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第17話 一騎当千 1

 コイツはバカだ!

 真正のバカだ!


 俺の命令を無視したことも論外だが、こともあろうか正面から突っ込んでいきやがった。

 すでにローザがかなり追い詰められて切羽詰まった状態とはいえ、あまりにも無謀すぎる。


《お前! あとで死刑な!》

「わっわかりましたよぉ! 無事帰れたらですけどね!」

 ユーティアは言いながらも中央の広場に向かって坂道を転がるように下る。


 元々足場が悪いから音を潜めて接近するというのは難しかっただろうが、それにしても地面に落ちて腐敗しかけた小枝をベキベキと豪快にヘシ折りながらの突撃。

 こいつに知略を求めるのも酷だとは思うものの、あまりにも無鉄砲すぎ!


 もっとも坂を転げ落ちることで、一気にローザとの距離も縮まったが。

 ゴブリンを隔てることその距離約10メートル。


「──ギギィ?」

 だが、すぐにゴブリン共に感付かれた。

 当たり前だが!


《どうするんだ? 策はあるんだろうな?》

「もちろんですっ! たぁああああ!!」

 ユーティアは丸鍋をまるでフリスビーのように投げつける。


 キュルキュルと回転するそれは、見事に最前の一匹に命中!

 ──ってオイ、鍋はそういう使い道かよ!?


 ユーティアは続いてローザの手前のゴブリンに狙いを定め、斧を大きく振りかぶる、が──


「ととっ……きゃうっ!!」

 斧の重量に振り回されて背を反り返らせて態勢を崩す。


「はわわわっ! てやぁあああっ!!」

 今度は崩れた態勢のまま勢い任せで斧を振り下ろしたもんだから、狙いが定まらず見事に空振り!


 ユーティアの軽い体は運動エネルギーを持て余した斧に引きずられ、地面をゴロゴロと転がると砂利に叩きつけられ止まった。


「ユ、ユーティア!? え? あなたどうし──」

 突然、文字通りに転がり込んできた友人に驚きの声を上げるローザだが、その言葉を言い終わる間もなく飛び起きたユーティアがローザの首に抱き付く。


「ローザ! 怪我無かった? 遅くなってゴメン、ゴメンね! もう大丈夫だよぉ!」

 涙声で叫ぶユーティアに触発されたのか、ローザも堰を切ったように嗚咽を漏らし泣き崩れる。

 

《お取込みの所悪いんだけどさ。ちっとも大丈夫な状況じゃないんだけど?》

 悪いが水を差させていただく。

 呑気にお涙頂戴やっている場合ではない。


 当然ながら、すでにゴブリン共による包囲網は完成。

 もちろん最初の丸鍋を食らったゴブリンも早々に起き上がって戦線復帰している。

 

「グェケケケェ!!」

 笑っとる──

 愉悦に醜く歪むその表情。

 ゴブリン共は、飛び入り参加してきたユーティアを警戒しているというよりは、歓迎している風ですらある。


 向こうにしてみれば、獲物が勝手に増えたも同然。

 まさに(かも)(ねぎ)を背負って来たといったところか。

 キャッキャと小躍りしながら槍先を突き付けてくる。


 ユーティアに再会して一瞬安堵の表情を見せたローザも、再び表情を険しく強張らせる。


 そりゃそうだ。

 重装備の騎士団が助けに来たならともかくも、運動音痴のユーティアが加勢した程度では何の解決にもなってない。

 いまだ絶体絶命の真っ只中だ。


悪辣あくらつたる邪念から 酷虐(こくぎゃく)たる魔手から 我らを守り遠ざけたまえ 主の慈愛はここに示現(じげん)する」

 ユーティアは突如立ち上がると、両手を前に突き出す。


  『 ホーリープロテクション!』


 ユーティアを中心に光のドームが展開され、ゴブリン達が弾き出される。

 白く輝く光の壁は、入ってこようと躍起になっているゴブリン達を鉄壁の防御で阻む。


《おお! これがユーティアの魔法か!!》

 ヘッポコシスターかと思いきや、意外とやるじゃん!


「ユーティア、あなた……」

 ローザですらユーティアのこの活躍は意外だったようで、驚きの表情。

 

「帰ろうローザ、二人で。ううん三人で!」

「え? ……三人?」

 言葉の意味もわからずキョトンとした表情のローザの手を取り、ユーティアは優しく抱き起こす。


 ローザの手は恐怖のためかまだ震えていた。

 ユーティアはその手を両手で優しく包む。

 するとまるでユーティアの手の温かさが伝わるように、ローザの震えは治まっていった。


《なんだ? それも魔法か?》

「魔法? ふふっ……そうかもしれませんね。人なら誰しもが使える魔法。他人を思いやる気持ちがあれば、恐怖なんて吹っ飛んじゃうってことですよ!」

 なんかうまいこと言ったみたいに言われてもな。

 そういう精神論に興味はないのだがね。


「キェッキェエエエッ!!」

 奇声と共に、金属を引き裂くような鈍い音が響く。

 一匹のゴブリンの持つ槍が、光の壁を数センチほど貫いていた。


《おい、この壁大丈夫なんだろうな?》

「えと……あくまでも一時的な守護用魔法なので、攻撃を受け続けると……まずいです……」


《なんだとぉ?》

 それでは所詮一時しのぎではないか。


 壁の向こうではゴブリン共が張り付いてガリガリと武器やら爪やらを突き立てている。

 飢えた獣が餌まっしぐらって感じだ。

 このまま攻撃を受け続けて壁を破られれば、畳み掛けられて一巻の終わりだぞ。


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