第158話 破邪の光炎 2
「クソジャリが! 小賢しく魔法を使ううえに余計な知識まで持っているようだね! まず潰すべきはオマエか!?」
蝙蝠が集まり再び人型を取り戻したカーラが号令をかける。
すると死体に群がっていた魔族共がムクリと起き上がり、一斉に俺に向かって飛びかかってきた。
その数四匹。
俺は後ろに跳んで回避する。
が、長い手足を駆使したその動きは想像以上に素早く、その内の一匹の腕が俺の首根っこを掴まんと伸びる。
がその瞬間、その腕が一筋の閃光によって切断される。
「エクシードである私を差し置いての戦闘とは余裕だなミスランダリア。だがミスシェルバーンといえどもか弱き女性。暴虐されるのを私が捨て置くとでも思ったか?」
そう決め台詞を吐くライアスの手には、細く短い剣が握られていた。
「だーれがか弱いだって? 言っておくが、今のは助けられなくても避けられたからな! それにしてもお前、ちゃっかり剣を持ってきてたのかよ!」
「私は剣士だぞミスシェルバーン? 丸腰で敵地に赴くはずもあるまい」
そう言いながら、ライアスは左太ももからさらにもう一本の剣を抜く。
なるほど、仕込み刀を用意していたってわけか。
だが折り畳み式のその剣は、刃渡り30センチ程しかない。
あんなオモチャで戦えるのか?
ライアスは刀の一本を前方に、もう一本を斜め上方に構える。
『 二刀流剣技──スパイラルロンド!!』
ライアスの体が高速で乱回転しながら、魔族達の合間を縫うように馳せる。
同時に回転と共に繰り出された剣撃によって、魔族の腹を掻っ捌き足を跳ね飛ばす。
高速剣並みの速度は無いものの、うねるように不規則な軌道で放たれる二本の剣を躱すのは至難の業だろう。
どうやら俺の心配は杞憂だったか。
あんな武器でも十分に戦えるようだ。
「ガ……ガアアッ!!」
ライアスの一撃で二匹の魔族が床へと転がる。
が、次の瞬間驚くべきことが起こる。
切り裂いたはずの魔族の腹と足が、ボコボコと膨れ上がり再生を始めたのだ。
「あー言い忘れてたけどソイツらにはアタシの血を分けてあるから、アタシほどじゃないけどしぶといわよ? 倒すにはがんばって切り刻まなきゃね、キャッハハ!!」
「ジグル・バース・モール 煙炎の魔人よ 愚者を飲み込み焼き尽くせ!」
俺は講釈垂れるカーラを一顧だにせず魔法を発動する。
『 火 炎 旋 風 嵐 !!』
巨大な炎の竜巻が復活しかけていた魔族を飲み込む。
竜巻が消えた後、残っていた黒焦げの魔族だったものはボロボロと床に崩れて朽ちた。
「再生するなら丸ごと焼き払うまでよ! ご自慢のペットが形無しで残念なこったなカーラ!!」
だがカーラは俺が魔族を葬ると同時に呪文を唱え初めていた。
それは昨夜俺に使ったのと同じ魔法。
『 アナザー・ディメンション!』
カーラの前方に大きな影が広がる。
そしてその中から人型の魔族がさらに四匹現れた。
「おいおい、まだ居るのかよ! これじゃ餌代もバカにならんだろ!」
どうりで失踪事件が頻発するわけだ。
このペットはコスパが悪すぎるぞ。
「いつの世も輝かしい栄光の裏には犠牲があるものでしょクソジャリ? むしろアタシの糧となれるのなら本望でしょうよ? さぁオマエらもコイツらに貪られながらアタシを称える賛歌を奏でなさいな! キャッハハハ!!」
「グァラァアアアア!!」
カーラの指図で、魔族共が一斉に俺達を襲う。
俺は魔法で、ライアスは剣で応戦するも、この魔族……かなり手強い。
緑色の皮膚は硬く、長い手足を活かした素早い動きは変則的。
おまけに喋りこそしないものの、知能もそれなりにあるようだ。
俺達の戦闘パターンを学習しながら、連携して攻撃してくる。
地味に厄介だ。
「チッ、鬱陶しい! 高出力魔法で一気に片を付けるのが手っ取り早いが……」
《ダメですよリュウ君! この建物にはお客さんや従業員の方が大勢いるんですよ? その人達まで巻き添えになってしまいます!》
これである。
ユーティアはこんな時でも相変わらずの博愛主義ときた。
他人の心配をしている場合かっての!
とはいえ、無闇に建物を破壊するとカーラの逃げ場を作ることにもなる。
蝙蝠になって外に逃げられると捕まえるのは困難だろう。
今はあまり派手な魔法を使わない方が得策なのも事実だが……
仕方がないので俺は低位魔法と肉弾戦で凌ぐ。
一方のライアスの剣技にもキレは無い。
やはり二刀流は本来のスタイルではないのだろう。
おまけに二人共に独立して戦ってるので効率が悪い。
「おい坊ちゃん! 遺憾ながら、スタンダードな戦術が有効と提唱させてもらうぞ!」
「奇遇だな、私もそう思っていたところだ!」
ライアスは剣を十字に構える。
『 ブレイクラッシュ!!』
前方に向けて突如突風が吹き荒れる!
いや、それは突風ではなく空気を切り裂き繰り出されるライアスの無数の剣撃だった。
目にも留まらぬ速度で繰り出されるライアスの攻撃は、カマイタチのように襲いかかる魔族共を切り刻む。
質より量。
広範囲への攻撃を主眼とした技のため、ことさら再生能力のある魔族相手では決定打とはならない。
だがそれでいい。
「リア・アクセルス・ピーク・フィーム・ド・ロザリオン 禁断の聖典に綴られし呪法にて 我ここに闇の雷を召喚する!」
ライアスが迫り来る魔族を撃退している間に、俺は呪文を唱える。
そして俺が詠唱を終えるのを見計らうように、ライアスは後方へと飛ぶ。
『 真 黒 廻 雷 撃 !!』
俺の周囲から放たれた無数の黒雷はもつれ、絡まり、部屋中をうねりながら荒れ狂う。
そして部屋の中央で弾けると、極太の落雷となって魔族共を貫く。
つま~りなんてことはない、スタンダードな戦術とは前衛の剣士に後衛の魔法士と役割分担するオーソドックスな戦い方のことだ。
そしてそのドクトリンをよく理解しているライアスは、即興でも的確に対応してみせた。
さすがはプロの剣士だ。
行動が予測不能、奇想天外なマリオンとではこううまくはいくまいよ。
しかしライアスとこうも息が合ってしまうのは、やはり癪ではあるのだが……
しかしおかげで高位の雷撃魔法を魔族共に食らわせることができた。
雷撃魔法なので建物へのダメージは最小限。
しかし魔族共は黒コゲになり、そのほとんどが戦闘不能。
仮に生きていたとしても、再生にはかなりの時間がかかるだろう。