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第162話 悪名轟く 1

「は? なんだと?」


 死んでくれ、と言いやがったよなこのオッサンは?

 そんなもん突然だろうがなかろうが、最大級に不躾(ぶしつけ)な話だろうが!


「にゃわっ! ポチっ!!」

 ホールの入り口からマリオンの悲鳴が上がる。

 振り返り見ると、マリオンとポチが青緑の光の鎖で縛り上げられていた。

 その鎖はイリスの手元から伸びている。


「お静かに、抵抗しなければ危害は加えません。アルティウス様とシェルバーン様のお話の邪魔をさせないのが目的ですので」

 イリスは相変わらずの冷静な表情のまま淡々と説明する。


「でもぉ……ティア! リューちゃん!」

「大人しくしていろマリオン。ポチにも抵抗させるな。そのかわり用件が終わったら無傷で解放しろよイリス?」

 俺の言葉にコクリとイリスは頷く。


 イリスは最初からこの謁見の内容を知っていたのだろう。

 だからマリオンの同行を渋った。

 だがマリオン一人なら無力化できると判断して許可したのだろう。

 ああしてポチまで拘束しているということは、ポチが魔法生命体であるということも見抜いているのか。

 あの女……ただの使い走りじゃないぞ!


「すまんな手荒な真似をして。だがオレは忠告したはずだぞお嬢? エクシードには手を出すなってな。なのにお前ときたら、派手にやらかしてたそうじゃないか。もっとも、オレが言った時点ではすでに手遅れだったわけだが」

 ギルは座ったまま胸の前で腕を組み、厳しい目つきで俺を見る。


「ゾンビ山の時点で手遅れ? それ以前でのエクシード絡みとなると……イルヴィネス教団の件、か?」

 ライアスとの戦いの情報が洩れるとは考え難い。

 ならばイルヴィネス教団とのいざこざしか思い浮かばん。


「よく自覚してるじゃないか。お嬢の罪状は第四等位エクシードであるヴェロウヤブ・ルペリオス教主へ手を上げたことだ。そしてエクシードに逆らえば最悪死罪もあり得るとは、以前に説明したとおり。連続失踪事件がようやく解決に向かうと安堵した矢先に、今度はその立役者であるお嬢を始末せよと伝令が来たってわけだ」


 ギルからヴェロウヤブ教主の名前が飛び出したことに俺は唖然とした。

 確かにあの場には複数の信者など目撃者もいたが、すでにヴェロウヤブ教主と戦ったのが俺だと特定されているとは予想だにしなかった。


「しかし……そりゃまた勝手な話だな! 不正に能力を使っていたエクシードの暴走を止めた俺が死刑とは! 罪に問われるべきは奴を野放しにしていた王国側じゃないのか?」


「それは確かに耳の痛い話だがな、しかし実はルペリオス教主に関してはすでに諜報部が捜査を進めていたようなんだ。諜報部ってのは軍とは独立していてオレですら実態は把握できていない。しかしお嬢がルペリオス教主を撃破したってことは、張り込んでいた諜報部がどうやら把握していたらしい。だがその時点では情報としてあやふやで事件自体も軽く扱われていたため、お嬢に対してそれ以上の捜査はされなかった。だが現場検証が進むにつれ、事件に対する評価が一変する」

 コツコツと、まるで苛立ちを鎮めるようにギルは椅子の肘掛を人差し指で叩きながら続ける。


「粉々に破壊されたゴーレム。鑑定の結果、ディスインテグレイトによる破壊と結論づけられた。ほとんど使える魔法士すらいないディスインテグレイトをあんな大規模に行使できる術士がいる……その事実に諜報部が危機感を抱いたようだな。だがその時点ではお嬢の足取りは見失われていたし、そこで終わる話のはずだった。だが運の悪いことに、先日お嬢が区庁舎に来た時にその場に居たようなんだ、ルペリオス教主を張っていた諜報員の一人が」


「なるほど、それで俺の面が割れたということか?」

 つまりいつの間にかお尋ね者になっていた俺は、偶然にも諜報員の一人に見つかってしまったということらしい。


 イルヴィナス教団の大聖堂周辺でも区庁舎でも、誰かから顔をジロジロと見られたなんて記憶は無い。

 いずれもせいぜいすれ違う程度の接触だったはずだが、それでも俺は顔を覚えられ、特定されたということなのだろう。

 どうやらこの王国、兵士はヘッポコなのに諜報部は随分と優秀らしい。


「そうだ、さらに付け加えると、ガルシア討伐に赴いた兵の中にも別の諜報員が紛れていたらしい。だがこれは予想できたことではある。それだけ特殊な事件だったからな。俺はガルシアを倒したのがお嬢だということは口外していないが、まぁ状況から薄々感付いてる奴もいるようだ。そしてその情報も諜報部へと伝わり、外見的特徴が似ていることからルペリオス教主を倒した人物と同一人物であると判断された」

 そしてギルは俺を指差す。

 お前だよ、と言わんばかりに。


 点と点が繋がり、知らぬ間に俺の武勇伝がちゃっかりと王国側へと伝わっていたらしい。

 しかしどうやらそれは、あまり良い結果とはならなそうだが。 


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