表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/173

第21話 選択 2

「院長! 私見たんです! 本当です! ユーティアが突然人が変わったみたいな悪魔のような人格になって、聞いたことも無い言葉を喋りだして、炎を操って砦を焼き払ったんです! ああ恐ろしい! あんな所業、悪魔としか考えられません!!」

 院長の袖を掴み(わめ)くローザの言葉に、周囲がどよめく。

 疑念と畏怖の混じった視線が次々とこちらに向けられる。

 

《な……んてこった!!》


 恩を仇で返すとは、こんの恥知らず女が!

 こんな仕打ちありえるか?

 いやありえないよな?

 クソッ! やはりあの時見殺しにするべきだったんだ!


 しかし今はそれどころではない。

 これは……かなりマズイ事態だぞ。

 悪魔だなどという突飛な話は、普通なら一笑に付して終わるはず。


 だが今この場に居る連中にとってはどうやら違うようだ。

 その表情からは、完全に真に受けているように見える。

 文明が未発達なこの世界では、こんな迷信じみた設定すら人は容易く鵜吞みにしてしまうらしい。


「あ……あの、私、私は…………」

 立ち尽くしたユーティアの言葉が続かない。


 ローザの言葉は客観的な面では間違っているわけではない。

 否定しようにも、どう取り繕えばいいのかわからないのだろう。


 ユーティアの手が震えているのが伝わってくる。

 ここで汚名を(そそ)がなければ村八分、いや最悪教会を追い出されかねない。


 絶対に対応を間違えるわけにはいかない。

 ある意味ゴブリンに襲われるよりも危機的状況である。


「ユーティア」

 院長が静かに、しかしはっきりとした口調で声を発する。

「はい、院長……」

「ユーティア、私はお前の事を信じたい。だからどうか正直に話しておくれ。ローザの言っていることは、本当の事なのかい?」


「──────!」

 ユーティアは言葉に詰まる。


 そりゃそうだ。

 正直に言えるならとっくに言っている。

 しかしそれは都合が悪い。

 こんなの死刑宣告に等し──


 …………いや、違う。

 院長の表情は問い詰める者のそれではない。

 なんとか言い逃れをしろと目で訴えているように見える。

 アマンダもゆっくりと頷き目配せをする。

 どうやら、証言に多少の粗があってもフォローしてくれるつもりのようだ。

 そうか、そういうことか……


 とはいえ、ユーティアに気の利いた嘘がつけるとも思えない。

 下手についても矛盾を突かれ自滅するのがオチ。

 ここは俺が入れ知恵をする必要があるな。


《いいかユーティア、こう言って誤魔化すんだ。ローザを助けに森に入ったところで悪い魔法使いと遭遇したってな。そいつに魔法で操られていたことにすればいい。戦闘中の人格もその時に使った魔法も、本来の自分とは無関係ってことにするんだ》


 無理がある気もするが、悪魔の仕業というよりは多少現実的ではないか?

 なにより、まぁ事実似たようなモンだしな。

 とりあえずここはこう言いくるめて凌ぐしかない。

 でないと、俺が待ちかねた晩飯と寝床がおじゃんである。


「え……はい、その、悪い……魔法使いが……現れて……」

 ユーティアはしどろもどろに説明を始める。

 オイオイ、これじゃ明らかに胡散臭いんですが?


 しかしユーティアは途中で口をつぐむ。

 そしてはたと我に返ったように、自分の口元を両手で覆う。


「私……なんてことを……」

 そう漏らしてブンブンと頭を左右に振ったかと思うと、院長を真っ直ぐに見据える。

 そして今度はハッキリとした口調で声を発した。


「はい、ローザの話は本当の事です。私が自分の意思で、魔法を使って森の砦を焼き払いました。もっともそれはゴブリンを退けるための行為でしたし、私が悪魔であるという部分も否定させていただきますが!」


 なっ──なんだとぉおおおお!?

 なんだ?

 なにを言ってるんだコイツは!?

 なぜわざわざ自分に不利になるような証言をしているんだ???


 周囲により一層のどよめきが広がる。

 当たり前だが!


 こんな幼い少女が砦を一瞬で焼き尽くした。

 それは尋常ではない話だろう。

 悪魔じゃないだなんて言い訳したところで、この場の腑抜け共が聞く耳を持つはずがないではないか!

 現に恐怖心から後ずさりする者や、逃げ出す者まで出る始末だ。


「ユーティア……どうして……」

 院長も険しい表情で呻く。


 そして俯き押し黙った後、ゆっくりと口をひらく。

「ユーティア、私はお前の事をとても大切に思っているよ。その気持ちは今でも変わらない。でもね、こうなってしまっては……お前をここには置いておけない。残念だけど……」

 

「はい、わかってます。気に病まないでください院長。でも荷造りはしたいので、その時間だけ頂けますか? すぐに終わりますので」

 そう言ってユーティアは歩き出す。


 野次馬連中は、まるで見えない力に押されるように道を開ける。

 ローザも逃げるように身を引く。

 院長とアマンダだけが、その場で動かず留まっていた。


 ユーティアはその脇を通り過ぎ、無言のまま宿舎へと向かった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ