第19話 一騎当千 3
《こ……こんなことって……》
「どうだ驚いたかユーティア? お前の息子は大層に俊才だぞ。誇らしいだろう? ククク……はっはっはっはぁああ??」
「ギギ……グガガァ……」
──んんん?
吹き飛ばされたゴブリンのうち数体が、ヨロヨロと立ち上がってくる。
「う~ん、思いのほかダメージが浅かったか?」
まぁユーティアの結界内で発動させたから、自分達が巻き込まれないように威力は押さえたからな。
「グゥガァアアアアアアアア!!!」
一匹がけたたましく咆哮する。
《リュウ君これは……何でしょうか?》
「うーん、お約束な流れて言うと、仲間を呼ぶ的なヤツじゃね?」
つまり狼の遠吠えみたいな役割だろうよ。
「グゥルルル……」
「ガァルルル……」
「ホラ出てきた! 無人と思ってた砦の建物から続々と、ざっと10、いやいや20匹ぐらい居るんじゃないか? おお! デカい奴までいるぞ! あれなんて言ったっけ?」
《な……なんで嬉しそうに言うんですかリュウ君!?》
「いやいや、お前は気乗りしないだろうがな、正直この機会にもう少し魔法の実地試験をしたいのさ」
なにせ平時でユーティアが肉体を明け渡してくれるかは疑わしいからな。
「さてとはいえこの数が相手だと、もう少し高出力の魔法が必要だよな。ど~れにしようかなぁ?」
俺はこの場で有効な魔法を吟味する。
高出力で広範囲の魔法……あ、これなんてどうだ?
俺は両手を上方に掲げ、スペルを刻む。
「ル・ガータ・ルーペリオン・アース・マター・モルドメイサス・ジリジム・メイドム 天の聖杯を傾けよ 理の境界で智者は杖を振るい 飛散せし星芒は暗闇を跨ぐ!」
上方に遮蔽物が無い場合にのみ行使可能な高位魔法。
上空数百メートルという広範囲のマナが、光の束となって俺の頭上に収縮。
直径一メートル程の光球へと姿を変えた。
『 光 輝 流 星 散 !!』
まさに流星の如く。
光球から次々と放たれた複数の閃光は、着弾と同時に炎の渦となって巻き上がった。
「グギャァアアアアアア!!!」
地鳴りが轟き、爆炎の津波が次々とゴブリン共を焼き払う。
こりゃ想像以上の威力だな。
ただ難点は──
《リュウ君やりすぎですよ! やーりーすーぎーっ! 今すぐ止めてくださーいっ!!》
「うむ、すまんなユーティア。この魔法は一度発動すると、チャージした火力を使い切るまでは止まらない。ちなみに敵意がありそうな動きをする物体が自動で標的になるので、コントロールすらできんのだ」
《えっええええっ!???》
ちなみに初撃で恐れをなしたゴブリン共は、すでに蜘蛛の子散らすように逃げ惑っている。
それを追いかけるように光球は、四方八方に閃光を吐き出す。
なぎ倒される木々に、粉々に吹き飛ばされる砦の建物。
「いやぁああああああ!!!!」
突然耳元で悲鳴が上がった。
ローザだ。
目の前の惨状を前に、すっかり取り乱しているようだ。
大人しくしてると思ったんだが──あまりの急展開に今まで声も出せなかっただけらしい。
しかしここにきて半狂乱となっている。
「ひっ! ひいぃいいいいっ!!」
長い髪を振り乱し、ローザは俺達を置いて川岸を下流の方へと走り逃げていった。
《ローザ! 一人じゃ危険です。追ってくださいリュウ君!!》
「そいつはできない相談だ。この魔法の行使中は無暗に動けないからな。ちなみに俺は動くなと事前に忠告したぞ。あの女が俺の魔法で焼け死んでも責任は取らないからな?」
後でユーティアに責められないよう、今のうちに弁明しておく。
といっても、そろそろ打ち止めのようだ。
光球は拳大まで縮んできており、火力も落ちてきた。
そしてついには消滅し、魔法は完全に解除された。
「ふむ、この魔法は威力は申し分ないが、制御にやや難ありだな。街中で使っていたら大惨事になっていたところだぜ」
《ここで使っても大惨事になってるんですけどお!!》
ユーティアの突っ込みも、まぁ……ごもっともだ。
打ち尽くされた熱線によって、砦中がもはや火の海と化していた。
燃え上がる炎に、焼け朽ちて崩落する巨木。
もちろんゴブリン共の姿はとっくに見えなくなっている。
ある程度の数は取り逃がしているだろうが、殲滅が目的ではないからかまわないか。
メキメキ──と、一際大きな壊裂音が響く。
《リュウ君、上ですっ! うえぇええっ!!》
まさに直上から、焼け落ちた巨木が俺めがけて落下してきていた。
避ける暇すら無く、呪文の詠唱は間に合わない、が──
「どりゃぁああああ!」
ドガシッ──と、アッパー一撃!
俺の拳を食らった巨木は、粉々に粉砕される。
「クックックッ……見たか! 俺は無詠唱魔法を使って、こうして肉体を強化することもできるのだ! 今の俺なら相手が巨熊だろうが屠れるぜ!!」
《わかった、わかったから早くここから逃げてくださいリュウ君! ここに居たら危ないですよぉ!!》
んなこたぁわかってるさ。
だがしかし──
「退路が……無いんだよなぁ……ほら、周りは炎で囲まれちゃってるだろ? どうやって脱出しようか?
《えええっ? そんなこと言われても! 空を飛ぶ魔法とか無いんですかリュウ君?》
「簡単に言ってくれるな。だが自由自在に飛び回るというのは無理だな。多少高く飛び上がる程度なら可能だが、上方にまで火の手が回っているこの状況ではそれも危険だし」
他の魔法で打開するにしても、煙が充満して呼吸もままならなくなっているこの状況で呪文を詠唱するのも避けたい。
失敗するのが目に見えている。
かくなる上は最終手段を取るしかないか。
「仕方ない。川を潜って退避するとしよう。俺は泳げないからお前と代わるぞ、んじゃ、あとはよろしく!」
《えっ、ちょっと待ってくださいリュウ君! 私は──》
俺は勢いよく川に飛び込むと同時に、支配の魔法を解除した。




