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第164話 絶対格差 1

《どうしてこうなるんですかぁ~!??》

 ユーティアはお(かんむり)だ。

 ようやく安定した生活に手が届くと思った矢先、全てを俺がブチ壊したのだから無理も無いが。


「そうは言ってもな、ギルの提案はその場しのぎにすぎない。王国が俺を敵視している以上、迎合したところで寝首を掻かれるのがオチだろうよ。それにそうならなかったとしても、将来お前が俺を生んだ後はどうなる? お前は俺の力を失うし、その力が俺由来のものだと判明した場合、王国は俺やお前をもはや人としては扱わなくなる。待つのは実験動物としての末路ってトコか。つまり今従ったところで問題の先送りにしかならないのさ! だから言っただろう? 目指すべきは頂点! 何人たりとも逆らうことができない絶対的権力者でなければならないと! そのためには、こんなところで折れるわけにはいかないんだよ!!」


 もちろん、そのためにはここでギルを倒す必要がある。

 ギルはすでに戦闘態勢に入っている。

 全長二メートル超えのハンマーを、大きく振りかざす。


 奴の得物──あの長さで直径30センチ以上あるシリンダー状のヘッドの重量は超大。

 威力はあれど、素早く振り回すことは不可能なはずだ。

 加速させるまで時間がかかるし、攻撃後の隙もできやすい。

 そこにカウンターを入れるのが定石だろう。


 だが相手は第二等位エクシード。

 そう思惑通りに事が運ぶか?


「いくぞ! 簡単に死んでくれるなよお嬢!!」

 ギルがハンマーを振りかぶりきったところでその現象は起こった。

 

 突如、ハンマーの先端を雷光が包む。

 次の瞬間光が弾けると同時に、ハンマーの先端が高速で打ち出される。

 その勢いのまま、砲撃さながらに俺の体めがけて襲い掛かってきた。


「なんだっ! そりゃ!?」

 間一髪!

 俺は体を捻り攻撃を(かわ)す。


 俺の腹部の横数センチを(かす)めたハンマーは、そのまま床に打ち込まれる。

 超硬度なはずのザナドゥの床は、砲弾を受けた氷のように割れ砕けた。


「ヤバッ! なんて威力だ! あんなのまともに食らったらひとたまりもないぞ!!」


「オレの攻撃を避けるとは、さすがじゃないかお嬢! だがこれで終わりじゃあないぜ!!」


 床にめり込んでいるハンマーを再び雷光が包み、今度は上方に向かって打ち出される。

 ギルはその運動エネルギーを制御し軌道を修正すると、上方でクルリと反転させて再び俺めがけて打ち込んでくる。


 これも辛うじて後ろに跳び避ける。

 だが砕けた床の破片が右膝上に当たり血が滲む。


「くっ……」

 大丈夫、かすり傷だ。

 こいつ相手に機動性を失うのは致命傷になる。

 絶対に足は負傷しないようにしなくては!


「しかしなん……だ? ハンマーが加速した? これがお前の戦闘スタイルなのかギル?」

「まぁそんなトコだな。さてと、肩慣らしは終わったし、ドンドンと行くぜ!!」


 ギルは次から次へと攻撃を繰り出す。

 雷光から打ち出されたハンマーが繰り出されるたびに床は割れ、柱は砕ける。

 一撃一撃が必殺の破壊力。

 通常ならとても回避できる攻撃ではないだろう。

 俺は身体強化魔法をフル回転させることで、なんとか避けられている。

 だがいつ食らってもおかしくない状況だ。


「凄いぞお嬢! オレの攻撃をここまで()なす奴は初めてだ! それもお嬢の魔法──身体を強化する魔法の力なのか? 見事な身のこなしだ!!」

 ギルはまるで喜んでいるかのような雄叫びを上げる。


「コイツ……戦闘を楽しんでやがる!」

 そういや破壊王だのバーサーカーだの言われてるんだっけか?

 温厚な性格とは裏腹に、本質的には戦闘狂ってことかい!


 しかも俺は逃げ回っているだけだぞ?

 それを褒められても嬉しくもなんともないんだがな!


 というか、武器の重量に対して攻撃速度が速すぎるのだ。

 速度だけならライアスの方が速いだろうが、こちらは威力が桁違いだ!

 しかも剣を鞘に納めてから打つライアスの高速剣とは違い、ギルのハンマーはどの位置にあろうが雷光を帯びた直後に高速で打ち出すことができるからなおさら厄介。


「雷光……瞬間的な超大電流による電磁加速──レールガンと同じ原理……なのか?」


「なんだいそのれーるがんってのは?」

 ピタリとギルが動きを止める。

 どうやら俺の発したワードに興味津々のようだ。


「専門的な説明は俺にもできんがね、大電力を使って金属を打ち出す兵器が……まぁ理論的にはあるってな話で、それと似てると感じたんだよ」

「そうか……ま、情けない話だがオレもこの能力の本質はよく知らんのよ。ただ魔術の知識がほとんど無いオレがこうして雷を操れるという時点で、これはギフトの能力らしい。こうして武器を加速させる使い方──オレは“雷砲(らいほう)”と呼んでるんだが、これも戦いの中で偶然に編み出したぐらいだからな。おまけに何の魔物のユニオンかも不明ときた。もし覚えがあるなら教えてもらいたいねお嬢?」

 ギルはハンマーをせり上がった床に打ち付け、平面に戻しつつ語る。


 そんなもん俺が知るわけないだろうが!

 雷を使う魔物なんてたくさんいるからな。


 ──いや、だが待てよ。

 カーラはヴァンパイアの性質を色濃く受けていた。

 ユニオンは能力だけではなく特性や戦闘スタイルにも影響を与えることがあるのかもしれない。

 そして俺はギルと戦いながら、脳裏に既視感のようなものを感じていた。


 燃えるような黄赤の髪に人並外れた巨躯。

 そして雷を操り巨大なハンマーを振るう。

 その姿はまるで──


「雷神トールそのものじゃないか!」

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