは比べるべくもない。


 基礎的な街並みは中世ヨーロッパのそれだが、一部建物の色使いや店先の看板などは原色に近いビビッドな色合いのものも散見される。

 この町は多種多様な民族種族の共存共栄がモットーとのことなので、それを反映しているのかもしれない。


 異なる文化が一緒くたになりつつも、不思議と調和が取れているようにも見える。

 なんともエキゾチックな雰囲気を醸し出す街並みだ。


「まるで御伽話(おとぎばなし)のドンガラ王国みたいです!」 

 しかしそんな俺以上に驚きはしゃいでいるのがユーティアだ。

 そのドンガラ王国というのはよくわからんが、街の栄えっぷりに感極まっている様子。

 先程から物珍しそうにあちこちの店を見て回っている。


《なぜそんなに珍しがる? おまえまさか村を出たことないのか?》

「いえいえ、さすがに出たことはありますよ。しかしこんなに賑やかで立派な町に来たのは初めてです。このリムファルトの隆盛ぶりは噂には聞いていましたけど、まさかこれほどとは……あっ! 次はあっちの店を覗いてみていいですかリュウ君!」

 すっかり観光客と化したユーティアはスキップするように一際豪華な店舗へと向かう。


「うわぁー凄いです! こんなにいっぱい!!」

 ユーティアはショーケースの中を食い入るように覗き込む。


 ここは……女性向けアクセサリーの販売店のようだ。

 小型のシャンデリアで照らされた店内には、光を乱反射させ煌めく宝石やら貴金属品やらがずらりと並べられていた。

 客はユーティア含め全員女性だ。

 小太りで口髭を蓄えた店長らしき人物が、セレブっぽい女性客二人を接客している。

 子供のシスター一人というのはいささか場違いな雰囲気の店ではある。


「わぁ素敵! 綺麗! 可愛いです!!」

 ユーティアは目移りするようにあちらこちらのアクセサリーを眺めては讃嘆する。


 私服すらまともに持っていないユーティア。

 こういったオシャレ関係には無関心なのかと思っていたのだが、一応は年相応に女の子しているらしい。


 ちなみにお値段は……シンプルなネックレスでも3万リグだと!?


《おいユーティア。資金が豊富なら買うのもやぶさかではない。しかしだ……》

「ええ、わかってます! わかってますよぉ!!」

 ユーティアは胸元で拳を握りしめ、無念そうに俯き店を後にする。


 そう、すでに俺達の軍資金は底を突きかけている。

 残り三千リグと少々。

 これでは今日の食費と今晩の宿を確保できるかも怪しい。

 余計な物への出費などビタ一文許されない状況なのだ。


《あー腹が……減った……》

 もちろん俺自身が減っているわけではないが、ユーティアが空腹ということは俺の栄養状態にも問題が生じるわけで、看過できる事態ではない。


 というわけで俺達はショッピングを切り上げて通りへと戻ると、歩きながら安そうな宿を探すことにした。


「なぁ聞いたか? 南の旧市街地で爆発騒ぎがあったらしいぞ? 衛生兵が向かったのを見たって話もある」

「また不法占拠してるゴロツキ共が暴れてるんじゃないのか? だからあそこは早く取り壊せって言われてるのにな」

 ふと通行人から身に覚えのある話題が聞こえてきた。


「ううっ……あのままにしておいて本当によかったんでしょうか……」

 現実に引き戻されたとばかりに、ユーティアの声がくぐもる。


 実は俺達がこの町に到着した直後、ちょっとしたトラブルに巻き込まれたのだ。

 簡潔に言ってしまえば荒くれ者共とひと悶着あったってだけの話なのだが。


 右も左もわからぬ田舎者を脅し手籠めにする不届き者共。

 だが俺の正義の鉄拳が火を噴き一網打尽。

 悪は滅び、めでたしめでたしと相成った。


 だがユーティアはちょっとだけ強引だった俺のやり方が気に入らないようだ。

 たしかに相手方にかなりの負傷者が出たのは事実だが……


《お前の治癒魔法で最低限は治療したし、なにより連中が怯えて早くどこかに行ってくれと懇願したんだからしょうがないだろう。それに衛兵が来る前に撤収する必要があったからな。でないと事情を聞かれたら厄介だぞ? 自分のことをどう説明するんだ? 悪魔と言われて村を逃げ出してきましたとでも説明するつもりか? 少しは目立たないように行動を謹んでくれよな》

「それはこちらの台詞ですリュウ君! だから街中で騒ぎを起こさないでくださいって言ったのに! 今後は魔法の使用も禁止ですからね! メッですよ!!」

 ぷんすかとご機嫌斜めとなるユーティア。


 しかし俺の目標は世界征服だぞ?

 騒ぎを起こすなだなんて命令自体がお門違いではないのか?


「ごっきげんよう! ちょーっとよろしいかしらそこのお嬢さん?」

 そんな折唐突に、ユーティアは背後から声をかけられる。


 どこのナンパ師だ……と思ったが、声をかけてきたのは男ではなく女。

 それも赤いミニドレスを着た黒髪ロングヘアの優麗でグラマラスな女性だった。


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